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ロシアンアレキサンドライト/変彩金緑石
《当館の2020年投稿アイテムいいね!No.1》 ルビーとエメラルドが宝石の女王であるならば、昼夜を統べるこの石はまさしく宝石界の皇帝〈ツァーリ〉。 端正なラウンドブリリアント型に研磨が施された、類稀なるロシア産の裸石です。 不純物として自然添加されたCrイオンにより "黄色と紫色スペクトルの吸収作用" と "青緑と赤橙のスペクトルを均等に反射する性質" が備わった結果、 光源の違いによって明瞭な色彩変化を示すものが『アレキサンドライト』と認められます。 19世紀、ロマノフ朝による統治体制が敷かれていた帝政ロシア。 ウラル山脈のベリリウム鉱床から発見されたこの石は、昼光の下では緑色を纏っていたため当初エメラルドであると思われていました。 しかし夜になり灯火に照らされたことで一転。 新緑が燃え移ろうたような赤色に変わり、まるでルビーのような様相を呈したのです。 鉱物の変色性が現代よりも知られていなかったであろう時代、昼夜で色相を変えるそれは大層神秘的な現象として人々の目に映ったことでしょう。 それに当時のロシアはユーラシア広域に覇を唱える大国。 不凍の港を求め南方へと進出していた只中のことです。 軍装のシンボルであったという "ツァーリグリーン" を想起させる深緑と、昂揚する士気を湛えたかのような深紅の変彩。 斯様にして軍事国家としての状勢を色濃く写していたこの奇石が、第11代皇帝ニコライⅠ世の下へと献上されたことは最早必然だったのかもしれません。 そしてまだ皇太子であった子息『アレクサンドルⅡ世』を讃えた名を授かり、以来ロシア帝国を象徴する誉れ高き宝石として広く知られるようになったのであります。 20世紀の初頭、王朝はロシア革命により滅亡してしまいます。 しかしこの石だけはそのような悲劇に見舞われることもなく多くの人々から愛され続け、今や五大貴石の一角として栄華を極めているのです。 ***Reirei Paint Art様より作品のモデルにして頂きました!*** https://muuseo.com/ReireiPaintArt/items/372 https://muuseo.com/tezzarite/items/114
宝石 鉱物標本 8.5 2019年テッツァライト
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クリソベリル・キャッツアイ/金緑石
半球形の研磨を施すことにより、猫目の光学効果『シャトヤンシー』が露わとなった蜂蜜色のクリソベリルです。 明瞭な猫睛光が、絶妙なまでに猫好きの琴線を刺激してきます。 目にした者を射竦めるかのような眼力が備わっているためでしょうか。 原産地であるスリランカにおいては魔除けの石として扱われてきたと聞きます。 鉱物の世界において何らかの石の名前に接尾することなく単に “キャッツアイ” と言った場合、大抵はこの金緑石のものを指しています。 今日では猫目効果を示す鉱物が数多く発見されていますが、それでもなおキャッツアイと言えばクリソベリルというイメージは根強いと思います。 そのようなイメージが無意識にあったのかもしれませんが、私が初めて手にしたキャッツアイもやはり金緑石のものでありました。 着色因子である微量元素(Fe)がやや多く含有されているためか、この石はブラウン寄りの黄色を呈しています。 淡くさっぱりとした檸檬色のクリソベリルも素敵ですが、地の色が濃い分だけ「ハニー&ミルク」が際立つので個人的にはこれくらいコク深く濃厚な方が好みです。 #クリソベリル
宝石 鉱物標本 8.5 2012年テッツァライト
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パロットクリソベリル/金緑石
インド南東部に位置するオリッサ州・チンタバリ鉱山で産出する特別な金緑石です。 この石は1997年~2003年という、ごく僅かな期間しか採掘されませんでした。 そのため新しい原石が供給される望みは殆どなく、現在の流通品やストックで最後と言っても過言ではありません。 クリソベリルはギリシャ語の“金色/chrysos”を語源とするだけあってライトイエローが持ち味の鉱物ですが、その中でも特に異彩を放っているのが、この『パロットクリソベリル』ではないでしょうか。 接頭のパロットは“オウム/parrot”という意味。 その名の通りオウムの体色を思わせるストロングトーンの緑が特徴であり、蛍光していると錯覚してしまうほどの高彩度を誇ります。 ちなみに鳥類を含め一部の動物の中には、繁殖期を迎えると異性の目を惹くための『婚姻色』を纏う者たちがいます。 もしこの石の放つ色がその婚姻色なのだとしたら、その目的は一人でも多くの人間を惹きつけることなのだと思います。 私はすっかり魅了されてしまったので、彼らの目論見は上手いこと達成されたのでしょう。 #クリソベリル
宝石 鉱物標本 8.5 2015年テッツァライト