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アルマンディンガーネット/鉄礬ざくろ石
1月の誕生石として知られる鉱物ですが,それゆえに一括りにされがちなガーネット。 ガーネットと一口に言ってもその種類は多岐に渡ります。 その中でもこのアルマンディンは鉄とアルミニウムを主成分とする品種で、ガーネット族の中ではポピュラーな存在。 特に断りなくガーネットと言った場合、このアルマンダインを指していることが多いと思われます。 こちらはミャンマーのモゴクで産出した二十四面体の結晶。 結晶形が非常に理想的で、24あるすべての面がほぼ明瞭かつ判別可能です。 鉄分により暗色がかっているとはいえ宝石質の透明結晶はやはり美しく、まさしく果肉に包まれたザクロの種子と見紛うばかりに見事なものです。
宝石 鉱物標本 7.5 Fe₃Al₂(SiO₄)₃テッツァライト
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アンダルサイト/紅柱石
アンダルサイトはシリマナイトおよびカイヤナイトと同質異像の鉱物です。 すなわち他の2種と化学組成は共通するものの、高温低圧の環境下で生成されるためまったく異なる姿をしています。 アンダルサイトは一見すると褐色がかった鉱物であり、青色麗しいカイヤナイトらと比較すると暗く地味な印象を受けます。 しかし光に透かすと姿は一転。 ある方向から見るとオレンジ色に、また別の方向か見ると黄緑色に、といったように光の透過する方向によって色味を変化させる面白い特性を秘めているのです。 この性質を「多色性」といい、3種の中では最も顕著な色変わりを呈します。 こちらアンダルサイトはトリオの中では最も小さいですが有意な多色性で存在感を示しています。 結晶を径方向から照らすとグリニッシュに、そして軸方向から照らすと『紅柱』の名に相応しいレディッシュブラウンを披露してくれます。
宝石 鉱物標本 7.5 Al₂SiO₅テッツァライト
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ロージルコン/風信子石
ジルコンはジルコニウムを主成分とする宝石鉱物ですが,不純物としてウランやトリウムを含みます。 そのため放射線測定器に感応し,放射性崩壊によるα線やβ線の放出が活発に行われていることが判ります。 ウランおよびトリウムの崩壊により放出される放射線はなんとジルコン自身を侵し,さながら内部被曝を受けているかのように結晶構造を破壊します。 この現象をメタミクト化と呼び,すなわち原子配列が失われガラス同然の物質に変異してしまうのです。 こうして結晶構造が蝕まれたジルコンは光学特性が変化し,例えば屈折率は低下し,宝石として光り輝く力が失われてしまうのです。 さらに耐久性にも難が生じ,このように性質が低下したジルコンのことをロータイプと呼び区別されます。 思えば輝きが鈍ることは宝石として極めて致命的であり,このジルコンという鉱物には哀愁すら感じてしまいます。 ですが私はこの重大な欠陥を抱えた幸薄いロージルコン結晶が堪らなく好きです。 派手さとは無縁な,しかし光に透かすと見るものを引き込む暗緑色。 水磨作用により擦り切れているものの正方晶系らしさを残した結晶形。 イイです実に素敵です。 傷みを知る者にしか出せない味ってあると思うんですよね。
宝石 鉱物標本 7.5 2021年テッツァライト
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ユークレイス/ユークレース
端正な形状と見事な透明度を誇るユークレースの結晶です。 エメラルドやアクアマリンの属する「ベリル」とは組成が近似しているため、一説にはそれらから派生した鉱物であるとされます。 しかし六角柱の結晶系からなるベリル群とは異なり、ユークレイスの結晶は剣の切っ先のような形状を成すのが特徴です。 この鉱物の特筆すべき点は、やはり明瞭な劈開性にあるでしょう。 Euclaseという名称も、まさにこの劈開に因んだ命名であり、その成立ちは "安易に割れる" というギリシャ語の合成語(eu+klasis)に由来します。 この致命的な欠陥のために衝撃に対しては大変弱く、一般的な宝飾用に据えられることは殆どありません。 淡く儚げな水色に劈開性ゆえの危うげな雰囲気を纏わせていることから、その姿はさながら薄幸の麗人であります。 "佳人薄命" という言葉がありますが、たしかにその通り。 美しいものほど脆く繊細で、そして数奇な運命に見舞われるという通説は、どうやら人も鉱物も同じようです。
宝石 鉱物標本 7.5 2013年テッツァライト