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トパゾライトガーネット/灰鉄ざくろ石
ガーネットとしては「灰鉄柘榴石」という品種に属するため、先に投稿していたデマントイドとの色違い種にあたります。 https://muuseo.com/tezzarite/items/75 あちらの鮮やかな翠色はCrに起因するものですが、このウィスキーのように芳醇な琥珀色はFeに由来しています。 デマントイドがダイヤモンドの如きざくろ石であるなら、こちらは "トパーズの如き" ざくろ石。 topazoという語が入っている通り、黄褐色で透明な外観が彼の石を思わせることから『トパゾライト』とも呼ばれるガーネットです。 イエローアンドラダイトと呼称すべきとの主張もありますが、黄玉に親しみを覚える身としてはこの呼び名の方が好きです。 こちらのトパゾライトはウラル山脈の蛇紋岩帯から産出した個体であります。 そのため、やはりと言うべきか結晶内部に蛇紋石系アスベストであるクリソタイルの繊維を取り込んでいる様子が確認できました。 画像3枚目に見られるような針状の結晶がそれです。 こういった結晶の外縁部位に存在するインクルージョンは、恐らく研磨加工する過程で除去されてしまうのでしょう。 宝石らしい輝きや分散光は磨かなければ拝めませんが、原石の状態でなければ観察できない光景があることも忘れてはなりませんね。
宝石 鉱物標本 6.5~7 2015年テッツァライト
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ダイアスポア・ツイン/ズルタナイト
二つの結晶が結合成長した「双晶」という形態のダイアスポアです。 高熱に曝されることで脱水し、細々と砕けてしまう性質を持っているため「四散」を意味するギリシャ語“diaspora”から命名されました。 一般的にあまり耳にする機会のない石でありますが、アルミニウム鉱石であるボーキサイト中に本種が含有されていることから、巡り巡って姿を変え、我々の生活に溶け込んでいる身近な存在と言えるのではないかと思います。 コランダム(ルビーとサファイア)と近しい化学組成を持つほか、高品位なものは研磨が施され『ズルタナイト』という商品名で流通する宝石でもあるのです。 一部の、特にトルコで産出するダイアスポアの中には変彩性をもつ個体がいるようで、使用する光源の種類によってアレクサンドライト顔負けのカラーチェンジを目にすることができます。 このV字型の彼もそうです。 平常時の蛍光灯から、火明りの白熱光へ切り替えることで色相が反転。 慎ましい青緑色だったものが、花薫るロゼピンクや上品なワインレッドへと装いを変じるのであります。 極めつけにブラックライト。 紫外線を照射することで、ルビーの如く明瞭な赤色蛍光を発するのでした。 カラーチェンジ石における価値で言えば、本家には到底敵わないでしょう。 しかしこの石のように明瞭な形状と透明度を兼ね備えた原石ともなると、例えアレクサンドライトでもそうそうお目にかかれるものではありません。 かの皇帝の宝石でも叶えられない美しさが、この鉱物には備わっているのであります。
宝石 鉱物標本 6.5~7 2019年テッツァライト
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デマントイドガーネット/灰鉄 "翠" ざくろ石
ダイヤモンドの如き分散光を放つガーネット『デマントイド』の菱形十二面体です。 上記のような化学組成を有することから、ガーネットとしては「灰鉄ざくろ石」と呼ばれる品種に属しています。 そのため微弱ながら磁性を有しており、ネオジムほどの強力磁石であれば容易く吸着させることができます。 数あるガーネット族の中では硬度が最低級であり、場合によっては宝石の基準とされている水晶よりも下回ってしまうため宝飾用としてはやや不適格とも取れるかもしれません。 が、そうである反面「分散度」というパラメータはすべてのガーネット、延いてはあらゆる鉱物と比較してもトップクラス。 果てはダイヤモンドのそれを凌駕する数値を誇っていることから、前述の欠点を補って余るほどの品格がこの柘榴石には備わっているのであります。 彼の結晶面には揺らめく流紋のようなテクスチャが見られるのですが、これがまた古風なステンドグラスのようでなんとも小洒落れた風合いを醸し出しています。 この小窓から内部を覗いてみますとやはり『ホーステイル』の姿が確認できました。 これはデマントイド特有かつロシア産に多く見られる特徴で、アスベスト鉱物の一種であるクリソタイルが繊維状に内包されたものであります。 https://muuseo.com/tezzarite/items/73 研磨すればもっと鮮明に観察できるかもしれませんが、せっかくの自形結晶ですので加工せずこのままの形を残しておきたいです。
宝石 鉱物標本 6.5~7 2013年テッツァライト
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デマントイド・ラウンドブリリアント/灰鉄 "翠" ざくろ石
微量のクロムが紛れ込むことで帯黄緑色に染まったアンドラダイトガーネットが『デマントイド』です。 ガーネット族の中では耐久性(硬度)でやや劣る本種でありますが、ある一点で傑出した特徴を備えていることからの彼らの頂点の座に就いた鉱物であります。 著名な産地としては発見地でもあるロシアのウラル地方が挙げられます。 かつては同地で産出するエメラルドに準えられ "ウラリアンエメラルド" という異名を与えられていました。 石の内部に見られる極細毛はクリソタイルという鉱物の繊維状結晶、すなわちアスベストです。 まるで尻尾の毛先のように見えることから『ホーステイル・インクルージョン』と呼ばれているもので、特にロシア産に多く見られる特徴であります。 画像2枚目以降でも植物の綿毛のような物体を確認できますが、実はこれもすべて鉱物の結晶です。 繊維状の部分はアスベストで間違いありませんが、その根本に見られる黒色の粒はクロム鉄鉱の粒状結晶と思われます。 通常、肉眼で確認できるほどの内包物は美観を損なうとして忌避されるものでありますが、このデマントイドにおいては価値を高める要素として歓迎されているのです。 デマントイドはしばしば "ダイアモンドの如き輝きを持つガーネット" と評されることがありますが、これは「分散度」という光学的性質が格段に強いため、ギラギラとした虹色の光輝が顕著に現れることに由来します。 その度合を具体的な数値にして比較すると、ダイアモンドが0.044であるのに対しこちらはその上を行く0.057。 これこそが「ガーネットの王」たる所以。 "~の如き" どころか実際は本家すら上回っており、ガーネット族はおろか数ある宝石の中でも高位の輝きを放っているのであります。 https://muuseo.com/tezzarite/items/75
宝石 鉱物標本 6.5~7 2012年テッツァライト