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月のおさがり/オパール化した巻貝
このスパイラル蛍光管のような物体は岐阜県瑞浪市月吉の特産として知られている化石です。 元となったのはビカリヤという巻貝ですが、貝殻が消失したことで内部の螺旋構造のみが残置されるという、謂わば鋳物を製造するようなプロセスで形成されました。 化石化の過程で巻貝の空洞がケイ素質により満たされているため、この螺旋全体がオパールあるいは玉髄で構成されています。 ここで言う「おさがり」は排泄物…すなわち糞のことを指しています。 従って名前の意味は《月の糞》です。 普通おさがりと聞くと「譲りもの」とかそういった意味だと考えてしまうので衝撃でした。 昔の人々はこれを月神が用をたした痕跡と捉えたようで、とぐろ状の物体を雲地に例える風流なセンスには感心せざるを得ません。
化石 鉱物標本 SiO₂・nH₂O 岐阜県テッツァライト
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バルティックアンバー/アゴダチグモ入り琥珀
太古の松柏類の樹液から揮発成分が抜け、硬化することで誕生する有機鉱物。 そこはかとなく薫る芳香で古代の生物たちを虜にし、現代に至ってもなお多くの人々を惹きつける甘美な宝石です。 それら中でも北欧のバルト海で産出する琥珀が『バルティックアンバー』であります。 その主たる起源はロシアのカリーニングラード州に存在する約5500万年~3500万年前の地層にあるのですが、そこから人の手に渡るまでの過程が実に情趣的。 波の浸食により地層に含まれている原石が浚い出されて海を漂流。 それがやがて浜辺に打ち上げられ、"シーアンバー"として拾い上げられる…というこの上なくロマンティックな琥珀なのであります。 そのためカリーニングラード州を始めリトアニアやポーランドといった沿岸各地では琥珀が特産品に挙げられており、今日まで数多くの良質な琥珀製品が世に送り出されてきました。 元となった樹種の影響によるものか、他地域の琥珀よりも多い3~8%のコハク酸を含んでいることもバルティックアンバーの特徴であります。 さて、私の手にあるこの琥珀についてですが、内部に目をやると何やら奇怪な生物が閉じ込められていることが分かります。 ペリカンのクチバシのように張出した鋏角や、不自然な位置関係にある頭部… "アサシンスパイダー"とも称される異形のクモ『アゴダチグモ』のArchaea paradoxaという個体です。 このアゴダチグモ、異質なのは姿だけではありません。 なんと《他の蜘蛛を捕食する》という恐るべき生態が知られているのです。 https://www.youtube.com/watch?v=kF7_HS_sihI 彼らはいったい何のために同族を狩るのか。 その意図が伺い知ることができないだけに非常に興味深く、不気味ながらもその美しい姿に注目せずにはいられません。
化石 宝石 鉱物標本 2~2.5テッツァライト
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久慈琥珀の腕時計/シチズン製アンバーウォッチ
久慈琥珀博物館の運営体「株式会社 久慈琥珀」と、国内メーカでお馴染みのシチズンによるコラボ商品のひとつ。 正方形ドーム型の琥珀があしらわれたステンレス製の腕時計です。 白蝶貝の文字盤にはソーラーセルが内蔵されているため電池交換は不要。 日光はもちろん、蛍光灯の光だけでも充電されるため普通に生活している中で電池切れに陥ることはまずありません。 石は4つともすべてが『岩手・久慈産』の天然品。 "太陽の石" とも呼ばれた鉱物なだけあってか、このエレクトラム色の金属ボディとの親和性はとても高く感じられます。 また本琥珀なのでブラックライトを照射することにより青白い光を発します。 陽光を受けて輝く琥珀がとても甘美でなおかつ実用的。 使ってよし、眺めてもよし。 おまけに隠しギミックとして蛍光性も備わっているという何とも充足感ある一品なのでした。 #琥珀
化石 宝石 時計 鉱物アイテムテッツァライト
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バーマイト/3種の虫入り琥珀
太古の松柏類の樹液から揮発成分が抜け、硬化することで誕生する有機鉱物。 人類史においては長きに渡り装身具に用いられてきた、黄金色の甘美な宝石です。 その中でもミャンマー北部に位置するカチン州・フーコン渓谷という場所で産出する琥珀を『バーマイト』と呼びます。 この地で採れる琥珀は他と比較して年代が古く、他国産の多くが約2500万年~6000万年であるのに対し1億年にまで遡る個体も存在します。 多くの琥珀がそうであるように、このバーマイトの中にも太古の生物たちの姿を見ることができました。 画像1枚目は「羽虫」。 アリやハチようなの姿をしており背中には一対の翅が生えています。 翅の状態も然ることながら触角も綺麗に残っており、節の構造ひとつひとつまで鮮明に確認することができます。 画像2枚目は「多足類」。 足の数が5~6対しかなく体長も小さいことから、ゲジゲジの幼体であると思われます。 ところどころ足が切離していますが寒気立つようなシルエットは健在で、顔部には偽複眼も確認することができます。 画像3枚目は「甲虫類」あるいは「網翅類」。 背面には外骨格か翅を纏っていますが、全体が半透明であることから翅であると思います。 不鮮明ですが頭部からは長い触角らしきものが生えている・・・と思っていましたがよ~く目を凝らすと繊維のようなものが重なっていたためそのように見えていただけでした。 頭部には複眼、腹部には節があり、尾部はやや尖った形状であることが確認できます。 画像4枚目はクモヒトデのような謎の物体。 詳細は不明ですが似たようなものがナショナルジオグラフィックに掲載されていました。 どうやら植物の一種であるようです。 https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/2514/ 初めは1種類しか入っていないものと思っていましたが、注意深く観察した結果このように複数種の生物たちが閉じ込められていることが分かりました。 彼らは皆、甘い蜜を吸いに集まったところ逆に樹液に飲まれてしまったのでしょうか。 休息のつもりが永遠の眠りとなってしまった彼らですが、全身を甘くとろけるような飴色に包まれさぞや本望であったと願わずにはいられません。 #琥珀
化石 宝石 鉱物標本 2~2.5テッツァライト
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エンロール・アカストイデス/防御態勢の三葉虫
三葉虫は古生代における代表的な示準化石。 すなわち、その化石が産出した地層の年代を特定するうえで指標となる生物群です。 堅固な背甲と体節を持っているため、カブトガニやムカデなどと同じ節足動物でありました。 彼らはカンブリア紀に出現して以降、目覚ましい分化を遂げ、大量絶滅の発生したペルム紀まで綿々と命脈を繋ぎ続けました。 彼はその中でもデボン紀に生息していた『ファコープス』なる系統の個体で、多数の個眼からなる大型の集合複眼を備えているのが特徴です。 特に鉱物化していない素の化石ではありますが、彼の特筆すべき点はそのポージングにあります。 頭部と尾部を限りなく近づけ、弱点である腹部を隠すかのような防御態勢を取っているのです。 三葉虫といえば水底を這い蹲る扁平な姿が一般的に想像されますが、その身体構造は意外にもフレキシブル。 特定の種においては胸部関節の干渉が少ないため自由度の高い屈曲が可能となっており、球形態への移行もスムーズに行われるのです。 もちろんこのファコープス目も、そのような能力に長けていました。 こちらは全体的な状態も良好で、体節はもちろん複眼の凹凸など、各部のディティールが生前さながらに保存されています。 何よりもその丸まった姿は今も生きているようであり、ただの化石であることを忘れて愛らしさすら感じてしまうのです。
化石 2019年 モロッコテッツァライト
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オパライズドクラム/オパール化した二枚貝
これぞ正しく "貝の火"。 白亜紀に生息していたとされる二枚貝が化石となり、ライトニングリッジの地でオパール化したものです。 一部に欠けこそ見られますが圧壊することなく立体形が保たれており随所に二枚貝らしい名残も留めています。 特に表面の凹凸模様や蝶番の状態は克明そのものであります。 一見すると単なるメノウ化貝化石のようにも見えますがそこはオパール。 角度を変えれば遊色が確認できますし、水で濡らせば赤い干渉光まで現れます。 オパールは極微小なシリカ球が積層することで生成される鉱物。 そして遊色効果は、それら粒子が『長い年月をかけ』『静かに』『整然と』配列することで初めて顕現する現象です。 もし地震などの外乱の多い環境であればこの生成過程が大いに搔き乱されてしまい、美しい遊色は望めなくなります。 化石化に至る過酷なプロセスと、オパールの生育に不可欠な穏やかな環境。 この両極的な生成条件をクリアした彼らこそ、地球の生み出す奇跡なのではないかと思います。 一体どのような徳を積めばこんな宝石に転生することができるのでしょうか。 私も一生を終えたらオパールになりたいものです。 #オパール
化石 宝石 鉱物標本 5.5~6.5テッツァライト