昭和11年(1936)年賀切手「富士」カシェカードコレクション

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 世界で初めて年賀切手を発行した国は日本である。それ以前に、パラグアイは"1932年の新年には幸せんな出来事がありますように"という意味の言葉を既存の切手に印刷した例はあったが、最初から年賀の目的で切手を印刷したのは、わが国であった。

 その記念すべき切手こそ、ここにお届けする昭和11年年賀切手「富士」である。昭和10年12月1日に発行され、額面は1銭5厘。図案は渡辺崋山筆「富嶽の図」から採られており、昔風の松竹梅模様を輪郭として使っている。

 渡辺崋山(1793~1841)は、江戸後期の洋学者、画家。谷文晁に師事し影響を受けるも、やがて西洋画に興味をもち、その描法を採り入れて独自の様式を確立。天保3年(1832)に家老となって藩勤に精励したが、一方で蘭学に関心を抱いて高野長栄(1804-50)らと研究会を組織。蛮社の獄で逮捕され、自刃した。

 昭和11年といえば、だれもが思い出すのはが2月26日の「ニ・ニ六事件」である。未明の雪の帝都で、皇道派の陸軍青年将校21人が歩兵1、3連隊、近影第3連隊の1453人を率いて要人を襲撃し、東京永田町一帯を占拠した。国民を震撼させたこのクーデターは2月29日に収束したが、事件後、陸軍は政治への介入を一層深めることになる。実に、わが国が軍国体制は敷くターニングポイントとなった出来事であった。事件の最後の段階で、帰順勧告ビラ「下士官兵ニ告グ」が飛行機からまかれたが、その中にある「兵に告ぐ」と「今からでも遅くない」の文言は、この年の流行語となった。

 明るい話題もあった。この年にベルリンで開かれた第11回オリンピック大会で、200メートル平泳ぎで前畑秀子が優勝。彼女の力泳ぶりを実況放送中、興奮したアナウンサーが思わず発した「前畑ガンバレ」の声援は、今でも語り草になっている。海外では、イギルスのエドワード8世(ウィンザー公)が王冠を捨て、愛するシンプソン夫人を選んで話題となった。

カシェカード挿絵=藤井厚志

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