究極の革をもとめて、東京レザーフェアへ! 撥水(はっすい)レザーから馬ヌメまで、「極めのいち素材」の上位入賞革を徹底紹介!

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取材・文/ 野口 武

半年に一度2日間にわたって開かれる東京レザーフェアは、全国の皮革業者が集う革の祭典だ。今回は、革にまつわる趣向をこらしさまざまなイベントや展示が行われる、第93回東京レザーフェアに取材を敢行した。その中で、革業者がこだわり抜いた渾身の一枚を競い合う、「極めのいち素材」に注目した。

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究極の一点を提案する「極めのいち素材」

東京・浅草で開かれる東京レザーフェア。会場に一歩踏み入れると、革、革、革……。革の祭典にふさわしい、革のオンパレード。皮革業者が各ブースで革を展示するのはもちろん、若手デザイナーとコラボレーションしたファッションショーや、革のデザインコンテストなど、さまざまな趣向をこらした取り組みを行っている。

その中で注目したのは、「極めのいち素材」だ。日本の革業界をリードする革問屋やタンナー、染革所などが、プライドをかけた究極の一点を提案する革のコンテストだ。

出品された29点の革は、当日の来場者が、見て、さわって、気に入ったものに投票していく。来場者も、目の肥えた革関係者が多い。厳しい目を持ったプロたちに選ばれた上位入賞革を、今回は紹介していきたい。

革好きの人は、最先端の革トレンドがわかるとともに、革の世界観がさらにディープに広がることだろう。また、革物が好きという人は、革製品の見方が深まるとともに、進化を続ける革素材の可能性の一片を感じてもらえればと思う。

「極めのいち素材」のブースには、皮革業者が出品した革が並ぶ。皮革業者のプライドかけた戦いが繰り広げられた。

「極めのいち素材」のブースには、皮革業者が出品した革が並ぶ。皮革業者のプライドかけた戦いが繰り広げられた。

出品されたアイテムは、天然皮革を中心に、生地や織物、副資材(機能性素材やパーツ)なども並んだ。

出品されたアイテムは、天然皮革を中心に、生地や織物、副資材(機能性素材やパーツ)なども並んだ。

3位 革加工の粋がつまった和の極上革『PAXステップ13KCO』  墨田革漉工業

日本の誇るピッグスキンを使った、和モノに合いそうな革だ。革漉き業者ならではの卓越した加工技術を駆使した存在感ある一枚に仕上がっている。

日本の誇るピッグスキンを使った、和モノに合いそうな革だ。革漉き業者ならではの卓越した加工技術を駆使した存在感ある一枚に仕上がっている。

まずは3位の革から。この革を作ったのは、1952(昭和27)年、東京都墨田区で創業した墨田革漉工業株式会社だ。微妙に厚さの異なる革をけずって同じ厚さに整えるのが、革漉きという仕事だ。素材にもよるが、0.3mmの薄さまでスライスすることが可能だという。一枚一枚厚さが異なる皮を、同じ厚さにそろえるのは、革の製造工程の中で、もっとも職人技が求められる工程といえる。

特筆すべきは、ナイフをつかったカット技術だ。日本ではここでしかできないという、墨田革漉工業が誇る特殊な加工法だ。専務の佐藤元治さんは、今回出品した革について話してくれた。
「使用したのは、地元のタンナーによる、環境にやさしいエコレザーのピッグスキンです。花柄を転写プリントし、型押しをした上に、金の箔(はく)をちりばめました。さらに、ナイフによるカッティングで生地目を表し、革でありながらも、まるで織物のような素材感を狙って作りました」

革の表面をよく見てみると、型押しのくぼみとは別に、ナイフによるうっすらとした線が全体に入る。革の重厚感を持ち合わせながら、同時に、着物の生地であるかのような、繊細な表情も持っている。革加工の粋を集めて作られた極上の革といえる。

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こちらは、墨田革漉工業が前回出品した「ステップヘッジホグV6A」。このとき、見事1位を獲得している。ピッグスキンに花柄を転写プリントし、銀の箔(はく)をちりばめ、革の表面全体を細くナイフで削いで、切り落とさずに残している。革の表面を触ると、カットした部分がフサフサとした手触り。

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墨田革漉工業

創業70年、大正の初期に革を漉く加工業からスタート。日本ファッション産業の中心である東京とピッグスキンの生産地墨田区という立地を生かし、皮革の色々な表面加工に取り組んでいる。
微妙に厚さの異なる革をけずって同じ厚さに整えるのが、革漉きという仕事であり、素材にもよるが、0.3mmの薄さまでスライスすることが可能だという。
ナイフをつかったカット技術は日本ではここでしかできないという、墨田革漉工業が誇る特殊な加工法である。

2位 百枚に一枚の希少な馬ヌメ革『HORSE NUME NATURAL』 有限会社松岡商店

傷の多い馬革で、ここまで肌目の美しいものは、なかなか手に入らないという。あえて全体にシワを作ることで、立体感を生み出している。

傷の多い馬革で、ここまで肌目の美しいものは、なかなか手に入らないという。あえて全体にシワを作ることで、立体感を生み出している。

2位を受賞した、大阪にある有限会社松岡商店は、革卸し業者でありながら、同時に姫路になめしの工場を持つタンナーでもある。牛、鹿なども扱うが、特に得意とするのが馬だ。代表の松岡朋秀さんは、今回の革についてこう話す。
「馬革の特徴は、牛革とくらべて、きめが細かく、触ったときも肌目がやさしいことです。ただし、馬は放し飼いが多いので、傷がとても多く、あまり革として多くは使われないんです。使ったとしても、表面の傷を隠す加工をほどこして使われます。そんな中で、きめが細かい自然の馬革本来の風合いにこだわって作ったのが、この革なんです」
 
革の制作手順はこうだ。ヨーロッパで育った馬の原皮を仕入れて、姫路でタンニンなめしをほどこして革にする。その中で100枚に1枚あるかないかの傷の少ない馬革を選別。その革の表面の質感を大事にしながら、黒の染料でほんのりと染めあげて(アニリン仕上げ)、保革のため表面にうっすらワックスやオイルをつける。できるかぎり革の表面にお化粧はせず、革本来の質感を大切にしている。最後に、手作業で革をもんでシワを出し、ボリューム感や立体感を演出している。
「馬革ならではの緻密な肌目を最大限に出した、高級感がある一枚です。写真で例えれば、とても解像度が高い、粒子のつまった革。タンニンなめしなので、使うほどに、馴染み、味もでていきます」

美しい肌目を持ちながらも、傷が多すぎて作れない馬のヌメ革。馬革の中から選りすぐられた、傷の少ない希少な一枚から作られた、まさに幻の革といえる。

1位 水という最大の弱点を克服した『撥水ヌバック』 フジトウ商事株式会社

水をはじくという、新しい機能を持つ革。帽子、ジャケット、靴などとの相性も良さそうだ。この発色のいいカラーの追求も試行錯誤があったという。

水をはじくという、新しい機能を持つ革。帽子、ジャケット、靴などとの相性も良さそうだ。この発色のいいカラーの追求も試行錯誤があったという。

1位を獲得した、東京浅草に店を構えるフジトウ商事は、1921(大正10)年創業の歴史ある革問屋だ。浅草の店では、一般にも革を小売している。今回出品した「撥水ヌバック」は、革の弱点をおぎなう画期的なもの。同社営業部の坂田孝さんにうかがった。
「革は、水に弱い素材です。水にふれると、やけどのようにふくれたり、染みになってしまいます。お客様からも、水に強い革はないかというご相談をいただくこともありましたが、なかなかお応えすることができなかった。ようやくたどりついたのが、今回出品した撥水ヌバックです」

これまでも、革の表面をコーティングすることで、水をはじく革はあったが、そもそもの革らしい表面の風合いがなくなってしまう。革用の防水スプレーもあるが、一時的に革の表面に膜を作るもので、一過性のものだ。
「今回の撥水ヌバックは、革を作るなめしの工程から、撥水機能をもたせる加工をほどこしています。革の表面をけずって、起毛させたヌバックにすることも、実は意味があります。毛が立った部分が、水滴を支えるようにして、より水をはじきやすい構造が実現したのです」

このようにして誕生したのが、革の手触り感や風合いをそのまま残しながら、水をはじく機能をもった「撥水ヌバック」だ。ただし、防水ではなく、あくまで撥水なので、ミスト状の水や、水圧の強い水などは防ぎきれない。しかし万能ではないものの、従来の革の弱点をおぎなってあまりある、新しい付加価値を持つ革であることは間違いない。

ヌバックの起毛した部分が、水滴を支えるようにして水をはじく。

ヌバックの起毛した部分が、水滴を支えるようにして水をはじく。

ペットボトルの水をこぼしても、水が染み込まない撥水性。

ペットボトルの水をこぼしても、水が染み込まない撥水性。

番外編 斬新な加工のダメージレザー『渋山水 牛脂』 株式会社オールマイティ

絶妙な深みのあるダメージ加工をほどこした革。ここからどんな製品が生まれるのか。デザイナーやクリエイターの感性を刺激する革といえる。

絶妙な深みのあるダメージ加工をほどこした革。ここからどんな製品が生まれるのか。デザイナーやクリエイターの感性を刺激する革といえる。

「極めのいち素材」に出品された革から、もう1点、独断と偏見で紹介させてもらいたい。今回出品された革は、美しい革もあれば、機能性を追求した革もあり、どれも甲乙つけがたい優れた革ばかりだった。その中でも、常識にとらわれることなく、斬新な加工をほどこした、独自路線を突っ走る孤高の革があった。

この革を出品した株式会社オールマイティは、「常に新しい革を作る」ことを理念に掲げている姫路にあるタンナーだ。さまざまな革新的な革をこれまでてがけてきたが、今回、極めのいち素材に出品した革「渋山水 牛脂」も一筋縄ではいかない。材料や作業工程を見てみよう。

北海道の道産子中牛の皮を、渋なめし(タンニンなめし)した革をベースにして、再なめし、染色、加脂など、いくつもの手をかける。さらに、牛脂だけで温度を加えて数時間かけてなめす。最後の仕上げには、亜麻仁油(あまにゆ)をスプレーし、革の表面をこすって磨くグレージングをほどこして、最後にアイロンをかけている。

初めて聞く斬新な数々の工程と、ものすごい手間暇をかけて、この一枚の革が作られている。表情、色の深み、ボリューム感など、独特の世界観を持つ革だ。

レザーフェアで、厚さ0.1ミリの最薄革を発見!

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もうひとつおまけに、極めのいち素材以外で、気になった革をひとつ取り上げたい。さきほど紹介したオールマイティが、2015年に経済産業省製造産業局長賞を受賞した革だ。この革は、レザーフェアの兵庫県ブースに展示されていた。なんと、この革は、厚さ0.1ミリに全体が均一に仕上げられている極薄レザー。しかも、高度ななめし技術によって強度もしっかり保たれているというから驚きだ。どんな製品に活用されていくのだろうか。今後が楽しみな革だ。

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東京レザーフェアの「極めのいち素材」には、個性あふれる革が出品され、日本の技術の高さや、革業界の新しい息吹を感じることができた。その一方で、たとえ新しい斬新な革を作ったとしても、必ずしも売上に結びつかなかったり、使う用途がそれほど広がらないという問題も抱えているようだ。新しい革素材への挑戦を、アパレル業界はもちろん、その他さまざまな業界と連携しながら支え、活性化させていくことが求められている。

ーおわりー

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公開日:2016年2月6日

更新日:2022年6月27日

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野口 武

編集者・ライター。大学時代にバックパッカーとして旅する。編プロ・出版社に勤務し、ガイドブック、革などのグッズ系、インテリアなどの本を手がける。現在、編集プロダクションJETに所属し児童書を中心に多岐の本を制作。また、2015年には株式会社まる出版の立ち上げに参画。リアル遊びメディア『Playlife』の公式プランナーで100万PVを超える。著書に被災地等を取材した『タオルの絆』(コープ出版)がある。

終わりに

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革を作る製造方法は、まるで錬金術か何かを見ているような、独創的な加工や調合で作られていることがわかった。簡単には真似できない、職人の卓越した技術や、日々の研さんによって、新しい革が生み出されている。この革がどんな製品として、世の中に受け入れられていくのか楽しみだ。デザイナーやクリエイターの腕の見せどころといえるだろう。

次回は、エキゾチックレザーの専門タンナー・藤豊工業所を訪れ「エキゾチックレザーの世界」を紹介します。

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