「一手間から『楽しみ』を再発見して欲しい」間中さんの想いが詰まったハンカチブランド「H TOKYO」

取材・写真/山川 譲

昔から映画や音楽、バイクが好き。でも、「なぜ?」と聞かれると困ったもので。気付いたら考えていたので「好き」、「なぜ好きか」は考えたことがない。本連載では、僕が好きなモノの作り手さんにお話しを聴いて、「なぜ好きか」に迫り、
モノが持つ魅力を見つけていきます。今回はハンカチブランド「H TOKYO」を展開しているオールドファッション株式会社の代表取締役 間中伸也さんにお話しを伺いました。

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H TOKYO(エイチトウキョウ)は、デザインを気に入ってすぐに購入。人生で初めてハンカチを買いました。どのハンカチも魅力的なので、ちょっとしたプレゼントでも利用しています。

H TOKYOから「楽しみ」を見つけて欲しい

間中さん(以下、敬称略):山川さんはどこでうちを知ったんですか?

山川:ネクタイ屋さんかな。ふと見たらお洒落なハンカチがあったので、すぐに購入してしまいました。

間中:どんなところが気に入ったんですか?

山川:デザインですね。あまり見かけない柄だなって思ったんです。

間中:手触りとかは気になりました?

山川:買うときは気になりませんでしたけど、リネンなど馴染みのある生地以外に、撚り杢(よりもく)など見たことがない生地もあるので、気にするようになりました。

◆撚り杢◆

撚り杢とは、異なる色の糸を一本の糸に撚り合わせて、織られた生地のことを言う。

間中:デザイン、素材、品質、この三つを大事にしているんです。それが伝わったのなら嬉しいです。

山川:ハンカチで代表的なブランドとかってあるんですか?

間中:実はあんまりないんですよ。市場に出回っているハンカチは、百貨店や量販店のライセンスブランドを除いてしまうとアパレルブランド、雑貨店が小さく展開しているぐらいです。

山川:確かに「ハンカチ」で浮かぶブランドってないかも…間中さんはなぜハンカチに興味を持ったんですか?

間中:元々はシャツが好きだったんです。初めてオーダーしたシャツを着たとき、「シャツを着た」って感覚がありました。それまでのシャツは「ブランドに着させられていた」ように思えたんです。

山川:ふむ

間中:体型に合わせるほか、糸番手(糸の太さ)や織りで異なる表情を持つ生地を自分で選んでいくのは、純粋に「楽しい」。「買い物ってこういうことなんだな」って感じたんです。そのときの感覚をハンカチで表現してみたいと考えたのがH TOKYOを始めるきっかけです。

間中伸也さん オールドファッション株式会社 代表取締役

間中伸也さん オールドファッション株式会社 代表取締役

山川:なるほど、買い物の楽しみを再発見したって感じですかね。なんかいいですね。

間中:H TOKYOでは「楽しみ」を感じて貰いたいんです。お店に来て店員とのコミュニケーションを楽しんで欲しい。さっきお話ししたデザイン、素材、品質を実際に見て触っていただきたい。三宿にお店を構えているのも、静かな環境で“選ぶ”楽しみやわざわざ買いに“来る”楽しみを感じて欲しいからなんです。

山川:ネクタイとかシャツと関係するモノがある中で、なぜハンカチを選んだんですか?

間中:日本人ってひとつのものを工夫していろいろ使える器用さを持っているんです。ハンカチはさまざまな使いかたができる。料理で鍋を掴むときにも使っています。使いかたを考えて、工夫することも「楽しい」ですよね。ハンカチは、そんな広がりを表現できるモノだって感じたんです。

デザインは「持ってくれる人を想像できるか」を意識して決めている

山川:以前丸ノ内店で店員さんに使いかたを提案していただきました。ハンカチひとつでいろいろ楽しみかたがあるんだなぁって感じた覚えがあります。

間中:丸ノ内店は、日本だけではなく海外のかたもよく買って行かれます。海外ではハンカチは馴染みが薄いそうなんで、使いかただけじゃなく魅力も知っていただけたらと考えています。

山川:海外ではあまりハンカチって使われないんですか?

間中:アメリカのバイヤーさんに聞いた話なんですが、ハンドドライヤーが登場してからハンカチを持ち歩く習慣が少なくなっているようなんです。アメリカでは「そもそもどこで買えるかわからない」ような状態だと聞きました。

ハンドドライヤーが普及してハンカチが使われなくなった国はたくさんあるようです。逆に日本ではハンカチ文化が根強く、ハンドドライヤーの普及率が低いとか。余談ですが、欧米ではジャケットにはポケットチーフを挿すのは当たり前ですが、日本だと馴染みが薄いと聞いたことがあります。こういう文化や歴史については別の機会で調べてみたい。

山川:へー、日本だと小さい頃から当たり前のように「ハンカチを持ちなさい」って親に言われるから、海外でもそういうものだと思っていました。

間中:「手を拭く」用途だけならハンドドライヤーで十分。アメリカらしいですよね。日本なら「手を拭く」以外の使いかた、海外には「魅力」を提案していければ、「楽しみ」に繋がりますよね。

山川:いろいろ野望を持ってらっしゃいますね(笑)。そういえば、ハンカチのデザインってどうやって決めているんですか?

間中:「直感的に良いと思えるかどうか」、「持ってくれそうな人をイメージできるか」の二つを意識しています。「良いモノを作っているかただな」って思ったイラストレーターさんやデザイナーさんにお願いすることが多いです。良いモノなら誰かに伝えたくなりますよね。

山川:あー、H TOKYOのハンカチをよく友人にプレゼントしてしまうんですが、見た瞬間に「あの人に使って欲しい」って浮かんでくるんです。ずっと不思議に思っていたんですけど、なるほど間中さんが使い手をイメージして選んでいるからだったのかもしれませんね。納得しました(笑)。

間中:そうなんですね(笑)。反応はどうですか?

山川:みんな喜んでくれます。ハンカチなら何にでも使えますし、自然に頭に浮かんだイメージで選んでいるので、あまり好みからハズレていないみたいです。

かせきさいだぁのキャラクター「ハグトン」のハンカチ

かせきさいだぁのキャラクター「ハグトン」のハンカチ

スタンダードな白いハンカチもイチマツ模様をあしらい、遊び心をうかがわせる

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オーソドックスな柄でも生地にこだわった「ひと味違う」ハンカチに

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文字の刺繍のほか、デザイン刺繍にも対応

文字の刺繍のほか、デザイン刺繍にも対応

間中:そんな「価値」と「世界観」も伝えたいと考えています。ハンカチを持つと便利なんだ、楽しいんだって「価値」、イラストレーターさんや職人さんのこだわり、「世界観」を感じ取って貰えれば嬉しいなって。

山川:まるでinstagramですね。間中さんが選んだ一枚がH TOKYOの商品になっていて、僕らは「いいね!」の代わりに自分で買ったり友人に贈ったりするような感じ。

間中:あーそうかもしれませんね。一枚の絵画を買うのって大変じゃないですか。持ち運ぶのも難しい。でも、ハンカチならいつでも持ち歩けますし、自宅に招かなくても人に見せられますよね。スマートフォンで写真を持ち歩く感覚を、現実に持ってきたイメージかもしれません。

間中さんのお話を聞いていて、H TOKYOはinstagramを現実に持ってきたイメージがぴったりでした。instagramの写真と同じように、間中さんのこだわりが詰まった真四角のハンカチを見て、僕らは「いいね!」をする。しかし、間中さんは「いいね!」をするのにお店に行って、見て触って感じ取る、一手間を用意。そんな一手間を経て手に入れたモノは、長く大事に使ってしまうのかなと。

「なくてもいいけど、あると便利」、ハンカチは生活に彩りをもたらす

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山川:H TOKYOのハンカチはブランドロゴが小さいですよね。裏面にタグでちょっと書いてあるだけです。デザイン重視だからブランド名をあまり前面に出さないのかな?と考えていました。

間中:主役はハンカチ。ブランドではないと考えているんです。ブランドで選ばれるのも嬉しいんですが、それ以上に「良いモノだな」って感じ取って貰いたい。

山川:なるほど、たくさん売れて欲しいけど、名前だけ先行してしまうと「価値」や「世界観」を感じて貰えないかもしれない。経営者としては悩みどころですね。

間中:「人と同じモノは嫌だな」って感覚もありますよね。ビジネスとして割り切れば拡大する方法はいくらでも浮かぶのですが、時間をかけてゆっくりと「価値」と「世界観」が広げていければと考えているんです。

山川:お気持ちわかります。注目を浴びると賞味期限ができてしまうこともありますよね。

間中:最初にお話ししたように私も自分で「一手間」をかけて、「楽しみ」を再発見できました。H TOKYOでは頻繁に新商品を小ロットで出しています。あとで同じモノが欲しくても在庫がなければ手に入りません。「買おうかな…」と迷うのもまたひとつの楽しみですよね。

山川:お客さんに「楽しみ」を見つけて貰えるよう、敢えて用意した「一手間」。それは素敵ですね。

間中:ハンカチって生活に花を添えるようなアイテムなんです。持っていないときは気付きませんが、持ってみると便利さがわかる。生活の中にそんな発見が増えていけば、彩りが出ますよね。

ーおわりー

File

H TOKYO

平成19年創業、デザインや生地にこだわりを見せるハンカチのほか、ブックカバーや100%天然素材の靴下も販売している。店舗は三宿のほか、丸の内や京都に一店舗ずつ。ラグビー名選手の言葉を借り「ハンカチは少年を大人にし、そして大人を少年にさせる」をスローガンに掲げ生活に遊び心と彩りを加えるハンカチブランド。

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公開日:2015年12月23日

更新日:2022年3月31日

Contributor Profile

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山川 譲

シンクタンク、ウェブメディア記者、雑誌編集を経て、コピーライターとして活動。ランチ代、定期代もすべてCDにつぎ込んでいた高校時代以降、CDと本を中心に様々なモノをコレクションしている。現在はロシアンウォッチ、カメラレンズ、眼鏡、ネクタイをコレクション。モットーは「保存はしない、実用」。

終わりに

山川 譲_image

間中さん自身はこだわって集めているモノはないと語っていました。ただ、「良いモノ」と「楽しみ」に対するこだわりは強く、モノを買うときも「誰がどういう気持ちで作ったのか」と考えるそうです。個人的に、間中さんが伝えたいと思っていたことを感じ取れていたことは、H TOKYOファンとしてとても嬉しい発見でした。

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