手入れをしながら少年時代に想いを馳せる、ナイフのある生活。

手入れをしながら少年時代に想いを馳せる、ナイフのある生活。_image

取材・文/石原たきび
写真/見城 了

「刃物の美と技」 シリーズ 1 回目。

バリスティクスの塚原さんは、「サバイバル」「冒険」「アドベンチャー」をテーマにしたこだわりの品々を集めている。本記事は、そんな彼のお宝を全4回のにわたって特別公開する連載で、3回目はナイフ。1、2回目のミリタリーファニチャーテントは「目に留まるものを買っていくうちに自然に集まった」ものだが、このナイフだけは「意識的に集めようとしている」という。ここでは、手入れの行き届いたコレクションの一部をご紹介しよう。

錆びたりくすんでいたりするものを、本来の状態に蘇らせる作業が面白い

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ミリタリーファニチャーにテントと、多様なコレクションを持つ塚原さんだが、自身は「コレクターではない」という。

「ただ気になるものを見つけたそばから次々に手に入れていくうちに、こうなっただけ。ストック癖はあるけど、収集癖はないんです」

しかし、今年から集め始めたナイフだけは、唯一意識的に収集しようとしている。塚原さんは現在『STREET BIKERS'』というバイク雑誌で自分の趣味をテーマにした連載を持っているが、そこでナイフを取り上げたことをきっかけに火がついたという。

「集めている物のほとんどはアメリカ製で、主に60年代から80年代に製造されたハンティングナイフやポケットナイフ。機能や造形美はもちろん、購入時に錆びたり動きの悪くなっているものを、自分の手で本来の状態に蘇らせる作業なども含めて楽しいんです。他のアイテムみたいに場所を取らないし常に眼の届く場所にあるのがいい。ミニカーみたいなものですね(笑)」

ミリタリーファニチャーやテントはサイズが大きいため、大半を倉庫にしまわなくてはならない。しかし、コンパクトなナイフは書斎の棚に収納し、時々取り出して触るのが楽しいのだという。一本一本のナイフには、職人技がギュッと込めらており、その細部を仔細に観察するのも醍醐味だ。

物によっては指紋がついたところから錆びてくるため、扱うときは極力手袋をはめる。手入れはカメラなどと同様セーム革で拭いた上で必要とあれば研磨したり防錆処理を施す。丁寧に磨き上げながら、ポケットに肥後守を入れて遊びに出かけていた少年時代に想いを馳せる。

「とはいえ、使うのがもったいなくて実用するのはわずかです」と笑う塚原さん。また、集めているナイフは獲物の解体や調理など、あくまでも狩猟用やキャンプ用がほとんど。一部の名品を除き殺傷を目的とした戦闘用ナイフはあまり好みでないというのも、じつに彼らしい。

次章では、そのコレクションの一部を見せてもらった。

眺めている時が至福。涎垂のアメリカンビンテージナイフたち。

ビンテージナイフ(またはオールドナイフ)は、1960年代から90年代にかけてに世に送り出されたナイフたち。職人たちが磨き上げたクラフトマンシップを堪能することができる6本をピックアップ。

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ランボーナイフで一躍有名となったジミー・ライル氏がまだ名声を得る前の時代の作品。この中では唯一の”カスタムナイフ”(一人のナイフ職人が鋼材の加工から仕上げまでを一貫して行なう作品性の高いナイフ)。

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「CASE」というこのナイフだけは近年のものだが、形状はアメリカンクラシックを踏襲。ハンドル材は牛骨で、ヒルト(鍔)はくるりと回って収まる。

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ガンメーカーの「スミス&ウェッソン」のフォールディングナイフ「M6060」。カスタムナイフにも劣らない仕上げの美しさが特徴。又「ウェッソンウッド」と呼ばれるハンドル材は自社開発による「木の水分を真空状態で取り除いた上で樹脂を染み込ませる手法」で作られており拳銃のグリップと同じ材質だという。美しいミラーブレードと頑丈な作りが特徴。

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アメリカの二大メーカーのひとつ、GERBER(ガーバー)の「ファーストフォールディングハンター」。(もう一つのメーカーは「BUCK(バック)」)当時はマシーンメイドではなく職人によるハンドメイドだったため、同じ種類のものでも手がける職人によって一本一本に趣が違うところが面白いという。

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様々なメーカーに世界一コピーされたナイフとして”ギネスブック”にも載っている「フォールディングハンター110」。この中では一番古い60年代中半のもの。特徴は時代に左右されないシンプルなデザインと「とにかく頑丈」であるということ。以前のBUCK社のロゴマークが”ナイフに五寸釘を押し当てハンマーで叩いている”デザインだった事からも、当時いかに堅牢さをウリにしていたかがわかる。

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ナイフデザイン界のスーパースター、ブラッキー・コリンズ氏が始めたブランド「ベンチマーク」製。スライドさせながら刃が出るのが特徴。

自宅のコレクションスペースを少しだけ公開。

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等間隔に方向を揃えて並べられたナイフたち。塚原さんがいかに愛着をもって丁寧に扱っているかが容易に想像できる。ナイフ後方には児童書やサバイバル関連の書籍がこれまたシリーズ順に揃えられて……(現在、書籍を取り出す際は手前のナイフを一々どけなくてはならず、ディスプレイ方法を思案中だという。)次回は塚原さんお気に入りの児童書についてピックアップ。お楽しみに!

ーおわりー

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塚原さんが手がけるブランド「BALLISTICS(バリスティクス)」

ミリタリーとアウトドア、バイク等をテーマにバッグや小物を製作するメーカー。ブランドのコンセプトやデザインも塚原さん自身が手掛けており、軍で実際に使用されている本物のミリタリーファブリックを使用したアイテムが豊富に揃っている。

キッチンツールを一層楽しむために。編集部おすすめの書籍

「ナイフ」に焦点を合わせた一冊

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ナイフダイジェスト -カスタムナイフを知る- (ホビージャパンMOOK)

人類最古の道具とも言われる「刃物」。
中でもコレクション性も高く、商品としてのバリエーションにも優れた「ナイフ」に焦点を合わせた一冊。

●鹿山利明と東京ナイフ
日本を代表するポケットナイフ作家として知られた鹿山利明が逝去して1年。戦前の東京を発祥とする東京ナイフの技法の最後の伝承者でもある彼の足跡を辿りつつ、その作品を門外不出の仕事場に残された資料とともに紹介。
●Matrix-Aida ナイフコンテスト
若手、新人がナイフを発表する機会の喪失を憂えたナイフショップ、マトリックス・アイダのコンテストをスタートアップからフォロー。受賞作を掲載する。
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世界的に高い評価を受けるKIKU KNIVES。その実力LEやミリタリー関係者からも認められる。米軍スナイパーとのコラボで製作したハンティングナイフのできるまでを追う。
●ナイフ作家人名録
●アメリカ・ミッドテック事情
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公開日:2015年12月7日

更新日:2021年12月27日

Contributor Profile

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石原たきび

塾講師、出版社勤務などを経て、現在は雑誌・ウェブ多方面でフリーライターとして活動。趣味は、たき火、俳句、酒。高円寺在住歴13年。編著に『酔って記憶をなくします』(新潮文庫)など。

終わりに

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ミリタリーファニチャーやテントはキャンプで使うことがあるのに対して、ナイフは「もったいなくて使えない」「眺めているだけで満足」というところがお茶目。たしかに、柄のフォルムや刃のデザインが一本一本異なるうえに、スーパーカーのようなソリッドな魅力もある。塚原さんがハマる理由もわかったような気がしました。

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