開化堂が手がける、優美で機能的な手作り銅製茶筒の魅力

開化堂が手がける、優美で機能的な手作り銅製茶筒の魅力_image

取材・文/堤 律子
写真/田中 幹人

茶筒とは、茶葉を入れる道具ではなかったか? そう思いながらも、絹よりなめらかな肌触りが心地良く、すべすべと撫でることを止められない。親指と中指で蓋を挟んで静かに引き上げ、落とし蓋の役割を担う中蓋をそっと取り出す。茶葉を使ったら中蓋を戻し、蓋を胴の口に少しかけて手を離す。すると静かに、静かに蓋が落ちていき、ぴたりと閉まるのだ。あまりにぴたりと閉まるので、まるで蓋が胴の一部に変化した瞬間を目撃してしまったような驚きがある。極めてシンプルな姿形の中に、一晩中語れそうな魅力が詰まっている、それが開化堂の茶筒である。

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京都の老舗茶筒店×ロンドンの新星「Postcard Teas」が 生み出す最高のおもてなし道具

蓋が「ストン」ではなく、自らの重みだけで静かにゆっくりと落ちていくのは、「空気が少しずつ抜けていく程度しか、胴と蓋の直径に差がない」からで、茶筒として最も重要な気密性に優れている証。


「加えて、胴の部分が二重になっているから、外の温度にあまり影響されないこと、中のものが湿らず使いやすいことで、誰もが使っていて気持ち良いと感じられる道具になっています」と教えてくれたのは、開化堂 五代目・八木聖二さん。


「Postcard Teas(ポストカードティーズ)押込中蓋平型 」(上写真は200gサイズ)は、そんな機能性とデザイン性を兼ね備えた京の茶筒と、ロンドンで注目の紅茶専門店「Postcard Teas」とのコラボレーション商品。ロゴマークであるティーポットの刻印は、茶筒の蓋を開けると、ちょうどティーポットの蓋を開けたように見える。無駄を削いだ機能的な道具に、人の心をふと緩ませるエッセンスを少し。そのバランスが絶妙で、なんとも粋である。さらに、この茶筒には取っ手のついた中蓋が仕込まれていて、茶葉が減った分だけ中蓋が下がり、茶葉の量に関わらず高い密閉性を保ち、最後まで湿気から茶葉を守ってくれるのだ。


もちろん、乾燥しているものなら何を保存してもいいのだけれど、やはりここは紅茶を選んで、美味しい紅茶と「茶筒」で大切な人をもてなしたい。他にはない、という感動は、きっと最高のおもてなしになるはずだから。

胴の部分は二重構造。蓋と胴の継ぎ目のラインを合わせると、一人でに蓋が落ちて閉まる。手入れは、毎日よく使うこと、水洗いはしないこと。

胴の部分は二重構造。蓋と胴の継ぎ目のラインを合わせると、一人でに蓋が落ちて閉まる。手入れは、毎日よく使うこと、水洗いはしないこと。

究極にミニマムな茶筒は 100以上の工程を経て完成する

「創業は明治8年。明治の初めにイギリスからブリキが輸入されて、ブリキの茶筒が生まれました」と八木さん。


無駄が一切ない洗練されたデザインだが、「金属の板を切り出すところから叩いて形成して磨いて、完成までに100以上の工程があります。今は若手の職人も含めて8人で分業しながら作っているけれど、蓋と胴部分がぴったり合うかどうかの調整をする一番大事な工程は私か六代目の息子の役目。調整の仕方は、培ってきた経験と感覚だけ。数字で計るようなものではない。私は50年間作り続けているけれど、それでも毎日試行錯誤ですね。実は、五代目として継いだ頃は楽しいと思えなかった。でもお客様からの『良いね』という声が、職人としてのプライドを築きました。同じことを、同じように飽きずに長年続けるのは結構しんどい話。それを続けてきたから、歴史もあるし、クオリティも磨かれます」。

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眺めて、なでて、受け継いで。 100年以上楽しめる道具

河原町六条にある店頭には、100年以上前のものをはじめ、ブリキ、銅、真鍮それぞれの経年変化を比べられるよう、作られた時期が異なる茶筒が並べられている。


どれも段々と深みが増し、それぞれに独特の光沢と味わい深い風合いがある。変化してゆく年月もそれぞれ違い、銅は1年くらいだが、ブリキは30年以上かかる。真鍮は3〜5年くらいから経年変化が始まるが、手の平の脂分に左右されるので、使う人によっては赤っぽく変化するという特徴があるそうなので、どれを選ぶかは、どう付き合っていきたいかで変わる。


「現代では『お茶しよか』となると、日本茶、紅茶、コーヒーと選択肢が多くて、そう何度も茶筒を触らない。昔なら、日常的に飲むのは日本茶しかなかったから、毎日何回も茶筒に触れていたので、自然に変化していました。経年変化を楽しみたいなら、お茶事のたびに、なるべくなでてください」。


専門店として茶筒を作り続けてきたが、最近では海外のデザイナーやハイブランドとコラボレーションする機会も増え、茶筒の基本形は守りつつ、コーヒー缶やパスタ缶、キャンドルホルダーや図面ケースなど、現代の生活にも馴染むアイテムが多数生み出されている。


「あと100年、茶筒を作りたい。お客様には100年以上使っていただきたい。茶筒を作り続けたいから、いろんな提案をしているんです」と語る八木さんの声は力強い。その想いは技術と共に六代目・隆裕さんに受け継がれ、隆裕さんは世界中を飛び回って、ものづくりのプロセスから、茶筒を精力的に発信している。


私がお店から連れ帰ったブリキの茶筒は、まだピカピカと新しい。世界中のキッチンに溶け込んで、少しずつ風合いを増してゆく茶筒に思いを馳せながら、茶筒をなでるのもまた楽しい。

ーおわりー

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開化堂

100年以上前から同じ工程、同じ作り方でひとつひとつ手づくりされている開化堂の茶筒は、高い気密性を誇り食材などを湿気から守り保存することができる。
茶筒は130余りにもおよぶ工程を経て作り出される精密な機能を持つ、用と美を兼ね備えた簡素であるとともに実用性がある職人の技と感覚がさえわたる逸品。万が一へこんだり傷ついたりした際は修理することも可能である。

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公開日:2015年10月31日

更新日:2022年4月15日

Contributor Profile

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堤 律子

京都在住のフリーエディター。ほっこりするものよりキリキリ研ぎ澄まされたものが好き。30代も後半となり、スタイルではなく体力維持のためバレエ教室に通い、最近着付けも習い出す。今、興味があるのは銅版画(製作する方)。

終わりに

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私が普段使っているのはブリキの茶筒。見た目の変化を楽しめるのは30年以上経ってからだそうですが、お茶を淹れるわけでもないのに、つい手にとっては、なでてしまう。こんなに「まろやかな」という表現がぴったりの金属を使った道具があるだろうか、と思いながら蓋を取ってはスーッと落とす。…もしかして、30年も経たないうちに経年変化も楽しめてしまうんじゃないだろうか? 取材中、話の流れで自分の仕事ぶりについて「まだまだです」と答えたら、「わしも(笑)なんぼやっても上手にならへんねん。でも、手で作ってるもんは、なんかかっこええね」というあまりに飾らない真っ直ぐな言葉が返ってきて、意表を突かれた私はほんの少しの間ですが、吸った息を吐くのを忘れました。こういう方が手掛けないと、蓋はスーッと落ちないんだろうな。

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