中国茶器の茶壺(ちゃふう)。日々の手入れで艶が生まれる

中国茶器の茶壺(ちゃふう)。日々の手入れで艶が生まれる_image

取材/廣瀬 文

澄み切った味わいと繊細な香りが特徴の中国茶。今回は、そんな中国茶を楽しむための茶器「茶壺(ちゃふう)」を紹介します。かわいらしい猪の見た目の茶壺には職人の手仕事が見て取れます。

職人による手作りの茶器「茶壺」

MuuseoSquareイメージ

時折ふと「今日は中国茶が飲みたいな」という気分になることがある。 好んで飲むのは東方美人、大紅袍(だいこうほう)、鳳凰単叢(ほうおうたんそう)。

特に鳳凰単叢(他の木の茶葉とブレンドされていない混じり気のない青茶)の澄み切った味わいと、繊細な香りには、初めて飲んだ時「これは」と衝撃を受けた。中国茶の美味しさに目覚めたのは20代後半のころ。お茶に詳しい知人から「お茶好きなら中国茶も飲んだ方がいい」と進められたことが発端だ。

せっかくならば中国茶に適した道具・茶壺(ちゃふう)で淹れて飲んでみたい。

好奇心旺盛でカタチから入りたい性分。早速茶壺と茶葉を入手して試してみたら「これは美味しい!」と素直に感動した。

それから、茶道具を扱う店舗や展示を見つけては実際に茶壺を手にとって確かめるように。茶壺は基本1点1点が職人による手作り。なので、直感で「いいな」と感じたときが、逃してはいけない出会いだと思っている。そんな出会いを重ねて現在、手元には20の茶壺が。

同じような色合いやカタチに見えても、もちろんそれぞれ表情が違う。フォルムの細部にこだわる私としては、茶壺を並べてその違いを楽しんでいる。

MuuseoSquareイメージ

特に気に入っているのが、豚のカタチをした茶壺。中国では豚に”猪”の漢字が使われ、豊作・裕福の象徴となる縁起物だ。

注ぎ口が、ピンと立った耳と上向きの鼻がついた顔の部分、握り手がくるりとしたしっぽ部分。茶壺の丸みを生かした面白いデザインに惹かれた。購入時、お店にはもう一回り小さいものもあった。今更だが「あの時、大小揃えて購入しておけば良かった」と思うほど気に入っている。

MuuseoSquareイメージ

豚と同じく縁起の良い動物がモチーフとなった亀の茶壺。亀は長寿を意味する。
甲羅の網目が金で描かれていて、よく見ると蓋の部分に施されたうさぎの装飾が、亀とうさぎが競争した昔話を彷彿とさせる。2匹の少しとぼけた表情に愛嬌がある。

福の文字が張り巡らされた茶壺。蓋部分が狛犬になっているのが特徴だ。

福の文字が張り巡らされた茶壺。蓋部分が狛犬になっているのが特徴だ。

曲線のフォルムが多いなか、直線と面を生かしたものも。

曲線のフォルムが多いなか、直線と面を生かしたものも。

置物的な魅力もある茶壺だが、突き詰めて「何故自分がそれほどまでに好きなのか」と考えると、やはりモノの素材と機能美に行き着く。


茶壺の主となる素材は中国・江蘇省(こうそしょう)の宜興(ぎこう)で採取された、紫砂(しさ)という土。使い続けていくうちに茶壺の肌に独特の艶が出てくるのである。また、茶壺を育てる“養壺(やんふう)という手入れがあり、お茶を茶壺の表面になじませ布で磨いていくことでその艶はさらに増す。慌てず焦らず10年20年かけてじっくり茶壺を育てていく行為。だんだんと艶が増していく経年変化も面白い。


天然素材そして手仕事で生み出されたとは思えないような機密性にも目を見張るものがある。ぴったりとはまった蓋は、水分を含むことでより吸い付くように密着する。内側からお茶の液が垂れたり漏れたりすることは一切ない。これぞ職人の手仕事といったところだろうか、いびつになりがちな土の素材で精度を追求しているところに惚れ惚れするのだ。

ーおわりー

キッチンツールを一層楽しむために。編集部おすすめの書籍

巨匠と現代作家の茶器を紹介

41cil7qyvjl. sl500

見て・買って楽しむ 麗しの茶器 (別冊炎芸術)

茶碗・花入・水指・茶入・香炉・香合など、陶芸家の作る茶器を、現代作家と巨匠(物故作家)に分けて作家別に紹介。また、茶器の楽しみ方や茶器コレクターも紹介する。

公開日:2015年10月2日

更新日:2021年12月6日

Contributor Profile

File

廣瀬 文

オトナかわいい女性に憧れるアラサー編集部員。憧れの女史は、石田ゆり子さまと本上まなみさま。ずぼら脱却にお茶か日舞を習ってみようかと思案中。最近気になる被写体の組み合わせは「おじさんと犬」。

終わりに

廣瀬 文_image

茶壺に対してちょっと渋いイメージを持っていたのですが、動物モチーフのものもあったのが意外でした! 猪(ぶた)の茶壺は、編集長が好きというだけあって艶が違いますね! 10年後にはさらに深い艶になるんでしょうか? 手入れする人によって艶の出方も違うといいますから、自然と愛着がわきそうなコレクションでした。成松さんが真剣な顔をして磨いている姿がイメージできます〜。

Read 0%