対談「僕らが大人になった今、スポーツカードを集める理由」

文 / 井本 貴明
写真 / 齋藤 創太

「集めて楽しむTCG」 シリーズ 1 回目。

長嶋茂雄、野茂英雄、デレク・ジーター、マイケル・ジョーダン、ロベルト・バッジョ、イチロー、松井秀喜。

スター選手は、いつの時代でも子供たちの憧れである。そんな憧れの選手たちは、スポーツカードとして発売され、それを手にした子供たちの宝物になる。
1990年頃から、スポーツカードは大きな進化を遂げ、今では大人も楽しめるコレクションとなっている。そんなスポーツカードの世界を知りたくて、日本最大のスポーツカード専門店「MINT」を訪れた。

手のひらサイズの小さなカードに、どうして世界中の大人が夢中になっているのか?
その答えを知りたくて、スポーツカードの対談をお願いしたのである。

コレクション・ダイバー【Collection Diver】とは、広大なモノ世界(ワールド)の奥深くに潜っていき、独自の愛をもってモノを採集する人間(ヒト)を指す。この連載は、モノに魅せられたダイバーたちをピックアップし、彼ら独自の味わいそして楽しみ方を語ってもらう。

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スポーツカードとの最初の出会い。そこは、小さなカードに広がる好奇心の世界。

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本日はスポーツカード対談、よろしくお願いします。まず、簡単な自己紹介をお願いします。
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ミントチェーンの店舗運営部にいます、新家です。
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御茶ノ水にあるミント神田店の店長をしている田村です。
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ミント渋谷店の店長をしている中川です。
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最初の質問ですが、スポーツカードの最初の出会いは、いつですか?
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高校の時ですね。当時は大阪に住んでいたのでアメリカ村によく行っていました。年代で言うと、1992年のバルセロナオリンピックがあった時。古着屋を巡っていたら、古着屋の隣にカードを売っているお店があり、そこでカードを買ったのが最初です。
そこで出てきたのが、「マイケル・ジョーダン」のカード。そのカードに価値があることが分かり、一気にテンションが上がって、ハマっちゃいました。
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そのテンションは下がらずに、ずっと続いてる?
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一度は下がりました。どうしても欲しいカードがあって、お店にお願いしてアメリカから取り寄せてもらいました。1〜2ヶ月かかって、実際に届いたらカードがボロボロで、、、嫌になってテンションが下がった。当時はネットもなく、事前にコンディションを確認することができなかったのです。
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田村さんは、どうですか?
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僕はカルビーのプロ野球チップスですね。8〜9歳ぐらいです。一袋30円でカードが一枚付いていた時代です。当時、野球中継はテレビで見るものと思っていたが、カードの中で野球が静止画になる風景が新鮮だった。そのカードは今も持っていて、中日の「谷沢健一」さんです。谷沢さんが、あの独特のスマイルをしている練習風景の一枚。そういう姿はTV中継で見れないので、子供心ながら”味”があると感じた。
あと、昔からカープファンなので、巨人ファンの友達とカードを交換したり。当時のそういったカードは大事にしていなくて、ポケットに突っ込んだりしていた。今、そういったモノが綺麗な状態で存在していると、当時、想像がつかなかった価値になっていますね。
これがコレクションの始まりかと思います。
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コレクションあるあるですね。
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カード熱が再熱したのは、社会人になってから。東京駅の八重洲ブックセンターで「BBMベースボールカード」が袋売りされていたのを見つけた。10枚入りで200円ぐらい。
”昔と違って、お菓子とセットではなく、カードだけで売っているんだ” と思い、懐かしくなって3パックぐらい買ってみた。そして、好きな広島の選手のカードが出てきた。嬉しくなって買う頻度が増えて、そのうち箱買いをしたり。そこからコレクションは続いている感じですね。
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中川さんはどうですか?
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1992年の時、父親が休みの日に、自転車に乗って一緒に明大前に行きました。父親がレコード屋に行くつもりが、そこのお店がカード屋に変わっていた。
そこが日本で最初のスポーツカード専門店「JO'sスポーツカード」というお店で、そこに入ったらカードがたくさん並んでいた。”アメリカには、こんなにカードがあるんだ” と驚いたのを覚えています。
当時は、メジャーリーグで活躍していた「ノーラン・ライアン」投手が好きでした。アメリカで160kmの球を投げる投手がいることに、衝撃を覚えていましたね。そこで、そのカード屋の店長にノーラン・ライアンが好きと伝えて、ノーラン・ライアンだけが入ったカードを1パック購入しました。そのカードがカッコよすぎて!
それから、お店に通うようになって他のカードにも手を出し始めた感じですね。
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当時のカードって、今も残っていますか?
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捨ててはいないと思うので、どこかには残っていると思うのですが、見つからないですね。
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大人になってから集めるカードのジャンルや、買い方は変わりました?
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MINTで販売する立場だから分かるのですが、お客さんの趣味も多様になり、僕らが扱っているジャンルも広がり、共通項は「カード」という点だけですね。野球が好きなんだけど、バスケも集め始めようかなとか。自分の好きなもの、興味が出てきたものに手を出す。これは、コレクターの本質かもしれない。MINTのお客様でも多いですよ。元々はバスケだけを集めていたけど、今はサッカーになったり。
今は、一つのジャンルだけを集め続けている人は少ないかも。皆さん、いろいろとつまみ食いをされている印象ですね。

90年代に大きな進化を遂げたスポーツカード。デザイン、素材、加工の進化は、僕らの心をワクワクさせた。

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僕らが子供だった頃と比べて、カード自体の素材、加工方法などの「変化」は、どう感じていますか?
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仕事上、昔のカードを扱うことがありますが、古いものにはシンプルに”味がある” と思います。凄く価値が高いものもあります。
一方で、現在のカードは昔では不可能だった素材や複雑な加工が可能です。デザインもより洗練されているものが多くある。今も昔もそれぞれにいい点があると思う。
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子供の頃のプロ野球チップスの時代は、カードは紙でしたよね。スポーツカードは、紙だという固定観念があった。
それが、アメリカでトレーディングカードがブームになり、ビジネスに発展した1990年代。それまでは紙のカードを発売していたのですが、90年代からは色々なメーカーが切磋琢磨して、今までないようなカードが誕生した。
例えば、このカードは木でできている。裏は紙だけど、表は本物の木。シックかつ繊細に感じますよね。これも、90年代のカードで、野球のボールのような質感。紙で作っているけど、あたかも本物のボールの皮で作っているように感じる。ボールの縫い目も、エンボス加工でうまく表現している。
こういうのを見たときに、もう単なるカードでなく、工芸品の域だなと感じます。デザイナーは、相当こだわっているはず。かなり奥が深い。
正直、このカードに出会ってなかったら、僕はここにいないかもしれない。それぐらい、このシリーズは衝撃的だった。さすがアメリカ!と思った。
表側は、本物の木で作られている。

表側は、本物の木で作られている。

特殊加工で、野球ボールのような質感を再現。

特殊加工で、野球ボールのような質感を再現。

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紙のカードで遊んでいた時代から比べると、革新的ですね。
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カードって、決められたサイズの空間に描く、フリーアート空間かなと感じる。たまたまスポーツがテーマになっているけど、いろんなテーマがあっていいと思う。
こういった最新のテクノロジーを使いながらも、一方で古めかしい、懐かしい気持ちにさせるのが面白い。比較的新しく発売されたカードなのに、あえて1950年代の懐かしデザインを採用するメーカーもあります。
車も音楽もファッションも当てはまるが、昔のいいものはリバイバルで復活する。復活したときには、新しい技術がエッセンスとして入っている。そういった、時代の変化を楽しめるのも、モノを集める楽しさの一つかな。
スポーツカードにおいて、1990年代、2000年代は凄まじいスピードで進化していった。どちらかと言うと、今の方がそのスピードが落ちている気がする。
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野球カードでいうと、一番盛り上がっていたのはいつぐらい?
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97年から2000年ぐらいかな。
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NBAもその頃でしょうね。マイケル・ジョーダンの最盛期の頃と重なっていますね。

持ってきたお宝のスポーツカードを紹介。驚きの貴重なカードが続々登場。

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今日は、みなさんに所有しているお宝カードを持ってきてもらいました。
ぜひ、ご紹介をお願いします。
中川さんが持ってきたお宝カードたち

中川さんが持ってきたお宝カードたち

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これは、カルビーのプロ野球チップスに入っていた「松井秀喜」さんのルーキーカード。僕は、ノーラン・ライアンのカードの次に、プロ野球チップスを集め始めた。
この松井さんのカードは、なかなか手に入らなかった。当時(1993年)はJリーグ開幕と重なり、日本中がJリーグチップスだらけだったのです。どこのスーパーに行っても、Jリーグチップだけでプロ野球チップスが売っていなかった。近所の駄菓子屋のおばちゃんに何度もお願いして、ようやくプロ野球チップスを仕入れてくれた。何個も買ううちに、ようやく手に入れたのが、この松井秀喜さんのカード。本当に流通が少ない一枚。
世の中が、Jリーグチップスで騒いでいた中、僕はプロ野球チップスをひたすら買っていました(笑)
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その松井秀喜のカード、右上の「GIANTS」の表記が大文字、小文字版があるよね?
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はい、ありますね。
ここにカルビーは本来「GIANTS」って入れたかったのに、球団側から「Yomiuri Giants」にしたいとクレームが来たらしい。だから、途中で修正版が発行されて2種類存在する。ここが「GIANTS」って表記されているのは、最初の流通分にしかないらしく、とても珍しい。
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クレームが来たんだ(笑)。それにしても、とても綺麗な保存状態ですね。どうやって保管していたのですか?
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カードショップで売っていた「カードスリーブ」に入れていたので、湿気が多い日本でも大丈夫でした。
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それ、かなりのポイントですね。先にカードショップの存在を知ってから集め始めるのは珍しい。普通、当時の子供がそんな保存方法を考えつかない。
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輪ゴムでまとめて、ポイッて言う感じだった(笑) 。我々のビジネスでは常識になっているのですが、カードはいかにコンディションを維持するのかが大切。
普通は、スリーブと言われる透明の袋に入れてから、アルバムに挟んだり、プラスチックケースに入れたりする。そこまでしておけば、10年、20年たっても影響はほぼないですね。
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それ、ポイントですね。中川さん、その他のカードは?
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プロレスラーの「グレート小鹿」さんのカード。この人を知ったのは高校生時代で、とても好きだった。
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渋いねー(笑)。
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もう一枚は、映画「チャーリーとチョコレート工場」のカード。この映画が大好きで、実際の映画で使われたプラスチックが入っているんです。
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「プロップ」って呼ばれている物ですね。
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実際に映画で使われた、壁一面チョコレートになっていたシーンの小道具の一部が埋め込まれています。
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僕もこの映画が好きなので、羨ましい一品ですね。
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僕は音楽が好きで、ブラックミュージックのアーティストのカードも集めています。これは、「Run-D.M.C」 のD.M.Cさんの直筆サインカード。
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このようなアーティストのカードって、日本でもあるんですか?
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日本ではないでしょうね。ツアー限定でグッズとして発売されるぐらいかな。ちなみに、この商品は、「AMERICANA(アメリカーナ)」っていう、アメリカのセレブを特集して発売された商品。昔の女優や、俳優などがカードになっています。
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僕の周りにはレコードを集めている人が多いのですが、アーティストのサインカードを集める人は初めて出会いました!
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僕もこの仕事に就いていなかったら、知らなかったかも。
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こういうカードが存在することは、なかなか知られていないよね。
ちなみに、サインカードも2種類あります。証明書があるものと、無いもの。
「プライベートサイン」と言うのがあり、これは元々自分が用意していたカードに、直接有名人にサインをもらう。これは、売買の対象にはなりません。私たちがビジネスとして扱っているのは、裏側に証明書があるサインカードのみになります。プライベートサインは、自分の中で記念にすることが第一の目的だと思うので。
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なるほど。
では、田村さんが持ってきたカードを教えてください。
田村さんが持ってきたお宝カードたち

田村さんが持ってきたお宝カードたち

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子供の頃、広島カープファンだったのでカルビーのプロ野球カードを集めていたのですが、大人になってベースボールマガジン社のカードを集めはじめた。
これは、2000年頃、サインカードが出始めた頃に発売されたカードで、カープファンの中では、神と等しい「山本浩二」さんのカード。古葉監督と共に黄金時代を築いた選手ですね。
山本浩二さんのサインカードは数多くの種類があるのですが、このカードには背番号8が書かれている。その後発行された浩二さんのカードにはほとんど書かれなくなったので、これはとても珍しく、貴重な一枚です。
ヘビーコレクターになってからずっと探していた一枚で、紆余曲折をして、ようやく手に入れました。入手方法は、トレーディングカードというだけあり、交換で手に入れた。この時には、NBAの「レブロン・ジェイムス」のサインカードを交換に差し上げました。
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世界的に超有名なレブロン・ジェイムスと、山本浩二さんでトレードですか!
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僕にとっては、山本浩二さんの方がスーパースターなので(笑)。
こっちは、「古葉竹識」さんの ”耐えて勝つ”という名言が入った、古葉さんの最初のサインカード。市民球場最後の年に発売されたカードですね。
これは野球に限ったことではないのですが、レジェンドの選手たちも、人間なのでいつかは亡くなってしまう。後から、手に入らなくなってしまうことは多々あるので、サインカードは手に入る時に、手に入れるのが大事だと感じています。
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次は「前田健太」のカード。紙製なのですが、特殊な加工をしており、デザインも秀逸。僕はこういったカードが好き。これの何がすごいって、50枚限定の18番なんですね。本人の背番号と同じ。
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カードコレクターの世界で言う、「ジャージーナンバー」ですね。
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限定カードを入手するときは、シリアルナンバーを気にしますか?
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気にしますね。
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理想なのは、ジャージーナンバーと言われる、背番号と同じ番号。そうでなければ、最初の1番。もしくは、自分の誕生日など、自分の中での特別な番号。
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僕のこのカードは、49枚限定の49番目。ラストカード。これも特別ですね。
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実際に、ナンバリングって、あまり選べないですもんね。
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人気選手のジャージーナンバーはなかなか市場に出回らないですね。そう意味では、山本浩二さんの8番は、尊い背番号なので宝物ですね。
次は、最近 ”神ってる” で人気が出た「鈴木誠也」選手のルーキーカード。当時は、全国的に有名ではなかったけど、今では10倍ぐらいの値が上がっています。
鈴木誠也のカード繋がりで言うと、去年発売された、このカードはセンスがいいですね。最近だとこのデザインが気に入っていますね。何年もカードを販売の仕事をしていると、めったに心が踊ることはないのですが、これは久しぶりに心が踊りましたね。
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カッコいいですね。
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次に紹介するカードには、ベルリンの壁の一部が入っています。崩壊した当時の壁の一部ですね。そのきっかけとなった、ケネディー大統領のスピーチと絡めてデザインされたカードになっています。このセンスがいいですよね。
次のカードには「Woodstock」の会場の土が入っています。これは、喉から手が出るほど欲しかった一枚。この土の上でジミヘンやジャニスが演奏していたかもしれません。
今日持ってきた中で一番面白いのは、「ジャニス・ジョプリン」のカード。最後のアルバム「パール」のジャケット写真で着ていたのが赤いドレス。そのドレスの一部が、カードに埋め込まれています。
めちゃくちゃ価値のある1枚。69年っぽいサイケデリックなデザインも超好き。これはヤバイですね。
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面白いアイデアですね。
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最後は、Topps(トップス)社が発売した「サンタクロース」のカード。半分シャレみたいな物なのですが、このセンスがいいなと。
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余談ですが、去年トップス社の1952年のカードで「ミッキー・マントル」というヤンキースの名選手のカードが、オークションで1億円で落札されたというニュースがありましたね。
1952年ってそんなに古くないじゃないですか?それでも、これだけの価格が付くと言うことで、カードでありながら少し投機的な価値があり、市場の値段も上がってきている。
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1億円ですか。。。カード市場の大きさでは、やっぱりアメリカが一番大きいですか?
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そうですね。メジャーリーグカードはアメリカが一番ですね。NBAカードなどは、最近中国、台湾でも人気が出ていて、市場が大きくなっています。
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今、本当に中国の市場が大きいよね。
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そういう意味では、先ほど一番盛り上がっていた時代は90年代という話しになりましたけど、カード市場は、今また新たな大きな波を迎えていると言えるかもしれません。
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なるほど。最後に、新家さんが持ってきたカードの紹介をお願いします。
新家さんが持ってきたお宝カードたち

新家さんが持ってきたお宝カードたち

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高校一年生の時にカードを集め始めて、同じ年に(先ほど話した)悲しい思いをして、カード集めを辞めてしまった。しかし、その後もNBAは大好きでよく観ていた。友達から「バスケ好きの新家くんが好きそうなお店が三ノ宮にある」と言われて、その場所に行ってみたらカードショップでした。
そしたら、こんなカードを見つけました。これはPSA(Professional Sports Authenticator)が始めた「グレーディング」と言って、専用のプラスチックケースで完全に保護された状態で、右上にコンディション(保存状態)の得点が付いている。10点満点で採点され、10点満点中の10点はほぼ完璧ですよっていう意味で、カードが本物であるという証拠にもなります。かつて、ボロボロのカードを渡されて嫌な気持ちになったけど、この仕組みだったら安心してコンディションの良いカードを入手できると思い、カードを集める熱が再燃しました。このコンディションの点数が高いカードは、裸のカードよりも値段が高くなるという面白みがあります。その後、グレーディングされていないカードも少しずつ買うようになりました。
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この採点の仕組み、いいですね。
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再びカードを本格的に集めはじめようと思った時に、手に入れたのがNBA選手の「アブドゥル・ラヒーム」。当時は若手で将来性もあり、この選手を応援しようと思って、ルーキーカードや様々なラヒームのカードを集めてきました。ラヒーム自体は、怪我などで苦しみ、大活躍をしたわけではないので、市場的な価値は高くないですね。
次に紹介するのは、田村さんが好きな名ブランド「フレアーショーケース」のレガシーコレクションです。
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これ、96-97年シーズン?
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はい。レガシーコレクションを好きな方は多いですね。
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カードの歴史を変えた「パラレル」だよね。
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そうですね。普通だったらこの名前の表記が金色なんですけど、青色になっているのはレガシーコレクションという特別バージョンで、後ろにシリアル番号が入っています。これは、150枚限定で、シリアル番号が1番ですね。かなり自慢の一枚です。
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シリアル番号が1番!
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僕は昔、「ワールドスポーツプラザ」というお店で働き始め、カードの売り手になった時に、楽しみ方が少し変わって来ました。お店でカードを買ってくれたお客さんが、貴重な一枚を当てた時に、とても嬉しくなる楽しみです。
自分自身がカードを集め続けるということから、少し離れつつある時に、最後に区切りとして入手したのがこれです。先ほど話したラヒーム選手のルーキーカードの(保存状態が)10点です。これは、鑑定会社BGS(Beckett Grading Service)が鑑定したもので、その基準はとても厳しい。このカードで10点満点というのは世界で1枚しかないです。
これを手に入れたのは、アメリカのヤフーオークションでした。このカードのためにアメリカのヤフーオークションのアカウントを作って、入札して買いました。当時、日本人でアメリカのヤフーオークションを使っている人は、ほとんどいなかったと思いますよ。
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一旦、カードを集めるのは休止しましたが、今も時々新しいカードを手に入れることがあります。それがまずこれです。
2015年度のウォーリアーズのファイナル制覇に感動して、一枚は自分が最高に良いと思えるカリーのカードを手に入れようと思って入手しました。デザイン、写真、サインの形と位置、どれも最高です。
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メジャーリーグカードでは、「ガルシアパーラ」が大好きですね。
これは、16年に発行されたカードです。5枚限定版で5番。ジャージーナンバーですね。このカードは、何と言っても写真がかっこいい。これこそ、先ほど話題に上がった、今の技術があるからこそ、作り出せるクラシックな雰囲気だと思います。
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確か、ガルシアパーラーは97年にデビューして、ルーキー連続安打記録を作って、この年の新人王になった選手です。ちなみに、僕は「デレク・ジーター」と同じ年齢で、ヤンキースは好きでないけど、ジーターのカードだけは昔から集めてきた。だけど、ガルシアパーラーが出てきた時に、浮気しそうになった(笑)。同じショートでもこっちは打てるからね。

情報を入手することは、コレクションの幅を広げるための近道。

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みなさんが持ってきたカード、本当に素敵ですね。このようなレアなカードを手に入れた時は、どこから情報を入手しているのですか?
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現代は、情報が一番大事ですよね。まず、MINTのようなスポーツカードのショップで情報を入手することができます。それ以外では、去年廃刊になってしまったのですが「スポーツカードマガジン」という1996年に創刊された月刊誌がありました。
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Twitterでも発売情報などが探せますね。海外の情報も手に入ります。
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アメリカでは、そういうカードの発売情報を発信しているサイトがありますね。
だから、僕らもMINTとして、そういう日本のカードに関しては、発信しないといけないなと思っています。
新製品については、次々と情報として入っていくるのですが、古いカードの情報を振り返るとなると、今では難しい。そういう意味で、(古いカードの情報も探せる)何かを作りたいなと思っています。
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ぜひ、期待していますね。ちなみに、これだけは絶対に欲しい1枚ってありますか?
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他のコレクションのジャンルでも、よくある話ですよね。”これが手に入ったら、集めるの辞めてもいい”って。それに関して、考えたりすることもあるのだけど、実際に欲しかったカードが手に入ると、別の熱が出てくる(笑)。
ちなみに、僕の場合は、ジーターのサインカードでした。当時は、サインカードって簡単に手に入るものではなかった。僕が大切にしている、このジーターの若い頃のサインカード。この保存状態で、アメリカの市場に出回ることは、ほぼない。
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おー、すごい。
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これを実際に手に入れたら、他のも欲しくなる。その結果、ジーターのサインカードだけでも20枚ぐらい持っています。
今でいうと、絶対に欲しいというものはないです。欲しいと思ったカードは、だいたい手に入っているので。
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僕の欲しい一枚は、好きなアーティストのカードが出たら火がつくと思うのですが、、、今は、お店でお客さんが開けるカードを見るだけで、満足しちゃいますね。なので、今はこれが欲しいというのはないですね。
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実は僕も、お客さんが開けたカードを写真に撮らせてもらっているのですが、「大谷翔平」選手の直筆サインカードを当てた時なんかは、自分ごとのように嬉しかったですね。

カードを手にすると、その選手が気になって、お母さんぐらいの気持ちで見ている(笑)

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カードを集めてきて、今だから話せる失敗談はありますか?
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トレーディングカードなので、交換して集めることもあります。お店に注文して手に入れることもできるが、それだけではどうしても手に入らないカードが存在する。ところが、カードショップに通い、カード友達ができると、その間で交換ができるようになる。”あの人は、あれを集めているから交換してあげよう” とか、コミュニケーションの輪が広がっていく。我々が商売していく上で、とても大切にしている部分です。
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お互いに交換する文化、いいですね。
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そして、カードの価値は時間と共に変化していく。
例えば、ジーターは昔から人気があったのではなく、当時は、「ケングリフィーJr」や「アレックス・ロドリゲス」が大人気だった。ケングリフィーの価値が10だったら、ジーターは4ぐらい。だから、僕はケングリフィーのカード1枚を交換に出して、ジーターのカードを2枚もらえる。
その後、ジーターが大活躍してカードの価値が倍以上になった。それって、市場価値という意味では成功です。もしも、ジーターが活躍しないでカードの価値が下がったら、市場価値という意味では失敗でね。
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なるほど。
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僕は、あまり市場価値にこだわらずに集めていますが、コレクターの中には、その価値の上がり下がりを楽しんでいる方もいる。この人に投資しておけば、儲かるみたいな。そういう意味で、ルーキーカードは人気があります。若い選手に、自分の夢を乗せる感じですね。その選手が実際の試合で、結果を出すことを願って観戦するのです。その選手のお母さんぐらいの気持ちで見ている(笑)。もしも、その選手が3打席ノーヒットだったりすると、次の日、機嫌が悪くなったりする。そういう楽しみ方はあるよね。
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馬主になった感覚に近いのですかね?
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そうですね。
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馬主でもあり株主でもあり。
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市場価値という意味では、集めていたガルシアパーラーの晩年は怪我で苦しみ、大活躍をできなかった。もう一人集めていたNBAのラヒーム選手も、ドラフト3位で期待されてアメリカ代表にまで上り詰めたけど、チームではプレーオフに出られないような状況を長年過ごし、早くに怪我をして引退してしまった。でも、カードの市場価値が下がったから、このコレクションを手放そうという気持ちにはならないし、これからも大切にしていこうと思う。
商売上、価値が上がる楽しみを伝えるのと同時に、そこに執着しすぎると楽しくなくなってしまうということも伝えていかなければと思っています。

スポーツカードショップで、カードを買うだけではモッタイナイ。もっと楽しむための活用術とは?

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売る立場からすると、MINTのようなスポーツカードショップは、今後どのような役割をしていきたいですか?
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スポーツカードに興味を持ってくれた人に、これだけバリエーションがあって、奥が深いんだよって伝えたい。集め方や買い方は、その人次第なんだけど、世界の広さ、文化の深さ、スポーツカードの可能性を提示してあげるのが僕らの仕事かと思っています。
僕は特に、コミュニケーションに力を入れている。僕が集め始めた頃、カードに関して知りたかったことを伝えたいと考えている。
そしてお客さん同士を繋げる。一人で黙々とカードを集める方も多いので、こちらが意識的にお客さん同士が知り合える状況を作って、みんなが仲良くなって欲しい。その結果、その輪の中にいる方々のコレクションが豊かになっていくのは実践されているので。
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ショップを訪れて、店のスタッフと話すとより多くの情報が入ったりして、コレクションを広げる近道になります。それに、店でパックやボックスを開封すると、一緒に盛り上がれるスタッフや他のお客さんがいて開封の楽しみが増すんじゃないかと思います。
田村も言いましたが、お客さん同士の繋がりってとても大事で、”僕はこれがいらないから交換しよう” ってなると、コレクションの幅が広がっていく。
なので、お客さん同士をつなげたり、欲しいカードを一緒に探していける存在になりたい。
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MINT渋谷店では、奥にCAFE&BARが設置され、カード好きな人が集まれる場所になっている。カード好きなMINTスタッフがカウンターに立つので、気軽に質問できるのが嬉しい。

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一般的には、カードショップという物が存在するの?と思っている人が大半だと思う。僕が20年前にJO’sスポーツカードを発見した時と、状況はあまり変わっていないと思う。スポーツカードが、お菓子のおまけではなく、コレクションとして販売しているお店があり、それを仕事にしている会社があるんだっていことも、あまり知られていないと思う。そこを変えていきたいですね。
ちなみに、面白い話があります。フランスだと子供が生まれたら、その年のワインを買って置いて、成人した時にプレゼントする習慣を聞いたことがありますよね。アメリカでは、子供が生まれたら、その年に活躍した新人選手のルーキーカードをプレゼントする習慣も、一部の間ではあるそうです。
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素敵な習慣ですね。
初心者の方がスポーツカードを集めはじめるには、どのような始め方がいいですか?
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まず、1パックでいいので、とりあえず買ってみる。そこから出てきた選手に興味を持つというのが、一つの楽しみ方ですよね。
例えば、阪神ファンの人が購入したカードの中に、西武の「今井達也」選手のカードが出たとする。彼はまだ一軍で登板していないけど、ドラフト1位で有望だから、将来はスターになるかもしれないと注目していくと、その人にとってスポーツを観る幅が広がっていく。
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毎年多くのメーカーが、年間、何十個も新商品のカードを発売している。種類が多すぎて何から買っていいのか困るという相談をよく受けます。まずは、500円ほどの袋に入っているカードを、いろいろと違うメーカー、ブランドで買ってみる。その中で自分の好みの写真、デザインを採用しているメーカー、ブランドを発見して、そこを深掘りしていく。
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例えば、日本のプロ野球12球団のカードを集めるのは無理です。なので、好きなチーム、好きなポジションの選手から集めるのも一つの方法です。また、お客さまの中には、同じ高校出身、大学出身という理由で集めている人もいますね。来日した外国人選手だけを集めているお客さんもいます。
おそらく、カードを買っているうちに、自分の中でテーマを見つけるのでしょうね。
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テーマを持って集めるというは、いい方法ですよね。

スポーツカードを集める魅力とは? スポーツカードに広がる無限の楽しさ。

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最後の質問です。スポーツカードを集める魅力って何ですか?
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スポーツ自体とリンクしていると思っているので、そのスポーツを観戦する楽しさが倍増すると思っています。自分がカードを持っていると、そのカードの選手を応援してしまう。”たまたま、手に入れた選手が気になって。” というように、スポーツ観戦の幅が広がっていく。
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その時代を”歴史”として、カードと一緒に持つことができる。簡単に言うと、カルビーのプロ野球チップスは1973年から始まっているのですが、カードの年代を見るだけで、「あの年は、あの選手がすごかったね」と、カード1枚で、みんなで楽しく会話ができる。
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コミュニケーション・ツールとしての役割はあるよね。
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今日は、目の前のカードを見ながら、3人で楽しく会話していますものね。
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本当は、もっとカードについて話したい。1日あっても足りないぐらい(笑)。
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集める楽しさは、カードが ”自分の歴史” と感じること。自分の写真アルバムとそんなに変わらない。カードを見ると、”あの頃、俺はあれが好きだった”、”このカードは、誰と交換した” など、その当時の自分と、周りの風景を思い出すことができる。
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それ、分かります。今日、僕が持ってきたカード一枚一枚も、どこで買ったのか、誰と交換したのかなど全部出てきますね。
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一枚のカードの裏側には、ストーリーが詰まっているのですね。
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そうですね。この松井選手のカードを見ると、駄菓子屋の記憶がすぐに出て来ます。
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スポーツカードは、”次はこれを手に入れたい” というモチベーションが上がりやすいので、集めること自体が楽しい。
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しかも、スポーツカードはスニーカーやフィギュアと比べて、サイズが小さいので保管場所に悩まず、集めやすそうですね。
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そうですよね。気軽に、持ち運ぶこともできます。
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今日、3人の話を聞いて、トレーディングカードの視点が特に面白かったです。他のコレクションだと"売り買い" の市場があっても、”交換する” というアクションはあまりない。
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そうですね。「カードショー」という、僕らのようなカードを販売する側が一斉に集まるイベントがあります。そこに来るお客さんは、購入目的で来る人もいれば、お客さん同士の交換目的で来る人も少なくない。やっぱり、交換をしないとコレクションの幅が広がらないっていうのは、無数にあるコレクションのジャンルの中でも、スポーツカードの特徴でしょうね。
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なるほど、面白い特徴ですね。
本当だったら、もっとスポーツカードのお話を聞きたいのですが、時間の関係で終わりにさせて頂きたいと思います。

本日は、ありがとうございました!
対談を無事に終えて、記念に一枚。

対談を無事に終えて、記念に一枚。

ーおわりー

今回の対談で利用した「MINT渋谷店」では、定期的に各種イベントを実施しているので、ぜひHPをチェックしてください。

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SPORTS&CARD GAME BAR MINT SHIBUYA(渋谷店)

日本最大級のスポーツカード・ゲームカードショップ「MINT」の渋谷店。
日本全国で店舗を構えるMINTにおいて、渋谷店はカードを販売するショップと共に、お酒が飲めるバーを併設。カードに詳しいMINTスタッフがカウンターに立つので、新しく発売されたカード情報や、探しているカードの情報など、お酒を飲みながら楽しく会話することができる。MINT渋谷店のバーでは、定期的にカードゲームの集いや、スポーツカードのサイン会などを開催もしているので、HPをチェック。

公開日:2017年11月28日

更新日:2022年4月12日

Contributor Profile

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井本 貴明

いろいろなWebサービス作っています。 浦和レッズ、ヨーロッパサッカー中心の生活。 何か面白い企画があったら、ぜひ仲間に入れてください! 好きな映画は、「LOST IN TRANSLATION」。

終わりに

井本 貴明_image

今回のスポーツカード、本当に楽しかった。
特に印象的だったのが、カードを手にしながら話す3人の表情が、終始、微笑んでいたこと。小学生時代、授業の間の休み時間に、Jリーグカードを机の上に広げて、友達同士とワイワイ騒いでいた日々を思い出しました。手のひらサイズの小さなスポーツカードが、会話のきっかけを作ってくれるなんて、、、スポーツカードは、「魔法」の力を持っているのかもしれませんね。

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