再びブームとなったミニ四駆。大人たちはなぜミニ四駆にハマるのか

再びブームとなったミニ四駆。大人たちはなぜミニ四駆にハマるのか_image

取材・写真/手束 毅

世の中に数ある自動車のホビー。それらの中でとくに大人がハマるというモデルカー、ミニ四駆、スロットルカーを3回にわけて紹介するのがこの企画だ。その第1回目はインターネットが存在しなかった80年代、子どもたちが友だち同士で楽しみ爆発的にヒットしたミニ四駆。そんなミニ四駆が、近年、大人たちを中心に再びブームとなっているという。そんな新時代のブームを引っぱる大人たちがミニ四駆にハマる理由を追ってみた。

全日本大会復活がブームの要因に

80年代、90年代それぞれに小学生を中心に2度の大ブームを起こした「ミニ四駆」。
当時、小学生を中心とした子どもたちが夢中になったそのブームは20世紀と共に終焉を迎えたが、ここにきて当時のユーザーだった大人たちが注目しはじめたことで、ミニ四駆が再び脚光を浴びつつある。

ミニ四駆とは模型・プラモデルメーカーのタミヤが販売するモーター付きの自動車模型だ。接着剤を使わずに組み立てできるシンプルなボディ構造を採用しているが、プラモデルとは違い実際に車両が走ることが大きな特徴だろう。

シンプルな構造で誰もが簡単に組みたてることができるのミニ四駆。組みたてたあとは、自分好みに仕上げられるカスタムパーツが数多く用意されている。

シンプルな構造で誰もが簡単に組みたてることができるのミニ四駆。組みたてたあとは、自分好みに仕上げられるカスタムパーツが数多く用意されている。

ミニ四駆の醍醐味は専用コースで友人同士がタイムを競い合えるところ。速くするために多くのユーザーはカスタムにはげむ。

ミニ四駆の醍醐味は専用コースで友人同士がタイムを競い合えるところ。速くするために多くのユーザーはカスタムにはげむ。

ラジコンとは違いステアリング機構(舵取り装置)がないためユーザーが車両を操縦することはできないが、専用コースで車両を走らせて速さを競う。現在、コースは平面だけでなく高低差がある立体的なレイアウトが主流。そのためコースに放つと操縦できないミニ四駆はある意味、ラジコンよりも車体のセッティング能力が求められるホビーなのだ。

MuuseoSquareイメージ

MuuseoSquareイメージ

Hideaway garageに来店していたお客さんたちのミニ四駆。それぞれが個性的な仕上がりだ。

そんなミニ四駆に大人が注目し始めたのは、ミニ四駆の全国大会「ミニ四駆ジャパンカップ」が2012年に復活したことが大きいと言われている。

1988年にスタートしたミニ四駆レースの最高峰「ミニ四駆ジャパンカップ」は1999年まで開催されたが、当時は小中学生のみしか参加できなかった。2012年に13年振りに復活した全国大会は年齢制限がなくなり、大人が真剣に闘える舞台となったのだ。

ただ、以前のブーム時にはすでに適齢期を過ぎていた筆者は、いまになってミニ四駆にハマる大人の気持ちや理由を知りたい。また、その理由を聞くと、自分自身もミニ四駆にハマりそうな予感もある。

「Hideaway garage(ハイドアウエイ・ガレージ )」の3人のオーナー。写真左から上野洋介さん、吉村龍也さん、小島大輔さん。

「Hideaway garage(ハイドアウエイ・ガレージ )」の3人のオーナー。写真左から上野洋介さん、吉村龍也さん、小島大輔さん。

そこで東京都の高円寺にある、ミニ四駆バー「Hideaway garage(ハイドアウエイ・ガレージ )」におじゃまし、自らもミニ四駆にどっぷりハマっている3人のオーナーにミニ四駆にハマる大人たちについての話を聞いてみることにした。

今回話をしてくれた3人のオーナーとは上野洋介さん、吉村龍也さん、小島大輔さん。それぞれが飲食店を経営する3人が「軽い気持ち」でオープンした『Hideaway garage』は、取材時、店内はミニ四駆好きの大人たちで満員。「2時間2000円で飲み放題+(ミニ四駆を)走らせ放題」というシステムながら、お客さんの大半は飲み物そっちのけでミニ四駆をコースで走行させたり、車両のセットアップに励んでいたのが印象的だ。

そんなミニ四駆好きの大人たちが発する熱気のなか、3人のオーナーさんに話を聞いたところ、大人がミニ四駆に熱中する理由について、大きく3つあることがわかった。

【大人がミニ四駆に熱中する理由・その1】カスタマイズでオリジナリティを出せる

子どものころミニ四駆を楽しんでいた人が数十年ぶりにやってみて驚くのが、昔と比べパーツの数が圧倒的に多いことだそうだ。いわば自分好みの車両をカスタムパーツを装着することで作りやすくなったことが、再びミニ四駆にハマる大きな理由となっている。

MuuseoSquareイメージ

MuuseoSquareイメージ

上野洋介さんのミニ四駆。ボディをポリカー製に変更するなど、速さにこだわったカスタマイズがなされている。

MuuseoSquareイメージ

MuuseoSquareイメージ

小島大輔さんのミニ四駆。流行のポリカーボディに交換せずスタイリッシュなプラスティックボディにこだわり、速さと見た目の美しさを両立させている。

「子どもの頃は、友だち同士で同じ製品を購入し、同じように組み立ててもいざ走らせると速さが違うことがありました。それは工場の製造過程などいろいろな理由があると思うのですが、自分で理解できない理由で遅い、速いが決まっていたのです。ただ、今はカスタムパーツが多くなったことで、自らが手を加えて車体を仕上げやすくできるようになりました。例えばコンマ何ミリの細かい調整ができるし、調整してもタイムが落ちるときもある。タイムを伸ばすことやコースで安定して走行するにはどうすればいいか自分で追求し調整する、それができることは面白いですね」(上野さん)

「昔はミニ四駆の外観が友だちとかぶってしまいましたが、今はたとえ同じ製品を購入してもパーツを変えることで見た目を変更でき、オリジナリティを出せるようになっています。そのため速さだけでなく、速いのに格好いい外観にこだわる人も多いですね。ウチのお客さんの中にはタミヤから販売されているパーツをただポン付け(加工無しで取り付ける)せず、極力、手を加えて装着する方もいます。タミヤのパーツだけど公式ルールの範囲内で全部のパーツに必ず手を加える。そこまで全部やるかと思うほどですが、ここまでくればオリジナルのパーツと言ってもいいくらいでしょう」(小島さん)

またパーツだけでなく、ボディカラーにこだわったり速く走らせることを考えず外観をカスタマイズして楽しむ「コンデレ(コンクールデレガンス)」を楽しむ人も少なくないという。
いずれも、ある程度自由になるお金と時間がある大人だからこそハマることができるものだといえる。

【大人がミニ四駆に熱中する理由・その2】難易度が高いコースの見極め

子どもの頃と違う、という部分では専用コースが平面から立体的となりミニ四駆を走らせる難易度が上がったこともそのひとつ。
先に挙げたように、昔と比べカスタマイズしやすくなったミニ四駆はコース特性に合わせたミリ単位の細かいセッティングを行い、短い時間でいかにコースを攻略するかが速く走行できるポイントとなってる。

『Hideaway garage』店内にあるコース。平面だけでなく、立体的なコースレイアウトとするのが最近のトレンドだという。

『Hideaway garage』店内にあるコース。平面だけでなく、立体的なコースレイアウトとするのが最近のトレンドだという。

MuuseoSquareイメージ

MuuseoSquareイメージ

コースで車両がジャンプしたあと衝撃を吸収しコース外に落ちることを防ぐため車体の前後に装着されるスライドバンパー(黄色矢印)。

安定した走行を可能とするため車体の重心をできるだけ下げる「ヒクオ」と呼ばれるカスタムが現在のトレンド。左の車両を見てわかるように、車体はかなり低く仕上げられている。

安定した走行を可能とするため車体の重心をできるだけ下げる「ヒクオ」と呼ばれるカスタムが現在のトレンド。左の車両を見てわかるように、車体はかなり低く仕上げられている。

「コースが立体化していることで、走行中に車両がジャンプして跳ねても衝撃を吸収しコース外に落ちないための“スライドバンパー”、そして車体をできるだけ低くし重心を下げる“ヒクオ”、これらはいまのトレンドといえるものですね」(上野さん)

また、速く走らせるために効果的な軽量化も進んでいる。昔はボディにドリルなどで穴を開ける「肉抜き」と呼ばれる軽量化が流行ったが、いまではそのボディ自体をプラスティックではない軽い素材のものに変えることが主流なのだとか。

ただ、車体を軽くすればいいというわけではない。速く走るためにはコースに合わせたバランスが重要になるという。

「ただ軽さを追求するとコース上でジャンプしたときフレームがゆがむことがあり、コースに合わせた調整が必要となります。1回セッティングしたからといって車両をそのままずっと走らせていくものではないですね」(小島さん)

コースに合わせ、ミニ四駆をバランス良く調整するためにネジや工具は欠かせない。

コースに合わせ、ミニ四駆をバランス良く調整するためにネジや工具は欠かせない。

セッティングを変えたからといって、必ずしも速くなるわけではない。タイムを更新するためには何度も調整を繰り返すことが必要となる。

セッティングを変えたからといって、必ずしも速くなるわけではない。タイムを更新するためには何度も調整を繰り返すことが必要となる。

それらの調整やコースの見極めるためには、何度もトライアンドエラーを繰り返し経験を積む。これが、チャレンジ精神を持つ大人心をくすぐっているのかもしれない。

「コースを見極めるにはアレがダメだったからこうしよう、と何度も挑戦を繰り返すことが必要となります。ネジ一本、約5分で簡単に調整できるのがミニ四駆ですが、レースで勝つためにはコースの特性に合った車両のバランスが重要となるため手軽だけど奥が深いホビーです。例えば、速いモーターを積んだ車両がノーマルのモーターを搭載した車両に負けることも珍しくありません。また軽く仕上げても、コースアウトしたらそれで終わり。負けず嫌いな人ほど、次へ次へと挑戦していくことが多いですね」(上野さん)

【大人がミニ四駆に熱中する理由・その3】頭とお金を使うことで速さを追求できる

店内で販売されているカスタムパーツ。ひとつひとつの価格は高価ではないが、いくつも装着していくとそれなりの金額になってしまう。

店内で販売されているカスタムパーツ。ひとつひとつの価格は高価ではないが、いくつも装着していくとそれなりの金額になってしまう。

ミニ四駆自体は「ただ走らせる」だけであれば、子どもでも楽しむことができる。しかし、速さを極めるためにどうしても必要なのが「お金」だ。

パーツひとつは300円くらいとはいえ、装着すればすぐ速くなるわけではない。パーツによっては破損したり消耗するため10コ単位で購入することが珍しくないものの、それらを装着したとはいえ上手くいかないことは珍しくないそうだ。そうなると、一気に3000円を超え、さらにそれを繰り返すと何万、何十万になってしまう…。
ある意味、大人だからこそ楽しめるのがいまのミニ四駆なのかもしれない。

「私はラジコンを趣味にしていましたが、ラジコンを速く走らせるには難易度が高い車体のセッティングではなく操縦テクニックを磨けばいい。それに対して、ミニ四駆を速く走らせるためには車体のセッティングが全て。速く走らせるために私がこだわっているのは、限定パーツをふんだんに使うことです。ネットやTwitterで『このパーツを装着すればいい』と話題になると買い時を逃した900円くらいのパーツがみんなが大人買いをするおかげで5000円くらいになりますし、なかには万を越えることも…。パーツに何千円も使えないと離れる人もいますが、ミニ四駆にハマっている人からすると安い趣味だと思っているんですよ」(吉村さん)

MuuseoSquareイメージ

MuuseoSquareイメージ

吉村龍也さんのミニ四駆。前後に装着されたスライドバンパーなど、各所に限定パーツをふんだんに使い仕上げられた。

こう話してくれた吉村さんのミニ四駆は、カーボン製のプレートなど限定パーツをふんだんに使い組み上げたため価格は約4万円。ただそんなお金がかかるパーツを装着するのは、いちにも二にも速さにこだわるためだ。

「大人がミニ四駆にハマるのは時間やお金に余裕があることはもちろん、それ以上に頭を使い考えることで速さを追求できるからではないでしょうか。パーツやセッティングにこだわり追求すればするほど所有するミニ四駆は速くなっていく、それが面白いんですよ」(吉村さん)

ただ、限定パーツは再販されたり類似するものがあるため、それを装着すればいいのではと思ってしまうが、大人になったミニ四駆ユーザーはそれでは満足しないのだという。

「人気が出たパーツが再販されることもありますが、最終的にオリジナルがいいとなりますね。しかも同じパーツでも『マレーシアで作られたものがいい』『金型はここの工場』『製造された年月日はいつのもの』など、どこからそういう情報が出るかはわかりませんがそこまでこだわるユーザーは多いです」(上野さん)

お金と頭を使って速くすることに努力すれば、その分報われるのがいまのミニ四駆。「コース一周をいかに速く走行できるか」というわかりやすくて、それを達成するのが難しい目標に向かい、全身全霊で突っ走る──まさに大人の遊びである。

まず純正品を組み立ててミニ四駆の世界に入ろう

MuuseoSquareイメージ

と、ここまではなぜ大人たちがミニ四駆にハマったのかをインタビューしてきたが、これまでの話を聞くかぎり「速さ」を追求するだけが楽しさのように思えるかもしれない。

しかし、高価な限定パーツをふんだんに使い、ミニ単位でセッティングを行うだけがその楽しさではないと『Hideaway garage』のオーナーさんたちは語る。


「あまり難しく考えず、気軽に入ってみるのがいいのではないでしょうか。やってみて楽しかったら続ける、ミニ四駆はそんなに難しいものではありません」(小島さん)

「まずは純正品を購入し組み上げてみることから始めていくのがいいですよ。ミニ四駆を組み立てるのはプラモデルを作ることと同じようなものですし、値段も1000円かかりません。組み立てたあと、突き詰めるかどうかは個人差があると思いますが、まずは作る楽しさを味わうのがいいのではないでしょうか」(上野さん)

「再びこの世界に入ってくる人にとって、子どもの頃のミニ四駆とは違うと感じる人がほとんどだと思いますよ。いったん入ったら深みにハマる人が多いのです(笑)。ただ、コースをノーマルのまま走らせて楽しんでいる人もいます。楽しみ方が人それぞれなのもミニ四駆の魅力だと思いますよ」(吉村さん)

ーおわりー

Hideaway garage(ハイドアウエイ・ガレージ)

お酒を飲みながら、2ヵ月おきに組み替える本格的なコースでミニ四駆を走行できるミニ四駆BAR。ミニ四駆の本体やパーツの販売、工具の貸し出しも行っているので手ぶらで来店しても楽しめる。

休日などは混雑していることが多いため、予約してからお店へ向かうことをお勧めしたい。

営業時間:18時~26時
料金:2時間2000円 飲み放題/延長30分500円
住所:東京都杉並区高円寺南4-5-3豊岡ビル3F
TEL:03-5929-8659

※Hideaway garageは2017年11月26日をもって閉店しました。

トイ・フィギュアを一層楽しむために。編集部おすすめの書籍

2020年から2021年にかけて発売された世界各地の最新ミニカー1,900台以上を収録

51kukjyhzal. sl500

ミニカー年鑑2021

世界各国のメーカーからリリースされる数多くのミニカー。

その膨大なモデルを網羅、ブランドごとに紹介していく毎年恒例のミニカー年鑑の最新版、「ミニカー年鑑2021」が遂に登場!

今年も老舗・有名ブランドから新進気鋭の新興メーカーまで、話題の新製品を一挙掲載しています。

ミニカーの歴史を写真とともに辿る

51uw69mczfl. sl500

ビンテージ・ミニカー―懐かしい海外ブランド・ミニカーの世界 (Neko mook―Neko hobby mook (618))

ミニチュアカーの歴史、それは自動車の誕生とほぼ時を同じくして始まった。精巧さやリアルさでは現代のミニカーに及ばないが、素朴な出で立ちや心和むディテールで魅了する黎明期のミニカーたち。その歴史を写真とともに辿る。

公開日:2015年10月10日

更新日:2021年12月6日

Contributor Profile

File

手束 毅

自動車専門月刊誌の編集を経て現在はフリーエディターに。クルマはもちろん、モノ系、ミリタリー、ファッション、福祉などなど「面白そう」と感じた様々な媒体やテーマに関わっているものの、現在一番興味がある「もつ焼き」をテーマにした出版物の企画が通らないことが悩みの種。

終わりに

手束 毅_image

速く走るためにはある程度のキャリアやお金が必要となるミニ四駆とはいえ、組み立て自体は接着剤もいらないほど簡単な作業。そこからの楽しみ方は人それぞれで無限大だというミニ四駆に、大人たちがハマるのは不思議なことではないなとオーナーたちの話を聞いて感じた取材となりました!

Read 0%