日本ラジオ博物館 館長 岡部さん インタビュー

日本ラジオ博物館 館長 岡部さん インタビュー_image

文章/写真:井本貴明

長野県松本市にある、日本ラジオ館では日本製のラジオを中心に約30年にわたり収集してきた資料を、放送の歴史の流れに沿って分類、整理して松本市の博物館およびインターネット上で公開しています。紹介している期間は世界初の放送が開始された1920年から1972年頃までのものが多いですが、内容によって現代に近い時代まで取り上げています。
今回は日本ラジオ館の館長の岡部さんに取材してきました。

ラジオの歴史を知り始めると、ラジオの単純な”メカの面白さ”という部分から、さらに深い部分まで興味が湧いてきました

館長の岡部さん。ラジオの知識はもちろん、テレビやステレオに関する知識も豊富です

館長の岡部さん。ラジオの知識はもちろん、テレビやステレオに関する知識も豊富です

mso:日本ラジオ博物館の成り立ちを教えてください。

岡部:私自身が30年ぐらいかけて集めてきたラジオをお見せしたいと思い、2007年にインターネット上にホームページを立ち上げ、バーチャルのミュージアムとして公開を始めました。こちらの方もかなりの規模になっています。
その後、友人の縁から、この長野県の松本市の建物が使えるようになりまして、2012年の4月から実際の博物館として「日本ラジオ博物館」をオープンをさせました。今年で3年目ですね。


mso:なぜラジオを集め始めたのですか?

岡部:最初はいわゆる”ラジオ少年”でした。ラジオの組み立て、解体などの電子工作が好きになり、テレビやステレオまでをいじっていましたね。
30年以上前は道端にラジオ、テレビなどが捨ててあったり、電気屋の裏に山のように積まれていました。そういうのを拾ったり貰ったりして、自分で直して使っていました。それがラジオを集め始めですね。
その後もラジオに興味を持ち続け、「NHK放送博物館」などに行きラジオの歴史を知り始めると、ラジオの単純な”メカの面白さ”という部分から、さらに深い部分まで興味が湧いてきました。その後は、ラジオの数をさらに増やしましたね。


mso:岡部さんにとって、ラジオの魅力とは?

岡部:オーディオやステレオ機器も好きなのですが、「それらとラジオは何が違うのか?」と考えた事があります。カメラ、扇風機のような家電は能動的に自分が使うだけですが、ラジオやテレビは番組が送られてこないと「ただの箱」です。しかし、古いラジオを修理すると、現在の放送を聞く事ができます。
ラジオやテレビは、メディアと繋がって受信する機器です。単なる家電と言うよりも広がりがあります。番組の放送との繋がりという意味で、エレクトロニクスとしての歴史もありますが、メディアの歴史とも繋がっています。そこが面白いところですね。

私は基本的には「正常に動くかどうか」と言う事にはあまり興味はなく、そのラジオが「どれだけ語ってくれるか」ということに興味があります

1923年発売の、一般家庭に普及し始めた頃のラジオ。存在感がありますね

1923年発売の、一般家庭に普及し始めた頃のラジオ。存在感がありますね

mso:現在は、何点ほど所有していますか?

岡部:1500点程ですね。


mso:どのようにしてラジオを集めたのですか?

岡部:最初は、捨てられている物を拾ったり、知り合いから貰ったりしていました。そのうち、ある程度のお金が使えるようになると、骨董市や古道具屋で買った物が多いですね。20年以上前は、ラジオは大して価値がある物ではなかったので、古道具屋の人と知り合いになると、「ラジオを1年分貯めといてやるから、まとめて引き取りに来てくれ」っていう感じでしたね。大きな車で古道具屋の倉庫まで行って、車に入るだけの量を購入したこともありましたね。これを3、4年やりました。そのようにして基本的なラジオを集めました。
博物館をオープンさせてからは寄贈として頂く物もありまして、その数がさらに増えてきました。


mso:ラジオを集める上で、ポリシーはありますか?

岡部:私は基本的には「正常に動くかどうか」と言う事にはあまり興味はなく、そのラジオが「どれだけ語ってくれるか」ということに興味があります。新品に近い形で蔵に保存されていたラジオと、ずっと使い続けていたラジオを比較したら、後者の方が面白い。ラジオに子供の落書きがあったり、修理がされたりしている物は、「どのようにしてラジオを使っていたのか?」「このラジオがどういう位置づけだったのか?」のように、いろいろと想像ができて、背景を語ってくれる物の方が好きですね。


mso:ラジオを集めて苦労した点はありますか?

岡部:置き場所が悩みます。
ラジオを積み上げて押し入れの中に押し込むという状態になると品物にも良くないですし、結局、”ただ持っている”という事になってしまいます。それは残念ですね。そして物が増え続けると、メンテナンスも出来なくなってきます。なので、どこかで綺麗に整理が出来たり、回りの人から見てもらえる場所が欲しいとずっと思っていました。

館内には、ラジオだけでなくテレビやステレオも一部展示。”メディア”の観点からラジオとの関係性を説明しています

館内には、ラジオだけでなくテレビやステレオも一部展示。”メディア”の観点からラジオとの関係性を説明しています

mso:岡部さんのお気に入りのラジオはありますか?

岡部:戦時中から終戦直後の、苦労している時代の製品が好きですね。当時のラジオは、デザインや性能という観点から見ると劣る部分があるのですが、物がない苦しい時代に職人が一生懸命作っていたラジオには惹かれるものがありますね。


mso:現在、欲しいラジオ、探しているラジオはありますか?

岡部:いろいろとあるのですが、、、特に日本のラジオ放送が始まる前のラジオが欲しいですね。この博物館には、日本のラジオが始まって以降の物はたくさんあるのですが、アメリカでラジオが始まった直後の20年代のラジオは持っていないので欲しいですね。現在では高価な物になっているので、手に入れるのが難しいです。

また、新しい時代の物も探しています。博物館として”歴史を語る”上で必要なので。例として、iPodの初期モデルを探しているのですが、あまり見つからないですね。ラジオ、ステレオ、CDなどは、流行りの観点でお互い絡みあっているので、ラジオを語る上で博物館として置いておきたいです。現在でいうと、スマホやiPadでラジオが聞けるので、そのあたりの機器も持っていた方がいいのではと考えています。

この先も博物館を続けるとしたら、今の物も揃えておく必要があると思います。10年後、20年後に「こんなのもあったね」という話になるので。後から探すとなかなか見つからないので大変になります。なので寄贈して頂ける物は、比較的新しい時代の物も、喜んで頂いています。

今後も、お金が払える範囲で、自分の趣味だけではなく、これからの時代のコレクションという物も揃えたいと考えています。

「歴史を語る上で、このラジオは必要なのか?」という観点で集めるようにしています

日本ラジオ博物館の外観。松本市の観光スポットとして便利な場所にあります

日本ラジオ博物館の外観。松本市の観光スポットとして便利な場所にあります

mso:コレクターとしてのゴールはありますか?

岡部:何でしょうね(笑)。今までは「あれも欲しい」「これも欲しい」という感じで、自分が欲しい物をたくさん集めていましたが、最近はちょっと変わってきました。
このような博物館を始めた事で、「歴史を語る上で、このラジオは必要なのか?」という観点で集めるようにしています。どちらかと言うと、コレクター個人が集めると言うよりも、博物館としてのコレクション集めをしていますね。なので個人的には欲しくないけど、博物館的に必要なので購入することもあります。


mso:私設ミュージアムをオープンして、良かった点はありますか?

岡部:品物を寄贈して頂ける事がある。寄贈して頂ける場合は、持ち主本人から頂く事が多いので、買った当時の思い出や、どう使っていたか、などのヒストリーが付いてくるのがいいですね。
もう一点は、博物館に来られる方は年配の方が多いのですが、昔メーカーに勤めていた方や電気屋をやっていた方などが、遊びに来てくれます。そして、当時の品物に関する話をしてくれますので勉強になります。例えば、私は真空管ラジオの時代の全盛期は知らないのですが、その当時リアルタイムに使っていた人から直接話を聞けるのは、とても勉強になります。


mso:私設ミュージアムをオープンして、苦労した点はありますか?

岡部:普通は”私設ミュージアム”と言うと、自宅で公開をして連絡があったら開ける、というような不定期な開館の場所が多いと思います。1人で運営しているので、仕方がないと思います。しかし、日本ラジオ博物館は、松本市の観光地の真ん中にあり、回りの観光施設との連携もあるので、不定期での開館ができないのです(笑)。通年で博物館を開けないといけない状況です。なので、友人4、5人で回しているのですが、「今週は都合が悪いから、なんとかならない?」のように、通年開館をする為の人のやり繰りが大変ですね。

放送が始まった頃から年代別にラジオがあるので、「このような流れがあって現在のハイテク製品に繋がるんだよ」という歴史を感じ取ってもらえたらいいと思います

特別展「ラジオのデザイン展」の展示風景。年代別に並んでいるので、鑑賞しやすいです

特別展「ラジオのデザイン展」の展示風景。年代別に並んでいるので、鑑賞しやすいです

mso:展示方法に関して工夫されている点はありますか?

岡部:ラジオ博物館の場合、個人コレクションを見せると言うよりは、もっと本格的な博物館の形を取りたいと思っています。なので、私自身の興味や好みのラジオもたくさんあるのですが、この博物館では私的な感情を除いて、客観的な視点でコレクションを並べるようにしています。説明の仕方も全て客観的に書いています。そして、1つのメーカーにこだわらずに、出来るだけいろいろなメーカーのラジオを展示するようにしています。


mso:今後の展開予定を教えてください。

岡部:特別展を年2回やっています。
現在は「ラジオのデザイン展」で、外観の工業デザインの歴史を説明できる展示をしています。次回は戦後70周年ということで「ラジオと戦争」というテーマで、7月の前後辺りから年末ぐらいまで展示をしたいと思います。さらにその後は、「放送90周年」ということで古いラジオを中心に特別展として並べようと思っています。


mso:特別展の情報はどこから入手できますか?

岡部ホームページから確認をお願いします。


mso:最後に、日本ラジオ博物館に興味がある読者の方に、メッセージがあればお願いします。

岡部:ラジオの”90年間の歴史”というものを分かりやすく並べている博物館になります。
当館はいろいろな見方が出来ると思います。年配の方であれば、昔を懐かしんで見て頂くのも楽しいと思います。また、放送が始まった頃から年代別のラジオがあるので、「このような流れがあって現在のハイテク製品に繋がっている」という歴史を感じ取ってもらえたらいいと思います。

ーおわりー

モダンなデザインを取り入れた1933年頃の米国製のラジオ

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欧米でヒットした1958年発売のSonyのポケット型ラジオ

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1946年にビクターが発売したオールウェースーパーラジオ。戦後直後の日本メーカの頑張りが伝わります

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超小型ラジオ。海外では女性に贈るプレゼントとして人気があったそうです

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日本ラジオ博物館からの眺め。多くの観光客で賑わっていました

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File

日本ラジオ博物館

日本ラジオ館では、日本製のラジオを中心に約30年にわたり収集してきた資料を、放送の歴史の流れに沿って分類、整理して松本市の博物館およびインターネット上で公開している。紹介している期間は、世界初の放送が開始された1920年から1972年頃までのものが多いが、内容によって現代に近い時代まで取り上げている。

コレクションを一層楽しむために。編集部おすすめの書籍

ラジオの全歴史を知ることのできる一冊

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ラジオの技術・産業の百年史―大衆メディアの誕生と変遷

長野県松本市にある日本ラジオ博物館には、1500点を越えるラジオが収められている。
膨大なコレクションの写真を掲載しつつ、ラジオの発明、放送技術の誕生、放送局の設立、世界各地での放送開始から、戦時下の国家による統制・管理の時代を経て、戦後の娯楽メディアとしての興隆、そしてテレビ、インターネットの影響によるラジオの変容まで、100年の歴史を追う。

英米独日の各国を時系列的に比較する画期的なメディア史

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現代メディア史 新版 (岩波テキストブックス)

19世紀後半以降のメディアの発達は、あらゆる情報が氾濫する現代社会の成り立ちにどのような影響を与えてきたのか。国民国家形成の歴史のなかに、出版・新聞・映画・ラジオ・テレビといった各領域の発展を位置付け、英米独日の各国を時系列的に比較する画期的なメディア史。1998年の刊行以来読み継がれてきたロングセラー、待望の新版。

公開日:2015年2月23日

更新日:2022年4月7日

Contributor Profile

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井本 貴明

いろいろなWebサービス作っています。 浦和レッズ、ヨーロッパサッカー中心の生活。 何か面白い企画があったら、ぜひ仲間に入れてください! 好きな映画は、「LOST IN TRANSLATION」。

終わりに

井本 貴明_image

長野県の松本市にある「日本ラジオ博物館」。
”ラジオ”と聞いて想像するのは長方形の黒いラジオでしたが、今回、日本ラジオ博物館を訪れて、様々なラジオの形があることに驚きました。工業製品としてデザインが精錬されている物もあり、美術館のような感じでもありました。そして、Sony、Nationalなどの日本メーカーの頑張りもラジオのデザイン変化を通して伝わってきました。
また、ラジオ博物館が面白いのは、ラジオだけでなくステレオやテレビなども展示されています。それは、”メディア”の観点から、ラジオやテレビを関連づけて、歴史を紐解いているそうです。館長の岡部さんの、博物館に対する考えが反映されていますね。
松本駅から近く、観光地の真ん中にあるので、松本観光スポットのひとつとして訪れるのに便利です。信州に興味がある方は松本を訪れて「日本ラジオ博物館」にも足を運んでみてください。

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