手に馴染み、美しい「京都おはし工房」のお箸。日々を共にする究極の道具

取材日: 2015年7月24日

取材・文/堤 律子
写真/田中 幹人

手に馴染み、美しい「京都おはし工房」のお箸。日々を共にする究極の道具_image

「道具」は、その役割を果たし、使う人の手に馴染み、もちろん使いやすく、そして欲を言うなら、ふと目に入った時に、しばし眺めていたくなるような美しさを持っていて欲しい。
物心ついた時からほとんど毎日、日に何度も使う箸は、間違いなく日本人が最も手にする「道具」であり、京都おはし工房の「豹麗木(ひょうれいぼく)」は、先のすべてを満たす究極の道具である。

豹麗木御箸(5万4,000円)

豹麗木御箸(5万4,000円)

料理の美味しさを引き上げる 「木のダイヤモンド」から生まれる箸

豹のような、虎のような、蛇のような。不思議な模様に魅かれて手に取ると、まるでしっとりと艶やかな髪を撫でているような滑らかさにハッとする。箸先の方へ指を滑らせると、迷いなく細くすぼまって自然に指から離れてしまう。今まで使ったどの箸より細い箸先に驚くが、やはりその他にない模様に心奪われる。


「見た目の通り、豹の模様に似ているので『レオパードウッド』。別名スネークウッドです。中南米の銘木で世界一堅く、希少価値が高いので『木のダイヤモンド』と呼ばれています。一般的に、箸には使われません」そう教えてくれたのは、「京都おはし工房」のご主人で、独立御箸師を名乗る北村隆充さん。レオパードウッドは通常、百万円を越えるような最高級ステッキの材料として使われるそうだ。


「使い心地を試してください」とごまの入った小皿を差し出され、豆よりハードルが高いことに少々緊張しながら箸をのばすと、箸先がスッと一粒つまんでくれた。箸を使う人の「つまみたい」という気持ちが少しあれば、あとは箸先がつまんでくれる、そんな感覚に近い。けれど、細さゆえの一番の美点はつまみやすさではない、と北村さん。


「他の箸と一番違うのは口当たりの差なんです。ワイングラスの厚みが薄ければ薄いほどワインを美味しく感じるように、唇に触れる箸の面積が小さいほど、食材の味を損なわず、料理を美味しくいただけます」。


この堅く、繊細な箸先ならどんな料理も美しい箸さばきで食事を楽しむことができるーー普段、何気なく箸を使っている私でさえ、そう確信してしまう堅牢さと繊細さ、美しさがあるのだ。

MuuseoSquareイメージ

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木材の仕入れから製作、販売まで。 最高品質を追究する独立御箸師

北村さんが独立御箸師として現在の店を創業したのは2003年。それまでは老舗のお箸専門店で、11年勤めた。ただ、北村さんの担当は販売だった。


「販売する人と製作する人が完全に分かれていました。お客様のご要望を製作側に伝えても、全然違うものが出来上がることもしばしば。11年勤めていましたが、実は作っているところを見たこともありませんでした」。北村さんは、本当に良いものを作ろうとするなら、木材の選定から製作、販売まで一人の人間がするべきだと考えるようになった。


さらに独立した理由の二つ目に、「箸に使われる原料も、人の体に安全だと納得のいくものにしたかったから」と話す。「まだ小さいうちから箸を使うというのに、実は大抵の箸は合成塗料で仕上げられています。シックハウス症候群や環境ホルモンによる有害物質が、今でも次々に見つかっていますよね。箸に使われる塗料はもちろん国が定める安全基準をクリアしたものですが、数年間動物実験を行った結果が、本当に安全なのでしょうか」。だから、北村さんが手がける箸には、すべて天然の本漆でツヤ出しと防水加工が施されている。


体に安全な材料を使い、製作から販売まで行うことに決めた北村さん。同じように、大手のメーカーに属さず、部品の製作からデザイン、販売までをひとりでこなすスイスの時計職人を「独立時計師」と呼ぶそうで、彼らの信念「分業制や下請けに任せていては本当に良いものはできない」という言葉に感銘を受けた北村さんは、敬意を表して自らを「独立御箸師」と名乗ることにした。

世界中から取り寄せる銘木の数々。中央左の水墨画を思わせる美しい模様が入った「黒柿」は、国産銘木の最高峰。右のピンクアイボリーや、奥のパープルハートといった鮮やかな色味も天然のもの。

世界中から取り寄せる銘木の数々。中央左の水墨画を思わせる美しい模様が入った「黒柿」は、国産銘木の最高峰。右のピンクアイボリーや、奥のパープルハートといった鮮やかな色味も天然のもの。

箸の材料となるのは 世界中から集めた銘木100種

京福電鉄、通称嵐電(らんでん)「妙心寺駅」と仁和寺を結ぶ、落ち着いた通りに佇む店舗は決して広いとは言えないが、ところ狭しと並べられた箸の数と種類に圧倒される。


それぞれに木材の説明書きがされていて、京都産の竹もあれば、アフリカ産のもの、南米アマゾン産のものまである。「どの木が箸に向いているかと、独立してからはとにかくありとあらゆる木を世界中から取り寄せました。箸に使うのは、木材の心材(中心)の部分だけ。外から見ると普通の木でも、心材に色や模様が入っているんです。だから、削り出してみないと美しい模様になるか、まず箸として使えるか分からないので、仕入れた木材のほんの一部しか使えないということも。現在取り扱っているのは、竹が10種類、木が90種類ほどあります」。


豹麗木のように、通常箸ではなく(当然、箸の素材にこだわるのは世界中で日本だけなので、ほとんどの木は箸の材料として市場に出ない)、違うものを作るために産出されるのだが、北村さんは様々な木を試して、箸に向いた堅牢な素材を追究した。だから、どこで生まれた木で、一般的には何を作るための木なのかという背景を聞くと、一層北村さんの手によって箸となった木材に物語性が生まれ、愛着が湧く。


例えば、『漆黒木(しっこくのき=アフリカンブラックウッド)』。


東アフリカで採れる黒い心材を持つ木で、黒壇をしのぐ堅牢さから、主にクラリネットやリコーダーなどの高級楽器用に使われている。また黒檀、『エボニー』と呼ばれる木材は、最高級ピアノの黒鍵に使われるもので、ピアノを弾く人への贈り物として購入されることもあるそうだ。


さらに、およそ100年周期で花を咲かせ、一斉に咲いた後すべて枯れる竹には、独特の黒い染みが浮かび『染竹(しみだけ=ステインバンブー)』と呼ばれて珍重されるそうだが、それを使った箸まで並ぶ。また、古民家の天井で100年以上も囲炉裏に燻られ、飴色に染まった名竹『煤竹(すすだけ=スモークステインッドバンブー)』など、どの木材も興味深い物語を持っていて、きりがない。


オーダーは、これらの中から木材を選び、性別と身長から箸の長さを決める。あとは、四角形か八角形、流線型、小判形と形を選ぶそうだ。形は好みだが、圧倒的に多いのは、一番持ちやすい八角形だとか。「箸の上の方を持つ癖がある方は、流線型がおすすめです」。現在、オーダーは4ヶ月待ち。新年と共に箸を新調する人も多いそう。


人生で、何度箸を口に運ぶだろう。そう考えた時、手に取るたび箸が持つ物語を時々思い出したり、その使い心地に心弾ませたりできる方がいい。「自分だけの箸」を誂えるのも、人生を豊かにする方法の一つなのだ。

File

京都おはし工房

京都市右京区花園天授ヶ岡町16−5
075−464−3303
10:00〜17:00
木曜・日曜定休 ※平日の祝祭日は営業(お盆、年末年始、臨時休業は要問い合わせ)

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