ブラウンカラーの靴クリームをマニアックに比較。革靴好きがこだわるその違い!

文/飯野高広
写真/松本 理加

革靴クリーム比較の第2弾! M.モウブレィ、コロンブス、サフィールノワールなど、有名シューケアブランドのダークブラウンカラーを比べてみました。服飾ジャーナリスト・飯野高広さんのマニアックな比較解説、今回も読み応えありです。

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先日の「黒の靴クリーム」の記事には、予想以上に多くの反響があり、多くの方から「今度は茶色で比較して!」とのリクエストをいただいた。

ただ、実はこの案、最初は若干戸惑いがあった。意外に思うかもしれないが、その色の靴クリームはそこまで積極的には用いてこなかったからだ。

理由は簡単で、その色の靴自体を多くは持っていないから。青なり赤なり緑なり、他の色味は明らかにダークトーン好きなのに、私は紳士靴に限らず、茶系の革製品だけはミディアムブラウン系が圧倒的多数。

経年変化やお手入れを通じ、茶系のそれは徐々に「自分の色」に染まるのを楽しみたいからで、初めから濃い色味のダークブラウン系の靴は、そんな「育てる」面白みには欠ける気も。それに、たとえ焦げ茶色の靴であっても、大概はミディアムブラウン系の靴クリームでお手入れしてしまうし……

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とは言え世間を冷静に見渡すと、ダークブラウン系の紳士靴がビジネスの場面では黒に次いで実用性が高いのも事実。だからこその皆さんのリクエストなのだろう。

そこで今回は、「黒」とは銘柄を若干入れ替えて、特徴的なものを5つ紹介・比較してみたい。なお、公平を期するために色名は「ダークブラウン」のもので統一した。さらに暗い色調の茶系が複数色用意されている銘柄が中にはあることも、初めにご了解いただきたい。

この中では一番素直で透明。M.モゥブレィ・プレステージクリームナチュラーレの「ダークブラウン」

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黒の回でもお話しした通り、かつての英国を代表する乳化性靴クリーム=メルトニアン直系の「M.モゥブレィ シュークリームジャー」の高級版がこれ。

今回ご紹介する中では最も素直なダークブラウンで、黒と同様に若干の青み・緑も帯びているのが特徴。みずみずしさや「抜けの良さ」が備わっているのもこれの黒と同様。また、塗った際の「筆さばきの跡」が比較的残りやすいのも、メルトニアンの茶系から受け継いでいるが、これは好みが大きく分かれるのかもしれない。

アンティーク加工的なムラ感や色ムラを楽しみたい方は、このタッチは大いにアリというか「こうでなければ!」だろう。一方均質な色味をより重視したい方には、扱いに若干難儀する靴クリームかも。ちなみに私は、当然前者。

ダークブラウン以上にチャコールグレイ。サフィールノワールクレム1925の「ダークブラウン」

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蜜蝋ベースの基本レシピを1920年代の登場以来守り続ける、実は油性の「元祖高級靴クリーム」の最新バージョン。こちらのダークブラウンは、「茶色」と言うよりはる遙かにチャコールグレイに近い、無二の「くすみ」を有するのが大きな特徴。

実はこのニュアンスだからこそ、このクリームは極めて実用性が高い。すなわち色ムラを起こし難いことを意味するので、慣れていなくても安心して使え、特にアッパーの色味をなるべく均質に落ち着かせたい時には最適な選択肢になる。

私は黒の靴クリームでは出せない、変な例えだが薄口醤油的なコクを求めて、これを敢えてアッパーが黒の革靴にも使うことがあるほど。そう、これの「黒」を茶系の靴に塗ってしまうのと似た使い方が可能なのだ。

ダークピンクとでも呼ぶべき華やかさ。ヴィオラシュークリームの「ダークブラウン」

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日本のジュエルが製造するこちらは、乳化性でありながら水分を敢えて少なめに配合しているためか、ちょっと硬めの質感と石鹸のような香りが特徴。そしてダークブラウンの色味についても個性的で、今回の5つの銘柄の中では最も赤味、と言うか桜色のような華やかさを感じる。

日本製の靴クリームの中では最初に「顔料無使用」を公言しただけのことはある、優雅さを感じさせる色合いだ。更には乳化性でありながら油分の浸透力が抜群で、油性である2.のサフィールノワールよりも早く紙の裏面に油分が抜ける。

革の色味のニュアンスを徐々に、でも確実に変えて行きたい時にとても重宝する靴クリームなのだが、流通量があまり多くないので、見付けたら是非とも購入しておきたい。
(なお、この靴クリームには「ディープブラウン」や「コーヒーブラウン」のような、もっと黒味掛かった茶系の色も用意されている)

花曇りの阪急電車。コロンブス ブートブラックシュークリームの「ダークブラウン」

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我が国の最大手・コロンブスがサフィールの製品の取り扱いを終了したのに伴い、その後継ブランドとして満を持して自社製造に踏み切ったシリーズの基幹商品。

こちらのダークブラウンは、茶色と言うよりも明らかにワイン色掛った赤味と青味を帯びたもので、ふと、以前住んでいた神戸でお世話になったあの電車の色を思い出してしまう。

塗り心地や色の残り具合は、同社の一般的な靴クリームとほぼ同様の、特段変なクセを感じさせないもの。とは言え、粒子が細かいためなのか、(こう言ってしまっては何なのだが)銀付きのカーフのような程度の良いアッパーの靴より、ガラスレザーのような通常はあまりお手入れし甲斐のないアッパーの方が、品質の良さをより実感できる。
(なお、この靴クリームにも「ディープブラウン」や「コーヒーブラウン」のような、もっと黒味掛かった茶系の色の展開が用意されている)

色味に圧倒的なパワーを感じるコロニル1909シュプリームクリームデラックスの「ダークブラウン」

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今回採り上げた5つの商品の中で、ダントツに「色」がハッキリ認識できるのがこちら。高級靴クリームのトレンドを加速させた同社の「ディアマント」の後継商品で、それと同様にクリームというよりローションに近い液体系の質感も異彩を放つ。

革に塗りやすいといえば塗りやすいのだが、加減が分からないと塗り過ぎてしまうリスクも少々あるかも。タバコ系の香りも好みが分かれそうだ。一方、これも液体系だからかもだが、これでお手入れすると革が結構柔らかくなる気がする。

顔料入りなのかディアマントに比べると着色力は明らかに向上しているので、経年で色味が枯れ革質も疲れた状態になってしまったダークブラウンの靴を再生させるには、これが最適かもしれない。

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国産革靴クリームのダークブラウンは赤みが強い⁉︎ 飯野さんによる色味比較の分布。

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さて4分割マトリックスでは、素直に縦軸に黄みと青み、横軸に赤みと緑みを配してこの5つをブランド別に比べてみた。

何せ茶色なので、緑系の印象があまり多くないのは想像できるが、それでも1のM.モゥブレィ・プレステージにはそれが僅かに感じられる。

2のサフィールノワールは本当にグレイ感が強くてほぼ中央に収めざるを得ない。一方で国産の「ダークブラウン」が3・4共に赤みを強く感じる点も興味深い。

どちらも他に焦げ茶系の色が複数用意されている点も共通であり、要は日本人にとっての「ダークブラウン」は、やや赤みを帯びものなのかなと認識できる。

そして色のパワーの差で惑わされるものの、実は5のコロニル1909は色自体としては、ダークと言うよりミディアムブラウンに近い?

ーおわりー

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公開日:2017年5月13日

更新日:2022年5月2日

Contributor Profile

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飯野 高広

ファッションジャーナリスト。大手鉄鋼メーカーで11年勤務した後、2002年に独立。紳士ファッション全般に詳しいが、靴への深い造詣と情熱が2015年民放テレビの番組でフィーチャーされ注目される。趣味は他に万年筆などの筆記具の書き味やデザインを比較分類すること。

終わりに

飯野 高広_image

個人的な予想を遥かに超えるブランドによる色感の差、特にサフィールノワールとコロニル1909との明らかな違いに驚かされました。ただ、どれも決して嫌いな色ではなかったのでホッともしました。ミディアムブラウン系だけでなくてこちらももっと使ってあげないと!

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