20世紀に作られたヴィンテージシューズに隠された、職人のこだわりと時代の繋がり

取材日: 2017年4月1日

文・写真 / 井本貴明

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世の中には、「ヴィンテージ」という形容詞を付与されたモノがたくさんある。
家具、ワイン、楽器、ジュエリーなどは聞いたことがあると思うが、革靴はどうだろうか?
19世紀後半から20世紀後半に作れられ革靴を「ヴィンテージシューズ」と呼ぶことが多く、英国を中心にコレクションを楽しんでいる人がいる。
今回紹介するコレクション・ダイバーは、ヴィンテージシューズを集めている25歳の渡邉耕希さん。現在、25足以上のヴィンテージシューズを所有しており、その数は今も増え続けている。
しかし、なぜ20代の青年が、50年以上も昔の革靴を集めているのか?
その謎を知りたくて、渡邉さんを尋ねてみた。

コレクション・ダイバー【Collection Diver】とは、広大なモノ世界(ワールド)の奥深くに潜っていき、独自の愛をもってモノを採集する人間(ヒト)を指す。この連載は、モノに魅せられたダイバーたちをピックアップし、彼ら独自の味わいそして楽しみ方を語ってもらう。

物語は、ロンドンの古着屋で出会った”1940年代製の革靴”から始まる

2015年、ロンドン。
渡邉さんは、楽器コントラバスを学ぶために、ロンドンにある音楽大学に通っていた。ロンドンでは、蚤市や古着屋で19世紀、20世紀の古い洋服を見つけることができ、留学生だった渡邉さんは古着屋で1940年代の既製靴を手頃な価格で購入。
その靴を自宅で磨き、普段履きとして使用としているうちに、いくつかのうれしい発見があった。

1970年代に作られたHenry Maxwell製のビスポーク・チャッカブーツ。約50年前に作られたモデルとは思えないほどコンディションが良い

1970年代に作られたHenry Maxwell製のビスポーク・チャッカブーツ。約50年前に作られたモデルとは思えないほどコンディションが良い


まず第一に、革の質が良いこと。
革靴は牛の皮を使って作られることが多く、その飼育方法に関して現在と過去では大きく異なる。現在の人は、サシが入った脂身が多い牛肉が好まれる一方、昔は赤みの牛肉が好まれ、広々とした牧草地で自然な飼育で育てられた牛が多かった。筋肉質に育てられた牛の皮は、キメが細かく、良質であると言われているのだ。

第二に、昔はさまざまなラスト(木型)の形があり、日本人の足型に合うものも多い。
驚くことに、1940年前後のイギリスの特に既成靴は、ヒールカップ(かかと)が小さく、甲が高い物が多いのだ。この領域は日本人の多くが問題を抱える部分である。それに加えてサイズも小さい物も多いので、日本人にとって”フィットする”ヴィンテージシューズと出会う確率が高いのである。

そして、昔の職人の技術力が高いこと。
50年以上も昔の革靴が今も履ける背景には、職人の技術力が不可欠である。現在のように効率を求める経営ではなく、当時は、革靴産業の傾向として納得できるまで作り込めた時代だったのかもしれない。例を挙げると、現在のビスポークシューズではアッパーの縫製の際に1 inch(2.54cm)の幅に15針〜20針をくらいで縫う職人が多いのだが、40年代以前には至極普通に20針以上縫われていた。

このように、ヴィンテージシューズの魅力を感じた渡邉さんは、週末に時間ができてはロンドンの古着屋を巡るようになる。また、インターネットオークション、ハウスオークションにも目を配り、気になるヴィンテージシューズを余裕がある範囲で入手し、そのコレクションの数を増やしていった。

渡邉さんのヴィンテージシューズ・コレクションの一部を公開

渡邉さんの数あるヴィンテージシューズのコレクションから、一部を紹介したい。どれも年代的にはかなりの時間を経過しているのだが、Henry Maxwell の Balmoral Boots を除いた6点は現役として履ける状態というから驚く。

Henry Maxwell 1920s BalmoralBoots

MuuseoSquareイメージ

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コレクションの中で最古のブーツ。Maxwellがパリにも支店を持っていた時代の物。トゥキャップはグレインレザー、筒部分はウールのモールスキンでアッパーのステッチや出し抜いのピッチは非常に細かい。現在は南青山の名店、Brift Hにて展示して頂いている

Henry Maxwell 1970s Bespoke Chukka Boots

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現在では入手困難な極上のバックスキンを使ったチャッカブーツ。素材、縫製、底付け、デザイン、どれを取っても一級。

Peal & Co. Bespoke Golf Shoes (Ladies)

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Peal & Co. Oxford Street 時代、1950年代初頭のアイテム。メンズではなくレディース品。イミテーションブローグ、小さいメダリオン、高めのヒールや薄めのソール等で女性らしさを演出している。革はピボディのものと思われる。

Bective 1940s Punched Cap Toe

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一瞬ビスポークかと見紛うほどの木型と作り。革の質も素晴らしく、ヴィンテージシューズの世界にのめり込むきっかけとなった1足。Bective は40年代後半まで操業していたNorthamptonの靴製造メーカー。

True Form CC41 Oxford

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初めて手に入れたヴィンテージシューズ。購入時はデッドストック。高めの甲、絞られたウエスト、小ぶりなヒールカップのため履き心地が素晴らしい。

John Lobb London Bespoke Golf Shoes (Ladies)

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言わずと知れた英国の定番ブランド、ジョンロブの1972年製。乾拭きだけで光る、肌理の細かい革が魅力。履き口とヒールのバックシーム部分は補強されている。

Peal & Co. Bespoke Full Brogue

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Peal & Co. 1940年代のビスポークシューズ。肉厚な革が鈍い輝きを放ち、Peal Facing(現在ではスワンネックと呼ばれています)、外鳩目、履き口のブローギングの排除、踵のイミテーションブローギングからPealらしさを存分に味わえる一足。

1960年代に作られたビスポークのTricker’s革靴は、世代を超えて使われ続ける

ロンドンでヴィンテージシューズを探しているうちに、”人”との素敵な出会いも生まれた。
渡邉さんがロンドンのセレクトショップを訪ねた際、販売員として対応してくれた紳士と”革靴”の話題で盛り上がった。渡邉さんがヴィンテージシューズに対する熱い思いを語りかけると、その紳士は共感をしてくれ、お店の裏側から1足の革靴を持ってきた。

その靴は、1960年代に作られたTricker’s(トリッカーズ)のビスポークシューズ。話を聞くと、その紳士が若い頃にオーダーメイドで注文し、とても大切に履いていた1足であった。しかし、足を怪我して履けなくなってしまい、今はお店の裏に置いてあるのだという。その紳士から、革靴を愛する渡邉さんにぜひ履いてほしいとのリクエストがあり、渡邉さんも快く承諾した。

次の日、渡邉さんはその靴をピカピカに磨き、その紳士のお店に履いて行った。そのTricker’sのシューズを履いている渡邉さんの姿を見て、紳士は大変喜んだという。譲り受けたその革靴は、今も渡邉さんのお気に入りである。ちなみに、渡邉さんは今でも月に1回ほど、その紳士のお店を訪れては革靴談義をしている。

MuuseoSquareイメージ

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紳士から譲り受けた1960年代のTricker'sのビスポーク・シューズ。愛情が込められた一足は、現在も素敵な輝きを備えている

出会いのエピソードをもう一つ。

渡邉さんにはヴィンテージシューズを集める上でいろいろな仲間がいる。120足以上のヴィンテージシューズを所有しているLee Morison氏をInstagram [▶︎ http://instagram.com/bespokeaddict ] で発見し、彼が営むノッティンガム(Nottingham)のバーバーショップに会いに行った。

今では、お互いが手に入れたヴィンテージシューズの報告や、革靴のパーツや革質に関して談義するほどである。

また、Foster&SonのAndrew Murphy氏とはFosterのヴィンテージチャッカブーツを修理に持ち込んだ際に知り合い、今ではFoster&SonやHenry Maxwell、Poulsen Skoneと言ったメーカーの年代特定をお願いしている

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渡邉さんのコレクション中で一番古いヴィンテージシューズとは?

1920年代製のHenry Maxwellのレースアップ・バルモラルブーツ。現在、南青山の靴磨き専門店であるBrift Hにて、渡邉さんのヴィンテージシューズが展示中とのこと。
詳しくは、店舗までお問い合わせください。
http://brift-h.com/

渡邉さんが今、一番欲しいヴィンテージシューズとは?

19世紀中頃に創業したNicklaus Tuczek製ヴィンテージシューズ。
東欧からの移民であったNicklaus Tuczekが作るラストは当時から美しいと評判になり、伝説的なビスポーク・シューメーカーと呼ばれていた。現在入手できるヴィンテージシューズの中でも最も人気が高く、その価格はオークションで高値を付けている。
ちなみに、Nicklaus Tuczekが作り上げた工房は、1968年にジョンロブ・ロンドンが買収。

渡邉さんのヴィンテージシューズ・コレクションの目標は?

短期目標は、Nicklaus TuczekやHenry Maxwellのパリ支店で作られた、状態の良いヴィンテージシューズを入手することであり、長期的な目標としては、さまざまなデザイン、素材、仕様の靴を集め、イギリスの靴作りの歴史を体現するようなコレクションを創ること。

ヴィンテージシューズを集めることは、靴に関わった人の”想い”を集めること

最後に、ヴィンテージシューズの魅力について尋ねてみた。

「まず最初に革の質の良さです。今はなき有名タンナーである、カールフロイデンベルグやピボディ等でなめされた上質な革が普通に使われています。作りに関しても、ヴィンテージはステッチのピッチがとても細かく、底付けも美しい物が多い。
また、既製品の木型は現行品ではあり得ないくらいコンパクトなヒールカップや美しく絞られたウエストの物が多数見られます。
そして、かなり古い物になると現在では忘れさられてしまった意匠(いしょう)等を垣間見ることができます。そういう時は何か大発見をしたような気分になります。
ビスポークシューズを作るメーカーは、現在もいくつか残っていて、ほとんどが注文の記録を保管している。その場合、記録を辿ることで、いつ誰のために作られたのかを知ることも出来ます。僕自身はこの作業に、非常にロマンを感じます」

いつの時代にも革靴をオーダーする人がいる。そして、その依頼主の要求を理解し、最高の革靴を作ろうとする職人がいる。革靴を買う、売るという単純な好意に対して”ロマン”を感じるのは、インターネットで買い物を済ませてしまう”現代の人”が失くしてしまった感覚だろう。

そして渡邉さんは、最後にこう付け加えた。
「ヴィンテージシューズの美しく経年変化した革は、以前の持ち主に大切に扱われていた形跡だと思います」
ヴィンテージと呼ばれるものは、世代を超えて、人種を超えて、人から人へと引き継がれてく。ヴィンテージシューズを集めることは、いろいろな時代の、いろいろな人の”想い”を集めることなのかもしれない。


(おわり)

スーツにネクタイ姿の渡邉さんは、英国紳士を思わせる雰囲気がある

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当日は、チャッカブーツを合わせたスタイル

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