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世界的ウイスキー愛好家・山岡秀雄さんが語る、“味と香り”をコレクションする理由。_image
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世界的ウイスキー愛好家・山岡秀雄さんが語る、“味と香り”をコレクションする理由。

近年、世界的に人気が高まっているウイスキー。日本でも一昔前に比べると見かける機会が増え、身近に感じている方も多いのではないのだろうか。今回お話を伺った山岡さんが所有するのは、スコッチ・ウイスキーを中心にその数なんと約2000本。何故それほどウイスキーに魅せられるのか、大いに語っていただいた。

コレクション・ダイバー【Collection Diver】とは、広大なモノ世界(ワールド)の奥深くに潜っていき、独自の愛をもってモノを採集する人間(ヒト)を指す。この連載は、モノに魅せられたダイバーたちをピックアップし、彼ら独自の味わいそして楽しみ方を語ってもらう。

取材日: 2017年3月20日

取材・写真・文/篠原 章公

ウイスキーとの出会いは、30歳。その複雑さと多様性に惹かれて。

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「私が日常的にお酒を嗜むようになったのは、そもそも30歳前後からなんです。というのも、昔にお猪口一杯でひっくり返った経験から、体質的に自分にはお酒が合わないのだと思いこんでいたんですね。たまたまパッチテストでアルコール耐性を調べるきっかけがあり、どうやら自分の身体に分解酵素が備わっているらしいぞと分かったことから、改めてお酒に興味をもつようになりました」

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「それからはもう、今まで自分になかったものを取り戻すかのようにさまざまなお酒を飲みましたが、その中でも特に惹かれたのがスコッチ・ウイスキー。ほかのどのお酒よりも複雑で、多様性があり、味わうたびに発見がある。興味を持ってから最初の数週間で、100を越える蒸留所のウイスキーをテイスティングしました。香りを勉強するために、香水のスクールにも一時期に通いましたね」

解説:スコッチ・ウイスキーとは?

スコットランドで生産されたウイスキーのこと。スコットランドでは最盛期に250あまり、現在でも100以上の蒸留所が操業しており、それぞれに個性のあるウイスキーづくりが行われている。蒸留所により異なる環境、製法でつくられたウイスキーは、熟成年数や熟成に使用される樽、後処理によって味に変化が表れるため、製品としてのバリエーションは非常に幅が広い。

スコットランドでつくられるウイスキーは、原料・蒸留方法によりモルトウイスキーとブレンデッドウイスキーに大きく分かれる。モルトウイスキーの中でも、単一の蒸留所で製造されたものは「シングルモルト」、単一の樽からのみ注がれたものは「シングルカスク」、異なるシングルモルトをブレンドしたものは「ブレンデッドモルト」と呼ばれる。グレーンウイスキーはそのまま製品化されることは少なく、複数のモルトウイスキーとブレンドされ、ブレンデッドウイスキーとして製品化されることが多い。

棚にぎっしり詰まった「スプリングバンク」はキャンベルタウン地方でつくられるモルトウイスキー。

棚にぎっしり詰まった「スプリングバンク」はキャンベルタウン地方でつくられるモルトウイスキー。

オールドボトルの数々。「デュワーズ」「ヘイグ」「スペイキャスト」はいずれもブレンデッドウイスキー。

オールドボトルの数々。「デュワーズ」「ヘイグ」「スペイキャスト」はいずれもブレンデッドウイスキー。

時代の変化がコレクションのきっかけに。

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急速にウイスキーへ惹かれていった山岡さん。ウイスキーは一般に嗜好品として消費されていくものだが、コレクションするようになったきっかけは何だったのだろうか。

「買い集めるようになったのは35歳ぐらいの頃だと思います。ウイスキーは製造された年代により風味が異なるものですが、特に90年代初頭はウイスキーにまつわる環境が大きく変わった時期で、国内での酒税法の改正、ウイスキーづくりにおいても、後処理の際にチルフィルタリング(冷却濾過)を行うなど製法の変化がみられるようになりました。そんな中、以前の味を求めて80年代の“特級”と呼ばれていたオールドボトルを買い求めたのが始まりですね。自宅近くや旅行先などでよく酒屋を覗いていました」

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「また、2000年頃から世界的に有名なウイスキー評論家である、マイケル・ジャクソン氏が著した『モルトウイスキー・コンパニオン』の翻訳を始めたこともあり、スコットランドへたびたび渡航するようになりました。これを機に現地でしか手に入らないレアなものもよく買うようになりましたね」

山岡さんが翻訳を担当したマイケル・ジャクソン著『モルトウイスキー・コンパニオン』。数多くのモルトウイスキーが、独自の採点付きで仔細に解説されている。

山岡さんが翻訳を担当したマイケル・ジャクソン著『モルトウイスキー・コンパニオン』。数多くのモルトウイスキーが、独自の採点付きで仔細に解説されている。

ご自宅にはマイケル・ジャクソン氏が来日した際の記念のお写真も。

ご自宅にはマイケル・ジャクソン氏が来日した際の記念のお写真も。

山岡さんのコレクションから一部をご紹介

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アバフェルディ 15年 80年代後半

ディアジオ社「花と動物シリーズ」(1992年~)の前のラベル。発売期間が短く希少性が高い。フルーティーさが際立った味わい。

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グレンゴイン 21年

グレンゴイン蒸留所へ足を運んだ際、50歳のお祝いにサプライズでいただいたというもの。中身はオフィシャル同様。

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“CATS” ブレアアソール 28年 1988年蒸留

山岡さんの愛猫、ゴマ・アド・アイラがプリントされたボトラーズ。ブレアアソール蒸留所は1798年創業。ブレンデッドウイスキー「ベル」のキーモルトとしても知られる。

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ティーチャーズ 1930年代~50年代

スコッチ・ウイスキーの特長のひとつである、ほどよいピート香(スモーキーフレーバー)を感じることができるブレンデッドウイスキー。瓶を裏返すと蒸留所のイラストが。半世紀以上の時を経て現存するウイスキーというだけでも希少。

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ブナハーブン 28年 1947年蒸留

元ブナハーブン蒸留所の所長さんに飲ませてもらった経験から、後にオークションで空瓶のみを手に入れたという経緯を持つ。ピーティーな印象が強いとの事。マシュー・グロッグ社のボトラーズ。

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ハイランドパーク 18年 カスクストレングス

2016年、愛好家たちとハイランドパーク蒸留所を訪れた際、入手したもの。アメリカンオークを使用したシェリー樽熟成。26本限定。

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スプリングバンク 34年 1966年蒸留

デンマークの老舗リカーショップ「ジュール」の創業75周年を記念してボトリングされたもの。シェリー樽由来の色合いが濃密な味わいを想起させる。

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ラフロイグ 16年 1970年蒸留

独特のピート香がファンを惹きつけてやまないラフロイグ。これはイタリアの著名なボトラー、サマローリ社からリリースされた1本。

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グレングラント 1929年蒸留

イギリスののシェリー酒メーカー、サンデマンがボトリングした1本。シェリー酒の熟成に使用する樽が供給不足に陥った時期と重なっており、樽不足がリリースのきっかけになったのでは、というのが山岡さんの見解。

コレクターとしての経験を活かし、次のステップへ。

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膨大なコレクションを所有する山岡さんだが、ウイスキーを集めるうえでのこだわりはどのようなところにあるのだろう。

「私にとって、ウイスキーはあくまで飲んで楽しむもの。ですので、コンプリートしたいという感覚ではなく、常に消費しながらラインナップは入れ替わっているんです。ココにあるウイスキーは、すべて飲まれるためにスタンバイしている状態と言っても過言ではありません」

すると、まだ見ぬ最高の一本を探している途中にあるのだろうか。
「約30年間ウイスキーを消費者の側から追求してきて、代表的なもので、飲んだことがないものはほとんどありません。味だけで言えば、過去に樽から直接飲んだ1964年蒸留、フィノ樽で熟成したボウモアが一番おいしく感じました。そんな中で私が大切にしたいのは、優劣をつけてヒエラルキーの中に置くのではなく、そのウイスキーの良いところ、悪いところを全てひっくるめて楽しむということ。未だにウイスキーと向かい合うと、永遠に解けない謎と相対しているような気分になるんですよ」

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コレクター、翻訳家、テイスター……様々な位置からウイスキーに触れてきた山岡さん。今後の展開についてもお話を伺った。
「もう歳なので、コレクションの本数を増やそうとは思っていないんです。ただこれからも、スコットランドの友人がはじめたクラフト蒸留所を手伝ったりしながら、ウイスキーの深さには迫っていきたいですね」

数多のウイスキーを知る山岡さんの、新たな展開にロマンを感じざるを得ない。

―おわり―

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保管のために、室内は常に冷暗な環境を維持。遮光カーテンを採用し、夏は不在時もクーラーを稼働させる。開封済みのボトルには、市販のパラフィルムを巻きつけて劣化を防いでいる。

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