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四季を感じるニューインテリア・モダン盆栽の楽しみかた。_image
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四季を感じるニューインテリア・モダン盆栽の楽しみかた。

「愛の告白には、盆栽をプレゼント」
男性から女性に愛を告白する際には赤いバラの花束を想像するが、盆栽を渡すのが常識になる日が、近い将来訪れるかもしれない。そう思わせるぐらい、盆栽がブームになりつつあるのを知っているだろうか。

取材日: 2015年5月6日

取材・文/井本 貴明
写真/佐々木 孝憲

盆栽が室内のインテリアに。モダン盆栽を楽しむ若い人が増加中

盆栽が若い人の間でじわりと流行りつつある事を耳にしたのが2014年の暮れ。その事実を確かめようと2015年の2月に都内で開催された盆栽教室を訪れてみた。まず、会場内の光景に驚かされる。20代から50代ぐらいのオシャレをした素敵な女性30名ほどが会場を埋め尽くしているのだ(男性も数名参加している)。盆栽教室の会場という張り紙がなければ、まるでフラワーアレンジメントの会場と間違ってしまうぐらいだ。
私が抱いていた盆栽のイメージは、「サザエさん」の波平が毎日、庭先で松の木の盆栽をいじっているものである。その教室の会場には「サザエさん」的な昭和の匂いはどこにもない。その理由は、盆栽をインテリアとして捉えているからだと思う。現代風にデザインされた小ぶりな盆栽鉢が並び、その中には桜や紅葉などが植えられている。自宅のリビングに置きたいと思うような見た目だ。
そんな「生活の一部に盆栽を取りいれる」ことをコンセプトにした盆栽教室を開催している、琳葉(りんは)盆栽教室の主宰である岸本千絵さんに取材をお願いし、盆栽の魅力を探ってみた。

MuuseoSquareイメージ

盆栽の魅力。キーワードは、「バランス」「繊細」「学び」

岸本さんの自宅に取材へ伺ったのは5月の初旬。リビングルームには紅葉や楓(かえで)、欅(けやき)などの盆栽が並んでいた。「リビングにインテリアとして飾れる盆栽を並べてみました」そう語る岸本さんは、元々はインテリア関連の仕事をしており、室内に飾る植物を探していた時に、埼玉県の大宮にある盆栽村を訪れ、盆栽と出会った。そして、盆栽に魅了され、盆栽教室に通い始める。そこで盆栽に関する知識や技術を学び、部屋の中でインテリアとして飾れる盆栽をコンセプトとした琳葉盆栽教室を立ち上げて独立。現在は、東京近郊を中心にアートスクールで盆栽の教室を開催している。
いきなりではあるが、岸本さんに盆栽の魅力を聞いてみた。キーワードは、「バランス」「繊細」「学び」である。

観葉植物や園芸には存在しない「バランス」が、盆栽には存在する

「バランス」は、いろいろな物を指す。木と盆栽鉢(ぼんさいばち)のバランス。同じ盆栽鉢で育てる植物の組み合わせのバランス。上下左右の見た目のバランスで言うと、盆栽独特の「流れ」という表現がある。盆栽の幹や枝には方向があり、その方向に応じて「右流れ」「左流れ」と分けて呼ばれる。この流れを意識して、自然の風景を表現している。観葉植物が真上に伸びるのに対して、盆栽は鉢から飛び出して、低く左右に伸びていくのも魅力だ。そこには盆栽鉢を超えて、空間とのバランスが存在する。
そんなバランスを成立させるためには、イメージをする事が大事だ。岸本さんは、時間さえあれば美術館に足を運び、日本の浮世絵などを見て、美に関するイメージを膨らませている。
ぜひ、岸本さんが作る盆栽をバランスという観点で見て欲しい。そこには観葉植物や園芸にはない「バランス」が存在する。

ミツデイワガサ: コデマリに似た小さな花と葉の形が愛らしい植物です。

ミツデイワガサ: コデマリに似た小さな花と葉の形が愛らしい植物です。

エゴノキ: 垂れ下がる白い花が美しく花後、実になります。

エゴノキ: 垂れ下がる白い花が美しく花後、実になります。

イワシデ: 葉が小さくシンプルな素材ですが つくりこむほどに味わいがでてくる。

イワシデ: 葉が小さくシンプルな素材ですが つくりこむほどに味わいがでてくる。

ケヤキ: 小さくても大木感がある。丸く薄い鉢で大地の広がりを表現。

ケヤキ: 小さくても大木感がある。丸く薄い鉢で大地の広がりを表現。

昔の政治家が趣味として愛した盆栽。その裏側に見えるのは欲求とは

「繊細」は、盆栽を表現するのにピッタリな言葉だ。不思議に思うかもしれないが、小さな盆栽鉢で育てた植物は徐々にその葉も小さくなるのだ。その変化を「しまる」という用語で盆栽の世界では使われている。育つ環境、育て方で形を変え、盆栽は繊細に作られていく。
余談だが、昔の政治家は盆栽を趣味にしている人が多かったという。きっとそこには、盆栽鉢という小さな空間に、自分だけのイメージで完璧な世界を作ることに喜びを感じていたのだと思う。現実の世の中は自分一人の力で世界を変えるのは難しい。しかし、盆栽鉢の中では、育て方次第で世界を変えることができる。昔の政治家は支配欲求を満たすために、盆栽を楽しんでいたのではと想像してしまう。

盆栽を育てる事は、終わりのない旅をすることである

最後は、「学び」である。盆栽は、かわいい鉢の中に、かわいい植物を入れて終わりではない。育てて、さらに自分のイメージに近い形にするのが醍醐味だ。そして、日本には長い歴史の中で、盆栽をかっこいい姿にする技術が培われてきた。岸本さんのような先生でも、思い通りのイメージに盆栽を育てるのは難しく、仮に思い通りにできたとしても、さらにカッコ良くする為に努力をする。それが1年では終わらずに、何年も続く。終わりがない学びの連続である。
ちなみに、岸本さんは教える立場と同時に、盆栽の世界では著名な小林國雄先生の元に通い、現在も盆栽の勉強を続けている。「盆栽は植物なので自分のイメージに完全に近づく事はないが、それを目指す事が大事」と語るように、完成形が無いのも魅力の一つである。きっと、世界中の人々が、バルセロナのサグラダファミリア教会の完成を想像して、魅了されるのと同じ感覚だろう。

忙しい現代人でも、始めることができる盆栽

ここまでの内容で、盆栽に興味を持って頂けただろうか。
次に、これから盆栽を始める人向けのポイントを聞いてみてた。盆栽で最初に大事なのは、枯らさずに元気に育てる事だ。岸本さんの盆栽教室では、「室内で育てる」「霧吹きで水をあげる」「毎日、ハサミで枝を切る」のような間違った盆栽のイメージを一つ一つクリアにすることで、盆栽を枯らさずに、何年も楽しめる知識と技術が身についていく。
元気に育てられるか心配な初心者の方は、草物盆栽がお勧めだと岸本さんは言う。「飾っても綺麗、花が咲くと嬉しい、枯れた葉っぱを簡単に取り除ける。お手入れが比較的簡単な上に、花が咲くなどの変化がある」ぜひ参考にしてほしい。
盆栽を育てる上で必要な道具についても聞いてみた。
最低限必要なのは枝切り、ペンチ、ピンセット、ほぐし棒の4つである。市販されている道具はピンキリなので、自分にあった物を購入するのがよい。「職人さんが作っている道具は、大事に使えば長く使える。道具を大切に使うように、毎回の教室で話している」と岸本さんが言うように、道具を大切にする事は盆栽を育てる上でとても大切だ。

"竹箸"と呼ばれる、土を掘りほぐす道具を手に取りながら説明してくれる岸本さん。 

"竹箸"と呼ばれる、土を掘りほぐす道具を手に取りながら説明してくれる岸本さん。 

意外と知らなかった。身近に存在する、盆栽美術館

岸本さんが作り出す、モダンな盆栽についてもっとり知りたい方は、琳葉盆栽教室のFacebookページを見て欲しい。過去に岸本さんが作り出した盆栽が数多く見れるので、さらに興味が沸くはずだ。実際に目の前で盆栽を観賞したいのなら、岸本さんの先生である小林國雄先生が運営する春花園BONSAI美術館(東京都江戸川)や、埼玉県にある、さいたま市大宮盆栽美術館がオススメである。樹齢数百年の盆栽から、時価数千万円の盆栽まで、盆栽の技術を極めた名品を観賞する事ができる。
知り合いと盆栽を鑑賞する機会があったら、使って欲しいフレーズがある。
「この盆栽の立ち上がり、かっこいいね。」
立ち上がりとは根の部分から幹の始まる部分を指す。人の体で言うと足の部分(根)から腰の部分(幹)辺りである。岸本さんは、盆栽の立ち上がり部分が盆栽の美しさの一つと話す。園芸や生花にはない、”立ち上がり”の魅力を語ることができるようになれば、それは盆栽の魅力に引き込まれた証拠かもしれない。
最近では、フランスやアメリカで、盆栽はBONSAIと表記を変え、とても人気がある。盆栽職人を目指して、海外から来日して修行している人もいる。そんな海外の人の心を魅力する盆栽を、私たち日本人が知らないのは皮肉な話である。

MuuseoSquareイメージ
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こちらは、岸本さんが提案する新しい盆栽のカタチ。既に枯れてしまった美しい枝木をオブジェとして活かす"箱庭盆栽”だ。お洒落な家具のひとつのように、気軽に飾って年中楽しめるというのが新しい。

愛の告白には、盆栽をプレゼント

盆栽は鑑賞することも楽しいが、時間をかけて育てることも楽しい。
太陽、水、愛情があれば「サザエさん」のような大きな庭がなくても、自宅のベランダで始めることができる。育て方次第で、年月をかけて思い描いた姿に変化する。
愛する女性へプロポーズする時には、美しいバラを渡すのも素敵だが、盆栽をプレゼントするのはどうだろうか。これからの長い時間を使って、二人で盆栽を育てていく。30年後、二人の年月を反映した盆栽は、きっと素敵な形になっていることだろう。

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