テーラー companie van verre(コンパニエヴァンヴェール)水野隆守。着る人を最大限に美しく見せるシルエットづくりとは。

取材・文/倉野路凡
写真/佐々木 孝憲

服飾ジャーナリストの倉野路凡さんが「今、オーダーするならこの人」と推すテーラーが水野隆守さん。今年自身のブランドを立ち上げ原宿にお店companie van verre(コンパニエヴァンヴェール)をオープン。彼ならではの服作りのこだわりを倉野さんがインタビューしました。


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今、かっこいいジャケットをオーダーするならこのひと。

この夏、新しいアトリエがオープンした。companie van verreというテーラーだ。主宰している水野隆守さんは長年にわたって都内の有名テーラー(有田一成さんが主宰するテーラー&カッター)で修業してきた人物。

そう、有田さんの右腕として実力をつけてきたのだ。ただ縫製していただけではなく、お客さんのフィッティングを任されたりしていたそうだ。有田さんが任せるくらいだからポテンシャルが高かったのだろう。

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そんな背景もあり、水野さんは採寸、型紙製作、生地の裁断、縫製、仮縫いまでのすべての工程を一人でできる稀有なテーラーでありカッターなのである。テーラー&カッターで修業していたこともあり、基本的には英国的なシルエットのスーツ作りが巧い。

日本人が考える英国伝統のクラシックなスーツだけでなく、洗練されたモダンな雰囲気のスーツも得意なのだ。

★テーラーとカッターの違いについて★

英国では採寸、型紙、裁断、仮縫いまではカッター(裁断師)の仕事。縫製がテーラーの仕事といった具合に色分けされている。

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基本のパターンオーダーをもとに好みでいかようにも対応

現在、companie van verreでは水野さんが型紙から縫製まで行うビスポークと、ファクトリーメイド(国内の優秀な縫製工場)のいわゆるパターンオーダーを展開している。

パターンオーダーはお客さんの体型に合ったゲージ(サンプル)を着てもらい、ピンで余分な生地を留めていき補正する方法。ほぼこの作業で体型補正はできる。

より完成度の高いスーツを求める場合は、縫製工場にお願いして袖を未処理にしてもらい、アトリエで袖付けをすることもできる。ディテールではアウトポケットをアコーディオンポケットにしたいときはポケットだけアトリエで製作するといった具合に、フレキシブルに対応してくれるのだ。パターンオーダーの場合、体型補正後に工場で縫うため、出来上がってきたものが最終の仕上がりになるのだが、お願いすれば仮縫いの工程を入れることもできるとか。

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水野さんは依頼者の体型をチェックしながら、いかにより美しく見えるジャケットに仕上げるかをイメージしているという。

水野さんは依頼者の体型をチェックしながら、いかにより美しく見えるジャケットに仕上げるかをイメージしているという。

着るひとを美しく見せたい。水野氏がこだわる絶妙なショルダーライン。

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絶妙なカーブを描くコンケーブショルダーのジャケット。生地は英国Taylor&Lodge社 デッドストック サマーツイードを使用している。

絶妙なカーブを描くコンケーブショルダーのジャケット。生地は英国Taylor&Lodge社 デッドストック サマーツイードを使用している。

テーラーによくあるハウススタイル(ブランドの顔となるような定番スタイル)的なモデルはないのだが、水野さんが手掛けるスーツには特徴がある。

それは肩。“ショルダーライン”が美しいのだ。襟から肩先にかけてコンケーブしているのだ。

これは昔、サンローランが手掛けていたモデルから着想を得たもの。ただし1970年代のそれは襟幅があり、袖も太いコンケーブショルダーのモデルだ。それを現在に再現するとデコラティブ過ぎてしまう。あくまでもお客さんのバランスを見て微妙なデザインを作り上げていくのだ。それを踏まえてのコンケーブショルダーなのである。

★コンケーブとは★

コンケーブとは「くぼみのある、凹面の」の意味があり、肩のラインが湾曲していて肩先が尖った形をコンケーブショルダーという。主にテーラード・ジャケットに使用され、70年代の流行時には極端に尖った形状のものも存在した。

ベント(後ろのスリット)を深く切り込むことにより、重心(ウエスト位置)が高い位置にあるよう錯覚させる効果が。腰回りがエレガントに見えるよう狙ったそう。

ベント(後ろのスリット)を深く切り込むことにより、重心(ウエスト位置)が高い位置にあるよう錯覚させる効果が。腰回りがエレガントに見えるよう狙ったそう。

じつは水野さん、ジャケットを脱ぐとなで肩で、華奢な印象だ。自分の体型をより美しく見せるのが、コンケーブショルダーだったというわけだ。

そういう背景もあり彼はとても肩フェチなのである。また、コンケーブショルダーはいかり肩の人でも似合うという。襟を登らせて肩幅を狭く見せればいかり肩がわからなくなるのだ。

まさに十人十色、体型もさまざまで体型補正する箇所も違ってくる。素人にはどう補正していいのか、どんなシルエットのものが似合うのか、さっぱりわからないのだが、水野さんによれば、顔と身長と肩とのバランスでシルエットは決まるそうなのだ。

例えば、背が低い人の場合、肩幅を広くとってしまうと三角形のシルエットになってしまい、余計に背が低く見えるとのこと。たしかに言われてみれば納得である。

こちらのジャケットでは生地に日本製 尾州織Heritage Flannelを使用。

こちらのジャケットでは生地に日本製 尾州織Heritage Flannelを使用。

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ハウススタイルにこだわらず、そのひとがもっとも似合う一枚にこだわりたい。

水野さんは形をとらえる能力、形を修正していく能力に長けているのだと思う。

この能力の優れているテーラーは、縫製工場を選ぶし、縫製工場の特徴をよく理解している。モデリストとしての能力にも長けているである。だから完成度という点で限界のあるパターンオーダーであっても、縫製工場のポテンシャルを引き出すことができ、お客さんにもっとも似合うものを提供できるのだ。

ハウススタイルがあってないようなもの、といったのはそういう意味だ。基本的にお客さんに似合うものを作るのがテーラーだからハウススタイル的なモデルは一つのデザインの提案でしかないのだ。

彼自身の生地の好みは英国を代表とする、しっかりと織られた生地だという。そんな重厚な生地を使って、その人に合った“美しく洗練されたスーツ”“美しくモダンなスーツ”“美しいショルダーライン”を作るのが水野さんなのである。

ーおわりー

クラシッククロージングを一層楽しむために。編集部おすすめの書籍

現在の変貌する紳士服の聖地「サヴィル・ロウ」を象徴する全11テーラーを紹介

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Savile Row(サヴィル・ロウ)A Glimpse into the World of English Tailoring

世界で唯一無二「紳士服の聖地」とよばれるサヴィル・ロウ。そこで生み出されるのは世界最高レベルのテーラリング技術を持つ、熟練した職人たちの手によるビスポーク・スーツである。ファッションやトレンドを超越し、世界中の男たちを魅了してきた、永遠に生き続けるスタイルがそこには存在する。英国王室御用達に輝く老舗から、新進気鋭の新しいテーラーまで、時代の流れの中で大きく変貌を遂げるサヴィル・ロウの実像を、現地取材を通じて映し出した、日本初のヴィジュアルブック。

アラン・フラッサーによる、スタイリッシュに見えるために知っておくべきこと

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Dressing the Man: Mastering the Art of Permanent Fashion

「うまく着こなすことはそれほど難しいことではなく、本当の課題は適切なパーソナライズされた指導を受けることができるかどうかにある」とフラッサーはいう。服を着こなすということは、プロポーションとカラーの2つの柱を軸にしている。「恒久的なファッション性」は、読者への目標でもあるが、個人的なトレードマークのセットに責任を持つことから始まるものであり、季節ごとにランダムに提供されるファッションの流行ではないと考えている。

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水野さんオススメのジャケット生地。英国Lear Browne & Dunsford社 のバンチブックP&B、そしてHarrisons of Edinburgh のバンチブックFlontier。

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companie van verre

テーラー&カッターの水野隆守氏が手がけるcompanie van verre(コンパニエヴァンヴェール)。日本の高品質を誇るファクトリーで生産される工場製スーツやハンドメイドによるフルオーダースーツなどメニューが豊富である。海外及び国内の厳選された生地見本から選ぶことができるのも魅力。洋服のお直しや、カスタマイズ、リメイクなども請け負っている。

<MENU>
MADE-TO-ORDER by factory   108,000円~(日本の高品質を誇るファクトリーで生産される工場製スーツ)
MADE-TO-ORDER by studio   270,000円~(ハンドメイドによるフルオーダースーツ)
MADE-TO-ORDER SHIRTS by factory 12,960円~(日本製パターンオーダーシャツ)

公開日:2016年11月8日

更新日:2022年5月2日

Contributor Profile

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倉野路凡

ファッションライター。メンズファッション専門学校を卒業後、シャツブランドの企画、版下・写植屋で地図描き、フリーター、失業を経てフリーランスのファッションライターに。「ホットドッグ・プレス」でデビュー、「モノ・マガジン」でコラム連載デビュー。アンティークのシルバースプーンとシャンデリアのパーツ集め、詩を書くこと、絵を描くことが趣味。

終わりに

倉野路凡_image

テーラー&カッター時代にお客さんのお直しをしている水野さんを知っているから、独立されたのはやはり嬉しい。スーツに機能性を追求すればするほど美しさが消え失せる。そのさじ加減をよく理解しているセンスのあるテーラーだと思う。彼の作るスーツのシルエットは美しいから好きだ。

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