80年代の地味なセダンをいま世に出したのはなぜ? 静岡ホビーショーで聞くアオシマ流カーモデルの作り方

80年代の地味なセダンをいま世に出したのはなぜ? 静岡ホビーショーで聞くアオシマ流カーモデルの作り方_image

取材・文/手束 毅

5月12日から15日にかけて静岡市ツインメッセ静岡で開催された『静岡ホビーショー』。模型ファンにとって1年に1度のお祭り的なイベントだが、このショーでとくに個性的なカーモデルを発表していた模型メーカー・アオシマに注目した。

カーマニアの社員自らが欲しいと思う商品を開発する

カーモデル(自動車のプラモデル)を作ったことがある方にとって、馴染み深いブランドといえば青島文化教材社(以下、アオシマ)だろう。タミヤ、フジミ、ハセガワといった模型メーカーとともに数多くのカーモデルを世に発表してきたが、コテコテの改造車、痛車、ドレスアップされたカスタムカーなど他社にはない個性的な商品が多いメーカーとしても知られている。

そんなアオシマは静岡ホビーショーでも、カーモデルファンにとって興味深い商品を数多く発表していた。

ランボルギーニ ウラカン LP610-4(1/24スケール・2016年7月発売予定 )

ランボルギーニ ウラカン LP610-4(1/24スケール・2016年7月発売予定 )

MuuseoSquareイメージ

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国内のどのメーカーよりも早くランボルギーニ ウラカンを製品化したアオシマは、実車もブースに展示していた。

国産模型メーカーとして初めて商品化した、イタリアンスーパーカー、ランボルギーニ・ウラカン。ブースには、実車も展示したほど力が入っていた。

日産R32型スカイラインGT-R(1/24スケール・2016年7月発売予定)

日産R32型スカイラインGT-R(1/24スケール・2016年7月発売予定)

日本のみならず海外からの注目度も高いR32型日産スカイラインGT-R。おまけパーツとしてクリアボンネットなどが付属するのも嬉しいポイントだ。

マツダFD型RX-7(1/24スケール・2016年6月発売予定)

マツダFD型RX-7(1/24スケール・2016年6月発売予定)

いまだに人気が衰えないロータリーエンジン搭載のスポーツカー、FD型マツダ(販売当時はアンフィニ)RX-7。

いずれも、“正統派”のクルマ好きなら製作したくなるカーモデルたちだ。
と、同時にやはりアオシマならではの個性的な新商品もお披露目している。

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日産430型セドリック・セダン200E(1/24スケール・2016年7月発売予定)

1979年に登場した430型セドリックがマイナーチェンジを受け、1981年に追加されたセドリック・セダン200E。当時同車で人気だったのは窓枠(Bピラー)を無くして開放感を味わえるハードトップ。実車発表から35年経ったいま、地味なクルマ…といっては失礼ながら、セドリック・セダンを商品化するのはアオシマ以外のメーカーでは考えられない。(注・褒め言葉です!)

トヨタ AE86スプリンタートレノGT-APEX(1/24スケール・2016年6月発売予定)

トヨタ AE86スプリンタートレノGT-APEX(1/24スケール・2016年6月発売予定)

また、クルマ好き以外の方からも知名度が高いトヨタAE86型スプリンター・トレノも新たに商品化されたが、ここにもこだわりが。
現在、市場に流通しているAE86(スプリンタートレノ、カローラレビン)の実車は、エンジンがチューンナップされたり、タイヤ&ホイールを変えるなど、その大半がどこかに手を入れられている。発売されたままの仕様は稀少、というか絶滅したと言っても過言ではない。
いまや“幻”ともいえる純正のエアロパーツやアルミホイールを装着するなど「ノーマルのハチロク・トレノ」にこだわったのがこのモデルだ。

これらは「アオシマらしさ」がとくに出ている商品だが、開発者はどのような思いで製品を開発しているのだろうか。

お話をうかがった、アオシマ企画開発部・堀田雅史さん。

お話をうかがった、アオシマ企画開発部・堀田雅史さん。

「じつは私たち旧車モデル担当の社員自身が古いクルマ好きなんですよ。その多くが旧車を所有しているほどです。そういう意味では僕たち自身がお客さんと同じ立場なのかもしれません。消費者としての立場にたって、こういう商品があったら楽しいなあと考えながら商品を開発しています」

アオシマ企画開発部・部長、堀田雅史さんはこのように語ってくれたが、新製品を出す基準は自らが欲しいと思う車種であることがとくに大きいのだという。
先に挙げた430型セドリック・セダンの場合、旧車の展示会やオーナーミーティングなどで多く声を聞き、心を動かされたことが商品化への大きなきっかけとなったそうだ。

「現在所有しているオーナーや当時乗っていたという方から聞く430型セドリックへの思いはとても強く、また尊いものでした。そんな話を聞いているうちに、自分たちも(430型セドリックのプラモデルを)欲しいという気持が沸いてきたのが商品化に向けて行動を起こした大きな理由です」

クルマ離れが進む若者からも支持される国産旧車カーモデル

もちろん、それだけで商品化に至る訳ではない。営業的に売れる見込みがないと商品として店頭に並ぶことはないのだが430型セドリックが商品化されたには、カーモデルのメインユーザーが50代ということもその理由だろう。

ハセガワブースに展示されていたサニートラック(ロングボデーデラックス “後期型”)のプラモデル。実車は1989年に登場している。

ハセガワブースに展示されていたサニートラック(ロングボデーデラックス “後期型”)のプラモデル。実車は1989年に登場している。

これはクルマ好きとも世代がリンクしていて、その方たちはいまだに80年代、90年代の国産車への思いがとても強い。
静岡ホビーショーではアオシマ以外にも80年代、90年代の国産車を新商品として発表していたが、ターゲットはまさにそういう層なのだろう。
たとえ実車を購入することがかなわなくても、多くのクルマ好きにとってその年代の国産車は心に響くのだ。

「430型セドリックを実際に購入したくてもコンディションの良い車両を見つけることは難しいでしょう。たとえ、購入できたとしても維持することが難しい。でもプラモデルなら、いつでも手元に置いておけます。そういうことを考えながら私たちは商品を開発しています」

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アオシマが販売している西部警察シリーズ。80年代に放映されていたTVドラマ『西部警察』に登場した特殊車両をモデル化したシリーズだが、カッコイイ大人に憧れる高校生くらいの若者からも人気だという。

ただ、80年代、90年代の国産カーモデルは若い人たちからの反響も大きいのだという。

「クルマに興味がないと言われる若い人たちのなかにも、自分が乗れなかった旧車のプラモデルを手元に置きたいと言う人が少なくありません。たとえば旧車のイベントに来ていた高校生にポルシェなど最新のスポーツカーに興味がないのかと聞くと『いまのクルマも好きだけど、バブル時代の頃に作られた国産車は高級感があり、いまとは違う角張ったデザインが豪華に見える』と、昔の日本でそういうクルマが作られていたことに感動を覚えると話すのです。クルマ離れが進んでいると言われていますが、旧車は若い人を取り込みやすい魅力を持っていると私は感じています」

80年代後半にサーキットで活躍したホンダEF型シビック・Gr.A。現在開発中のモデルだ。

80年代後半にサーキットで活躍したホンダEF型シビック・Gr.A。現在開発中のモデルだ。

シビック同様、80年代後半にレースに参戦していたトヨタAE92型カローラレビンGr.A。こちらも、現在開発中だ。

シビック同様、80年代後半にレースに参戦していたトヨタAE92型カローラレビンGr.A。こちらも、現在開発中だ。

そんな若い人から年配の方まで幅広いカーモデルファンに支持されるアオシマだが、その理由は作り手である開発者たちのキャラクターにもあるようだ。

「手前味噌かもしれませんが、商品開発にかける気の入れようが他社様よりも強いのではないでしょうか。開発者自身、半分マニアを超しているほどのカーマニア。例えば旧車を担当している社員は旧車で会社に通勤する。スーパーカーを担当する社員は毎週のようにイベントなどでスーパーカーの写真を撮る。また商品化するには、そのクルマが生まれた歴史や背景にこだわりながら開発していますし、そこはとくに他社様に負けないようにやっているつもりです。なにより自らが欲しいと思う商品を作るのだから、一番最初に購入するお客さんになるのは自分になるのかなあと考えながら開発することもありますね(笑)」

自動車ファンがみな、カーモデルに興味があるわけではない。ただ、ここまでクルマを愛するカーマニアが開発しているのだと知れば、多くのクルマ好きがアオシマの商品に興味を持つのではないだろうか。

ーおわりー

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静岡ホビーショー

今年で55回目を迎えたプラモデル、ラジオコントロールカー、鉄道模型など国内の模型メーカーが新製品を発表するホビーのビッグイベント。
毎年、5月に静岡市のツインメッセ静岡で開催される。

公開日:2016年6月17日

更新日:2022年2月10日

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手束 毅

自動車専門月刊誌の編集を経て現在はフリーエディターに。クルマはもちろん、モノ系、ミリタリー、ファッション、福祉などなど「面白そう」と感じた様々な媒体やテーマに関わっているものの、現在一番興味がある「もつ焼き」をテーマにした出版物の企画が通らないことが悩みの種。

終わりに

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カーモデルを作ることが当たり前だった子どもの頃、「タミヤ派」「フジミ派」が多数を占めた友人たちの中で「アオシマ派」だったのがこの私。いまも昔も変わらず、クルマ好きのツボをつく商品ラインナップはさすがです。

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