模倣の中にも個性あり⁉︎ 世界中で作られたコピー品、ライカ型カメラ選

取材・文/手束 毅
撮影/牧野智晃

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趣味性が高いカメラについて日本カメラ博物館・学芸員の井口芳夫さんに様々な角度からお話をうかがう連載の第三弾。世界で最も愛されているカメラと言われるライカには、星の数ほど影響を受けた機種…というかコピーカメラが存在する。そんなコピーライカのなかでも、とくに個性的なカメラを紹介していこう。

今回登場する名機たち

  • 「フェド」1938年
  • 「ハンザキヤノン」1935年
  • 「レオタックス」1940年
  • 「ウィカ」1948年
  • 「紅旗20」1971年
  • 「オペマ」1949年
  • 「ウィットネス」1950年
  • 「フォカ」1947年
  • 「フォイツィカ」1948年
  • 「モミコン」1950年
  • 「初期型フェド」1930年代初頭
  • 「旧ソ連コピーライカ」年代不明

旧ソ連の孤児救済施設で作られた世界初のコピーライカ

フェド(旧ソ連/1938年)

フェド(旧ソ連/1938年)

「1930年代初頭という早い段階で生まれたのが“フェド”です。これは旧ソ連製のコピーライカで、旧ソ連の情報機関KGBの前身である秘密警察の創設者となるフェリックス・エドムンドビッチ・ジェルジンスキーの頭文字から名づけられました」

ジェルジンスキーは秘密警察や情報機関を作り聖職者、資本家・自由主義者などを徹底的に弾圧。その一方で内戦や粛清で親を失った孤児たちを集めた救済施設を作っている。その施設がフェド工場と呼ばれ、ソ連党中央からコピーライカの製造を指示されたのだ。

「フェド」(FED)の名前はMKGB(後のKGB)長官となる、フェリックス・エドムンドヴィチ・ジェルジンスキの名前に由来する。

「フェド」(FED)の名前はMKGB(後のKGB)長官となる、フェリックス・エドムンドヴィチ・ジェルジンスキの名前に由来する。

「同じフェド工場で米ブラック・アンド・デッカー社の電気ドリルが模倣されていますが、コピーライカのフェドは旧ソ連体制の考え方からでしょうか。特許を無視した完全模倣機といえる構造になっています」

旧ソ連のフェドに続くコピーライカが誕生したのは、意外なことに日本だという。

レオタックス(日本/昭和光学工業/1940年) ライカが持つ特許を回避するため、距離計の外側にファインダーを装備したことで特徴的な外観となった。

レオタックス(日本/昭和光学工業/1940年) ライカが持つ特許を回避するため、距離計の外側にファインダーを装備したことで特徴的な外観となった。

ハンザキャノン

ハンザキャノン

「複数の国内メーカーが第二次大戦前からライカの類似機を製造しています。ただしフェドとは違い、ハンザキヤノンとレオタックスは独自の構造を加え特許回避を試みました。レオタックスは、距離計の間にファインダーを設け、ハンザキヤノンは距離計の外にファインダーを設置しライカの特許に抵触しないように工夫がされています」

ところでライカ型カメラ、すなわちコピーライカの定義はどういうものになるのだろうか。

「ライカの初モデルであるライカⅠ(A)は24×36mmの画面サイズの透視ファインダー一式カメラです。続いて登場したライカⅠ(B)はレンズシャッターを装備。その後、登場したライカⅠ(C)はレンズ交換式となりました。それぞれのタイプが各機構を採用するカメラの先駆けとなったライカですので、厳密に言えばライカ登場以降の同タイプカメラはライカ型といえるかもしれません。ですが、一般的には見た目とともにライカⅠ(C)型で確立した『レンズ交換式だけど一眼レフカメラではない』という点が長らくライカ型カメラ(コピーライカ)の特徴になっているでしょう」

お話を聞いた日本カメラ博物館・学芸員の井口芳夫さん。

お話を聞いた日本カメラ博物館・学芸員の井口芳夫さん。

この定義を考えると、現在、一眼レフデジタルカメラとともにレンズ交換式カメラとして人気のミラーレスと呼ばれているデジタルカメラもライカ型カメラに位置づけられることになる。

話をコピーカメラに戻すが、コピーライカを製造した国を挙げると旧ソ連や日本をはじめ、アメリカ、イタリア、イギリス、旧チェコ・スロバキア、旧東西ドイツ、中国などおよそカメラを手がけた国はほぼ当てはまる。完全模倣とはいえなくともコピーといえるもの、独自の解釈や改良を加えたものなど数多くのコピーライカが存在するのだ。そこで井口さんにとくにユニークなコピーライカを紹介してもらおう。

ウィカ

ウィカ

◉オーストリア “ウィカ”
ウィーンカメラ工場で製造されたコピーライカ。製造台数は100台に満たないとされる。

紅旗20

紅旗20

◉中国 “紅旗20”
世界的に珍しいM型ライカのコピー機。35mmF1.4、50mmF1.4、90mmF2とスペック上はライカを完全にコピーしたレンズも製造された。

オペマ

オペマ

◉チェコ・スロバキア“オペマ”
ライカより1mm小さい直径38mmレンズマウントを装備。画面サイズも24×34mmと、いわゆるライカ判より長辺が2mm短い。裏蓋着脱式なのも特徴だ。

ウィットネス

ウィットネス

◉イギリス “ウィットネス”
流麗な左右対称の外観とスクリューマウントの一部を切り欠いたバヨネット・マウントが特徴のライカ型カメラ。

フォカ

フォカ

◉フランス “フォカ”
レンズ交換式から固定式まで、様々な種類が製造された。35mm径のスクリューマウント型とバヨネット・マウント型が存在する。

フォイツィカ(旧西ドイツ/1948年)

フォイツィカ(旧西ドイツ/1948年)

もともとライカに似た名前「フォイカ」の名称で発売されたが、ライカからのクレームがあり「フォイツィカ」に変更された。

もともとライカに似た名前「フォイカ」の名称で発売されたが、ライカからのクレームがあり「フォイツィカ」に変更された。

◉旧西ドイツ “フォイツィカ”
一眼式の距離計と裏蓋着脱式でライカとは一線を画していた。当初はフォイカという名称だったがロゴが似ていることでライカからクレームがつきフォイツィカに名称を変更している。

モミコン

モミコン

◉ハンガリー “モミコン”
撮影画面24×32mmの小型ライカコピー機。後にモメッタとなって裏蓋着脱式へ。さらにモメッタⅢへと発展しレンズ交換を可能とした。

初期型フェド

初期型フェド

◉旧ソ連 “初期型フェド”
ごく初期のフェド。アクセサリーシューを装備していないのが特徴だ。装着されたレンズは開放口径値F2のレアモデル。

コピーライカ(旧ソ連/不明)

コピーライカ(旧ソ連/不明)

MuuseoSquareイメージ

MuuseoSquareイメージ

第二次大戦中に数多く製造された、ライカそのもののコピー品。

◉旧ソ連 “コピーライカ”
ライカの文字はもとより「エルンストライツ・ウェッツラー」といった彫刻、またレンズには「エルマー」とライカ独自の文字が刻まれている。ボディは金メッキに見えるが、クロームメッキを剥がし真鍮を向きだしにしているだけだ。旧ソ連では第二次大戦中に「(本物の)偽物ライカ」が数多く製造されたが、ソ連崩壊後のロシアでは「偽物をコピーした偽物ライカ」が相当数製造された。

ーおわりー

File

日本カメラ博物館

カメラの歴史が系統的に展示され、来館するだけでカメラがどのように発展したかがわかるカメラの博物館。常設展示はもちろん、機能別、国別などさまざまな角度からカメラの魅力を伝える特別展が開催される。

東京都千代田区一番町25番地 JCII 一番町ビル(地下1階)
03-3263-7110

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7月3日まで公開! 日本カメラ博物館の特別展

「カメラメーカーの威信と挑戦 ザ・フラッグシップ・カメラ展」
開催期間:2016年4月5日(火)~7月3日(日)
展示詳細は日本カメラ博物館のHPをチェック!
http://www.jcii-cameramuseum.jp/

各社が製造したフラッグシップ機、各機種のカメラカタログ、フラッグシップ・カメラで撮影された写真などを時代ごとに展示。 (展示総数約200点を予定)

カメラを一層楽しむために。編集部おすすめの書籍

ライカで撮る理由。

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Pen+(ペン・プラス) 『増補決定版 ライカで撮る理由。』 (メディアハウスムック)

なぜ人々はライカというカメラに魅了され、ライカで写真を撮るのか。なぜ撮られた作品は私たちの心を震わせるのか。
写真文化を育てた小型速写カメラの傑作として知られる一方、いつの時代も本物を求める者はライカを手にする。
とくにライカの象徴ともいえるレンジファインダーのM型に焦点を当て、写真家やクリエイターの熱い思いを聞いた。
また、ウェッツラーの本社工場やアンドレアス・カウフマン社主への取材を通して、ライカのものづくりの原点に迫った。
かけがえのない一枚の写真のそばには、必ずライカがある。
そんなライカの不朽の魅力について、深く考えた一冊。

唯一無二のヴィンテージカメラ読本。

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ヴィンテージ・フィルムカメラ・コレクション

アナログ時代をシンボライズする愛すべきフィルムカメラを紹介しながら、写真史への旅にいざなう一冊。その旅は、これから銀塩写真の世界に入門する読者だけでなく、新たな技法を探しているプロフェッショナルにも意義あるものに違いない。100点を超えるエルワンド氏のカメラコレクションに添えられているのは、そのカメラで撮影された美しい写真作品だ。本書は、ヴィンテージカメラの購入、レストア、使用法のガイドであるとともに、エルワンド氏の美意識に導かれながら視覚で体験する、写真史とクラシックカメラの探求なのである。

公開日:2016年6月11日

更新日:2022年2月8日

Contributor Profile

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手束 毅

自動車専門月刊誌の編集を経て現在はフリーエディターに。クルマはもちろん、モノ系、ミリタリー、ファッション、福祉などなど「面白そう」と感じた様々な媒体やテーマに関わっているものの、現在一番興味がある「もつ焼き」をテーマにした出版物の企画が通らないことが悩みの種。

終わりに

手束 毅_image

たかがコピー品といえばそれまでだが、あのライカを模したカメラだからなのか。カメラそれぞれに世界感があるのが面白いんですよね。そう感じることができるのはオリジナルのライカが凄いカメラなんだよなぁ、と改めて感じた取材でした。

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