渾身の靴クリーム「THE CREAM」をプロデュース。靴への愛溢れるBrift H(ブリフトアッシュ)を訪ねる。

取材・文/倉野 路凡
写真/松本理加

「靴磨きの相棒」 シリーズ 1 回目。

ファッションライター倉野路凡さんが今気になるモノ、従来愛してやまないモノについて綴る連載第4回。今回は靴磨きの先駆者とも呼べるシューシャイナー・Brift H(ブリフトアッシュ)の長谷川裕也さんのもとを訪ねてきました。

なんでも、倉野さんがとても気になっている靴クリームがあるんだそうで……

ブリフトアッシュ渾身の作”The Cream”

パッケージデザインにもご注目!

パッケージデザインにもご注目!

靴好きや、靴磨き好きから圧倒的に支持されているBriftH(ブリフトアッシュ)。

路上の靴磨き職人だった長谷川裕也さんが2008年にオープンさせた靴磨き専門店だ。自分の大切な靴を、まるでバーのような店内で磨いてくれるのは嬉しいもの。

カウンター越しに磨いてもらいたい場合は予約したほうがいい。宅配で送って磨いてもらうお客さんも多いようだ。靴の“鏡面磨き”って言葉もブリフトアッシュが広めた気がする。それに、さすがプロだけのことはあり、ブリフトアッシュの“鏡面磨き”はため息が出るほど美しい。自分でやってもここまで光らないからね(笑)。

何万足と磨きあげてきた長谷川さんの手元。素早く滑らかに。磨きの所作に無駄がなく美しい。

何万足と磨きあげてきた長谷川さんの手元。素早く滑らかに。磨きの所作に無駄がなく美しい。

さて、今回の目的は靴磨きの取材ではなく、ブリフトアッシュのオリジナルの靴クリーム「THE CREAM」なのだ。この靴クリームはとにかく評判がいい。なかでもいろんなブランドの靴クリームを使ったことがある靴好きから愛されているというところがポイント。それだけ優れているという証でもあるのだ。

靴磨きのプロとして長年にわたり、さまざまなブランドの靴クリームを使ってきた長谷川さんだが、なかでも「サフィール ノワール」と「コロニル」は優れているという。2ブランドとも靴好きが愛用しているお馴染みの靴クリームである。ただしその特徴も一長一短あるという。

◆サフィール ノワール◆

SaphirNoir(サフィール ノワール)とは1920年フランス生まれのアベル社による高級シューケアブランド。

◆コロニル◆

Collonil(コロニル)とは1909年ドイツ生まれのザルツェンブロット社によるレザーケアブランド

MuuseoSquareイメージ

「サフィールは顔料が多く含まれているためオイリーで、コッテリした印象です。トリッカーズのカントリーには最適ですが、繊細な革だと風合いが少し損なわれがち。一方のコロニルは対照的に染料が多く、サラッとしていて透明感があります。しかし鏡面磨きをするときに水分を吸い取ってしまい、ワックスのノリがあまりよくないんです」

そんなストレスから、その中間的な靴クリームをいつか作りたいと思っていたという。

長谷川さんが理想とする靴クリームを作れるのは、靴クリームを専門に手掛けているメーカーではなく、化粧品を作っているメーカーだと直感したそうだ。そんな理由から化粧品を手掛けている国内メーカーに依頼したのだが、完成までには試行錯誤の繰り返し。そのため3年間も費やしている。

「普段はオーガニックの化粧品を開発しているファクトリーに無色の靴クリームのみをお願いしました。人の肌用の化粧品を手掛けていることもあり、塗布して磨いた後にベタつき感が残ってしまいました。何度も改良を加えて納得できる靴クリームがようやく完成したというわけです」

カラーバリエーションも豊富。どの色の調合もブリフトアッシュオリジナルのもの。絶妙な茶の色合いには秘密がある。

カラーバリエーションも豊富。どの色の調合もブリフトアッシュオリジナルのもの。絶妙な茶の色合いには秘密がある。

各色のベースになるこの無色の靴クリームに、粉末の染料を溶かし混ぜることで色数を増やしていくのである。その作業はブリフトアッシュが自ら行っているという。染料の割合も各色によって異なるため、こちらも配合にも時間がかかったそうだ。

全9色の展開だが、色選びの基準がユニークなのだ。たとえば、ライトブラウンはトリッカーズのカントリーの色、タバコブラウンはエドワードグリーンのダークオークの色、バーガンディはオールデンのコードバンの色といった具合に、人気の靴に合わせてそれぞれ作っているのだ。

ちなみに無色として販売している靴クリームは、ベース用の無色とは異なり、新たに開発された無色だ。けっして妥協していないのだ。

MuuseoSquareイメージ

こちらはオールデンのコードバンに合うように調合されたカラー・バーガンディー。

完成した靴クリームは革への浸透力に優れている。そのためシワの多い革に使うと内部に浸透して元の状態に復元してくれるそうだ。もちろん完全にシワが消えるわけではないが、他ブランドのものに比べて復元力を実感できるとのこと。

とくにJohn Lobb(ジョンロブ)やBerluti(ベルルッティ)といった繊細な革には有効だ。また、適度な撥水性も備えているため実用的だ。

MuuseoSquareイメージ

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指先にパール小程度の少量をとり、クルクルと円を描きながら革になじませていく。程なくしてクリームがスッと革に吸収されていく。

使われている成分は、スクワラン、シアバター、ホホバ種子油、ラノリン(羊毛から採れる蝋)、カルナバ蝋、蜜蝋など28種類の成分でできている。ここで挙げた成分はお馴染みのものだが、化粧品メーカー特有のものも入っているそうだ。ただし、それは企業秘密とのこと。

使われている成分も素晴らしいのだが、パッケージもこだわっていてデザインが素晴らしい。

瓶は天然成分を紫外線から守ることを考えて遮光できる茶色の瓶を使用。瓶のシールに描かれたBriftHのロゴの下には、「HELLO my name is」の文字が隠されている。

「HELLO my name is」とは、海外のストリートカルチャーで流行しているステッカーのこと。この「HELLO my name is」とプリントされたステッカーのスペースに名前を書き込む。グラフィティーアートのひとつだ。

もともと路上での靴磨きからスタートした長谷川さんにとっては、やはりストリートカルチャーは大切な要素なのだ。フォントは現代のスタンダードにしたかったという理由から、Appleが使用しているロゴフォントを選択。ゴールドのキャップやシールは高額な靴を取り扱う機会も多いことから、ラグジュアリー感を表現しているのだ。これまでの靴クリームとは一線を画する高品質で靴好きの気持ちに配慮した、新しい靴クリームなのである。

大量生産・大量消費に異議を唱える長谷川さんらしく、中身だけの販売も行っている。瓶を持参した方には靴クリームだけ詰めかえてくれるサービスも行っている。瓶の代金分がお安くなるので、ヘビーユーザーには有難い。

クリーム&クレンザーをセットで揃えれば万全だ。

クリーム&クレンザーをセットで揃えれば万全だ。

靴クリームと合わせて購入してほしいのが、靴クリーナー「THE CLEANER」だ。こちらはSTORONGとSOFTの二種類があり、アルコールの含有量が異なる。それが洗浄力の強さに反映しているのだ。それぞれ用途に合わせて使い分けたい。成分は秘密のローションと水、アルコール、有機溶剤で構成。シミになりにくく、革にも栄養を与えてくれるクリーナーなのだ。

もはやブリフトアッシュは靴磨き専門店という枠を超えて、靴への愛、靴を愛する人への愛でいっぱいなのだ。今回の取材を通して、ファンが増え続ける理由がわかった気がした。

ーおわりー

MuuseoSquareイメージ

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File

Brift H ブリフトアッシュ

長谷川裕也さんが代表を務める、靴好き、靴磨き好きから絶大な支持を受けているシューシャイン。まるで隠れ家風のBarに来たようなオシャレで落ち着いた店内。事前に予約をすれば、カウンターでスタッフがバーのマスターさながら滑らかな手さばきでその場で靴を磨いてくれる。

オリジナル靴クリーム「THE CREAM」 価格 3,000円(税別)
オリジナル靴クリーナー「THE CLEANER」 価格 2,000円(税別)

住  所:東京都港区南青山6-3-11 PAN南青山204
TEL&FAX: 03-3797-0373
営業時間:平日 12:00~20:00(L.O 18:45)、土・日 11:00~19:00(L.O 18:00)
定 休 日:火曜日

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靴磨きの本

靴磨き職人の地位を底上げしたい。靴磨きのイメージすらも革命したブリフトアッシュの長谷川裕也氏。彼が長年かけて確立した靴磨きを始めて磨く初心者にもわかりやすく解説。上級者向けには磨きのアレンジテクニックを紹介している。また、著者が顧客とのやり取りの中で発見した、初心者が疑問に思うポイントをQ&A形式でわかりやすくまとめている。

公開日:2016年4月11日

更新日:2022年5月2日

Contributor Profile

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倉野路凡

ファッションライター。メンズファッション専門学校を卒業後、シャツブランドの企画、版下・写植屋で地図描き、フリーター、失業を経てフリーランスのファッションライターに。「ホットドッグ・プレス」でデビュー、「モノ・マガジン」でコラム連載デビュー。アンティークのシルバースプーンとシャンデリアのパーツ集め、詩を書くこと、絵を描くことが趣味。

終わりに

倉野路凡_image

靴好きは自分で靴を磨いて当たり前。ブリフトアッシュができるまで、ずっとそう思っていたのだが、なかなか自分で磨くというのは難しく、やはりプロに定期的に磨いてもらうことでストレスが軽減されると自覚。最近はやっとそう思うようになった。ちなみにボクがメインで使っている靴クリームは「サフィール ノワール」なのだが、今回の取材で「THE CREAM」が新たに加わり、これまたストレスがなくなった(笑)。本文では書かなかったが、この靴クリームは他の革製品にも使えるので大変便利なのだ。まずは広い用途に使える無色と、靴の基本色である黒色を揃えたいところ。それにしても長谷川さんの発想はユニークだ(笑)。自分を、お店を、オリジナル製品をプロデュースする力に長けていると思う。彼のこだわりから生まれた「THE CREAM」を一度試してもらいたい。きっと満足するはずだ。

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