土産物にもセンスが光る。マーク・ジェイコブスの仕事

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文/梶原由景
写真/新澤遥

クリエイティブ・コンサルティングファームLOWERCASE代表、梶原由景氏による連載「top drawer」。第四回はマーク・ジェイコブスが手がけたワッペンを取り上げます。一流ファッションデザイナーの階段を華麗に駆け上がった彼のセンスは、土産物にもきらりと光ります。

MuuseoSquareイメージ

一番ニューヨークらしいデザイナーとは?

これまでに続き、今回もニューヨークの話。「一番ニューヨークらしいデザイナーとは?」と聞かれたとしたら、僕が真っ先に思い浮かべるのはマーク・ジェイコブス(Marc Jacobs)だ。

彼はとにかく時代の捉え方がユニーク。突然トレンドでもないスタンスミスを履いていたかと思えば、逆に2018年の冬にはトレンド真っ盛りのバレンシアガを全身に身につけていた。

いまは無くなってしまったが、ブリーカー・ストリート(Bleeker St)にはMARC BY MARC JACOBSのアクセサリーショップがあった。ここはより若い人にマーク・ジェイコブスの世界を知ってもらうための入り口のような役割もあるのだろう。ある時は「ヒラリー・クリントン(Hillary Clinton)に投票せよ」みたいなTシャツを売り、ある時は店中がVANSだらけになる。訪れると必ず面白いことをやっていて、ニューヨーク旅行の楽しみの一つだった。

以前、マーク・ジェイコブスで働いていたニューヨーク在住の友人に「よくお店に行ったよ」と話をした。すると、「ああ、あの土産物の店ね。チャッチキーズ(Tchotchkes)だよね」という。つまりノベルティみたいなものだろうか。

ハイファッションも、お土産品も

ある時、ショップがハーヴェイ・ミルク・ハイスクール(Harvey Milk High School)一色になっていたことがあった。ハーヴェイ・ミルク・ハイスクールはNYに実在するゲイやレズビアンのための公立高校だ。ガス・ヴァン・サント(Gus Van Sant)による映画「ミルク」でおなじみだろう。ゲイであることを公表したうえで、アメリカ合衆国の大都市の公職に就いた最初の人、ハーヴェイ・ミルク(Harvey Milk)に因んで名付けられている。写真は、そのハイスクールを支援する時にマーク・ジェイコブスが作ったワッペンだ。

冒頭で述べた「ニューヨークらしい」というのは、リベラルな意見を表明することに加え、その意見が人々に伝わるようにデザインできるという意味。マーク・ジェイコブスはそこがうまい。ハイファッションも、お土産品のセンスもすごく良い。振り幅がすごい。

ニューヨーク生まれの生粋のアメリカ人なのに、ルイ・ヴィトン(Louis Vuitton)のアーティスティック・ディレクターに抜擢されたことを含め、僕にとってマーク・ジェイコブスはファッション界のアイドル。ちなみに、ルイ・ヴィトン在籍時のデザイン・プロセスや、コレクションに向けた舞台裏に迫ったドキュメンタリー「マーク・ジェイコブス & ルイ・ヴィトン ~モード界の革命児~」は最高に面白い。

彼は連載の第一回で綴った「洋服に情熱があった時代に面白いことをやっていた人」の一人。いまは限られた活動しかしていないが、次に何を仕掛けてくるのか楽しみにしている。

ーおわりー

マーク・ジェイコブスを一層楽しむために。編集部おすすめの書籍

マーク・ジェイコブスを知るにはこの一冊

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Marc Jacobs: Unseen

マーク・ジェイコブスは、1993年にペリー・エリスのために発表した「グランジ」コレクションでファッションの歴史に名を刻むと、すぐにアメリカ版『ヴォーグ』から「グランジで控えめなクールの王太子」と称され、瞬く間に同世代で最も影響力のあるデザイナーの一人となり、自身のレーベルの指揮を執るとともに、1998年から2014年までルイ・ヴィトンのクリエイティブ・ディレクターを務めた。

スティーブン・スプラウス、ソニック・ユース、デビー・ハリー、ソフィア・コッポラ、クロエ・セヴィニーなど、著名なアーティストやミュージシャン、ミューズとのコラボレーションで知られています。ファッション史家のヴァレリー・スティール氏は、「昔、アンディ・ウォーホルがアーティストのあり方を変えたように、マーク・ジェイコブスはファッションデザイナーのあり方を変えた」と語っています。

デザイナーの作品に関するエッセイから始まり、デザイナーの最も象徴的な作品を時系列で再訪し、モデル、ヘアドレッサー、スタイリスト、メイクアップアーティスト、そしてMarc Jacobs自身の最もクリエイティブな場面での未公開の舞台裏を公開しています。ロバート・フェアラが撮影した素晴らしい写真は、ジェイコブスのショーを特徴づけていた若さ、魅力、スピリットを捉えています。

世界で最も成功し、認知されたブランドに育て上げた2人

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Louis Vuitton / Marc Jacobs: In Association with the Musee des Arts Decoratifs, Paris

クラフトマンシップとハイデザインで知られるルイ・ヴィトンは、その名を冠した創業者が1854年にスタートさせたラグジュアリー・メゾン。本書の前半では、ヴィトンの革新的な技術を紹介。ヴィトンは、アンヴァリュール(荷造り職人)というあまり知られていないギルドの職業を、パリで最も優れた高級トランクメーカーに変え、生涯を通じてフランスの貴族や繁栄した帝国のエリートを顧客に持つようになりました。これらの章では、ヴィトンのクラフトマンシップと、そこに込められたファッション性を示す代表的な作品や未公開の作品が紹介されています。
マーク・ジェイコブスは、村上隆、リチャード・プリンス、スティーブン・スプライスなどのアーティストやデザイナーとのコラボレーションを行い、ルイ・ヴィトンのメゾンを新たな時代へと導いたほか、大成功を収めた人気の高いウェアラインをデザインしました。

100年の時を隔てた2つの異なる、しかし似通ったキャリアを検証することで、過去150年間のラグジュアリー・ブランドの進化を重層的に研究するだけでなく、新世紀における技術とデザインの革新を称えます。

公開日:2019年12月23日

更新日:2021年7月14日

Contributor Profile

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梶原由景

LOWERCASE代表。元BEAMSクリエイティブディレクター。モトローラ、Palmなどと業界を超えた取り組みを行い、ソニーとはデザインホテル・プロジェクトに取り組むなど異業種コラボレーションの草分けとして知られ、ファッションリテールとしてのセレクトショップの再定義を行なった。ルイ・ヴィトンとKDDIのプロジェクトを手掛けるなど現在デジタル、デザインからアパレルまで幅広い業界にクライアントを持つ。2017年には藤原ヒロシ氏とコンテンツサイトRing of Colourを立ち上げた。

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