1,300年前の意匠に想いを馳せながらお茶をする。 ロマンが詰まった清課堂の「純銀含綬鳥文急須(じゅんぎんがんじゅちょうきゅうす)」

取材日: 2015年12月17日

取材・文/堤 律子
写真/田中 幹人

1,300年前の意匠に想いを馳せながらお茶をする。 ロマンが詰まった清課堂の「純銀含綬鳥文急須(じゅんぎんがんじゅちょうきゅうす)」_image

触れたいけれど、触れられない。強く惹かれるその世界を壊してしまいそうだから、触れずにいよう。子供の頃にはそんな感情がもっと近くにあったような気がするけれど、ここしばらく忘れていた。それを一瞬で思い出させてくれたのが、清課堂の銀の急須、「純銀含綬鳥文急須」だ。

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天平文化の瑞鳥(ずいちょう)舞う優美な文様を 現代の茶道具にあしらって

「1,300年前の人たちが、色んな意匠を凝らして捧げたもの。そのデザインにはどんな想いが落とし込まれたのか。そこに想いを馳せるのが楽しい」と話すのは、清課堂七代目・山中源兵衛さん。1,300年前に捧げられたものとは、正倉院に納められている宝物のひとつ“ものさし”のことで、そこにあしらわれた文様が「含綬鳥(がんじゅちょう)」である。高貴な身分を表す綬帯(じゅたい)をくわえる含綬鳥は、当時の権力の象徴でもあり、おめでたいことが起こる前兆を告げる瑞鳥とされている。その美しさをたくさんの人に知って欲しいと、山中さんが現代の急須に再現したのが「純銀含綬鳥文急須(じゅんぎんがんじゅちょうきゅうす)」(60万円・税別)だ。
純銀の、すべてを映し込むような独特の輝きの上で、舞っているかのように飛ぶ含綬鳥。華やかな天平文化を彷彿とさせるその優美な姿にしばし見惚れつつも、急須である以上、もちろんこの急須で淹れたお茶を飲みながら、古人を想うのが正しい楽しみ方なのだろうと我に返る。けれど、その果てしなく尊い年月を経て目の前に蘇った含綬鳥はあまりに繊細で、こちらの気配に気付かれたら、どこかへ飛んで行ってしまいそうな気がして、そっと見つめていたいという気持ちになるのだ。

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始まりは錫(すず)。一度は絶え果てかけた錫の文化に再び火を灯し、 海外からも注目される金属工芸を生み出す

清課堂には「純銀含綬鳥文急須」のように、純銀の美しさをそのデザインと存在感で教えてくれる作品が並んでいるが、同じように錫を使った作品も多数並ぶ。創業は天保9年(1838年)、初代・山中源兵衛氏が錫師(すずし)として、神社の神具をはじめとした金属工芸全般を扱ったのが原点である。当時は同じような店が近隣にいくつもあった、と山中さん。「ですが東京遷都や太平洋戦争を経て、京都で2軒というところまで減り、さらに錫が担っていた役割をステンレスやアルミニウムといった近代金属が取って替わりました。30年前には、錫を扱う店は大阪と鹿児島に数件あるだけ。当時の清課堂は今と違って職人を抱えず、製造は外部に発注し、錫や青銅などを作っていましたが、とうとう錫を生活に使う文化が絶え果てかけてしまったのです」。
一旦途絶えかけてしまった文化を立て直すのは一朝一夕にはいかず、とにかく錫の魅力を色んなところで語ったのだそう。「錫の魅力は、大きく2つ。1つ目は、その色目の美しさにあります。清潔感があり、白くてにぶい光沢の美しさはほかになく、時を経るごとにその光沢は変化し、味わいを増していきます。そして2つ目は、柔らかくて傷つきやすいこと。錫製品は落としたり、ひっかいたりと、生活そのものの歴史が刻み込まれていくものです。錫ならではの色味や光沢が、10年、100年と時を経てまとっていく美は、“古美”という新しい美しさとなります」。

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傷つきやすいことを長所とし、ついてしまった傷は愛でる要素になる。古いものが好き、という感覚はまさにそこに共感するからなのだが、言葉にしてみると、どんどん新しいものが生み出されていく現代において、共感を得るのがとても難しいように思える。「昔は、作り手も使う側も、そのものが経年変化するところまで考えるのが、日本の価値観でした。そして西洋は新しいものをよしとする価値観。ですが今は、それが逆転しているように感じます」。
そうして今、海外からも錫の魅力が再び注目され、錫製品は比較的手に入りやすいものとなっている。そんな中、清課堂の錫製品が一目置かれているのは、そのデザインはもとより、色目や質感に一言では表せない深みがあるからではないだろうか。「錫と混ざりやすい金属として、銀も得意としてきました。だから、急須をはじめとした純銀製品も作ります。そして錫製品にも、銀を混ぜているんです。銀が入ることによって、少し白っぽい色目の美しさと、疲労が少ない丈夫さを兼ね備えるのです」。
錫の長所を損なわず、銀を混ぜ合わせることで、さらに魅力を増して人を魅了する。清課堂の製品たちは、金属の性質を知り、魅力を知り、そして美しさを追求する山中さんだからこそ提案できるものばかりなのだ。

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金属という有限の素材に 知恵や想いを込めて美しさを追求する

山中さんが七代目を継いだのは25年前。情報システム工学を学ぶ大学を経て、トラックドライバーやバーテンダーなど、現在とは関係のない仕事を経験した後に、2人の師匠についた。一年間イチから錫や銀製品の製造について学び、現在の店の地下に工房を作って、それまで外注していた製造を社内ですることにした。現在、店頭に並ぶ製品の半分くらいは、山中さんがデザインしたものだ。「工芸はアートのカテゴリーだと思っているし、技術と美しさは両輪両軸でどちらも大事なものだと思っています。錫や銀という素材を売っているわけじゃない。知恵や工夫、想いを込めて、使う人の暮らしを豊かにするのが私の使命であり、こだわりです。金属は竹や土と違って、有限の素材なので、その中でどのように活かすかも忘れてはいけない。デザインする時に大切にしているのは、もちろん美しいフォルムであること、そして過去を振り返り、先人の想いを感じ取れるようなスパイスを加えること。自分が手がけたものが“古美”をまとい、例えば千年後にもこの世に残っているかも知れないとしたら、工芸家としてやっぱり嬉しいでしょうね」。

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