灰野敬二"Un autre chemin vers l'Ultime"
公開日:2018/10/28
某SNSで書いている音楽日記を以下に転載します。
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前回取り上げたヤニス・クセナキスに影響を受けている、もしくは強い共感を寄せるアーティストの一人に灰野敬二がいる。
灰野敬二は日本のロック創世記から現在まで46年の活動歴を持ち、音楽にすべてを捧げ、年を経るごとに、より音楽の幅と深み、それに加えて激越さを増している非常に稀有な存在の音楽家であり、世界的に信奉者を増やし続けている。その一つの証明として、「Keiji Haino」とネットで検索してみればよい。18万件を超えるウェブサイトが確認される。
今回取り上げるCDは、その灰野が仏ノルマンディー地方の洞窟および教会で行った無伴奏ヴォイス・ソロ・パフォーマンスの71分53秒の記録である。「71分53秒」と言葉にすれば簡単だが、一つの声のヴァリエーションだけで一時間をゆうに超える時間を飽きさせないどころかその激越さに戦慄さえ覚えさせるヴォーカリゼーションに実際に接すれば、多くの人は驚異を感じるのではないか。
灰野の演奏のいくつかを聴いたことのある方なら、洞窟や教会で録音を行ったのなら得意の澄んだ高い声を聴かせるのだろう、と想像するかもしれない。しかし、ここでの灰野は、獣のうなり声や咆哮、低い声での読経のような声(チベット密教の聲明のような)を、のどから血を流さんばかりに、身体の奥底から搾り出し、響き渡らせんとする。こんなヴォーカリゼーションは普通なら3分と持たないであろう。まず常からの声の鍛錬が必要であるし、音楽的であり続ける持続力も必要だ。それにもちろん集中力がなによりも必要だろう。このようなヴォーカリゼーションを私は他に知らない。もしかしたらディアマンダ・ギャラスやタミア、もしくはJUNKOやパティ・ウォーターズの名を挙げる人がいるかもしれない。だがギャラスには歌心がないと私には思われる。タミアは素晴らしいアーティストだが、灰野の激越なヴォイス・パフォーマンスを聴いた後だと、やはり色褪せてしまう。JUNKOは私にはワンパターンに思える(JUNKOの場合ワンパターンが悪いというわけではないが)。パティ・ウォーターズも凄いパフォーマーだがヴォーカリゼーションだけ(つまりバックの演奏なしに、という意味)で勝負できたかどうかには疑問が残る。となるとやはり灰野はワン・アンド・オンリーの存在だと改めて強く思うのである。
裏ジャケットにはkeiji hainoに続いてetherとクレジットされている。カタカナ表記に直すと「エーテル」、と書けば聞き覚えのある方も多いかと思う。天空を表す英語で、語源はギリシャ語で「天空上層の空気」の意味であるそうである。この音楽にイーサリアル(ethereal)「[天上の]とか[霊妙な]の意」なものを感じられるかどうかは聴く人の感覚次第というところであろうか。
https://www.youtube.com/watch?v=2B4gSTomMbw
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