かわいい原稿用箋@昭和初期ごろの婦人雑誌ノベルティ

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大正五年(1916年)に創刊され戦前四大女性誌の一郭をなし、そして戦中の一時中断を経て今も続いている『婦人公論』誌の名を冠した、小ぶりの原稿用箋。はかってみるとヨコ15×タテ22.3cmだから、A5ノビといったところか。戦前の原稿用紙、といえば世の中ではもっぱら作家や詩人、あるいは各界著名人などの自筆原稿にばかり関心が向くようだが、図版研にとってはこういうシロモノの方がよっぽど魅力的に映る。

紅殻色の単色刷り表紙には目を閉じて切り花の香りをかぐ洋装の婦人のカット画がタイトルとともに右上に配置され、その絵から何かがぽん、と2つ飛び出した軌跡のような抽象的な細線の図案がその左におかれている。部屋の中なのに光の粒をまとったかのような蝶が舞っている、白昼夢のようなシュルレアリスティークな風味のイラストが目を惹く。2本の線が自由落下していった先には同誌の版元である「中央公論社」の名と、当時の社章とおぼしきCとKとの合字がさり気なくそえてある。社史かなにかでこの印が使われていた時期が拾えれば、この用箋がいつごろのものかもはっきりするのかもしれない。こういう和製アール・デコ調のグラフィックデザインが一世を風靡したのは大正12年(1923年)の関東大震災からの復興期以後、だいたい昭和10年あたりぐらいまでかとおもうのだが、中央公論社が本社をおいていた丸ノ内ビルヂングは竣功した大正12年2月からわずか半年あまりで被災、同年11月から大規模な耐震補強をかねた修復工事が始まって、やっと完成をみたのは大正15年(1926年)7月という
https://doi.org/10.3130/aija.76.1491
から、その後の可能性の方が高いんじゃないかな〜、という気はする。

さて、中身の用箋そのものもみてみよう。フツーの二百文字詰め罫のまわりがかわいらしいカットの連続図案でぐるりと囲まれている、たのしい原稿用紙だ。いかにも手描きの、左上に配置された「婦人公論原稿用紙」の図案文字もヘンに自己主張せず、にぎやかな飾り罫のなかにおさまっている。刷り色は表紙よりも落ち着いた葡萄茶。用紙は白色度が高くなく、なめらかな手触りながら適度にひっかかりのある、インクペン馴染みのよさそうな紙質だ。表紙の焼け染みが目立つわりに用箋自体は縁焼けもほぼみられず、保存性のよい紙を使っているとみられる。

定期購読者向けのノベルティなのか、はたまた懸賞企画の賞品だったのか、どういう経緯でこの原稿用箋が作られたのかは本誌のバックナンバーを丹念に追っていきでもしない限りはわからないのだろうが、とにかくこのおしゃれさとかわいらしさ、今でも十分商品価値をもっているデザインではないかしらん。

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