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Olenellus gilberti
私のもっている唯一のオレネルスがこれだ。 じつのところ、私はオレネルス類にはわりと冷淡で、ほかの種類が欲しいと思ったことはあまりない。 それは私がレドリキア派でもオレネルス派でもない、パラドキシデス派だからだろうか。 それとも最初に手に入れた本標本があまりにも好みに合致していて、これだけで満足してしまったからだろうか。 いずれにせよ、今後他のオレネルス類へ探求の手が延びることはまずないので、この唯一の標本を大切にしようと思っている。 全長:39mm
Pioche Shale LCAM Lincoln, NV, USAktr
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Conocoryphe sulzeri
本種はカンブリア紀チェコの代表的な一般種で、サイズよし、保存よし、価格よしと、いい条件が揃っている。 見た目も、なんとなくぶきみで変態的な雰囲気を漂わせているのがチェコらしくてよい。 とりあえずチェコの三葉虫をサンプル的に、と思っている人には、これがお勧めだ。 と思ってネットを見ると、意外や意外、けっこうな値段がするではありませんか。 これではうかつに人に勧められない。 まあ、あるところにはあると思うので、安いのを見つけて買ってみてください。 全長:40mm
Jince Fm. MCAM Czech Repblicktr
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Pseudocybele nasuta
顔のかわいさという点では、全三葉虫のうちでも五指に入るだろう。 レドリキアやオレネルスの悪相(とあえていう)とはえらい違いだ。 しかしこんなかわいい顔をしながら、食性の面からみると捕食者すなわちプレデターだったという説がある。 顔で相手を油断させておいてガブッとやったのだろうか。 私は三葉虫にはあまり捕食などという野蛮な行為はしてほしくない。 なるべくならプランクトンあたりを餌にしていてほしい。 そうやって平和な三億年を過していたと思いたい(註)。 全長:18mm (註) 厳密には最大限に見積っても2.9億年ほどで、三億年には達していない
Ninemile shale LORD Eureka, NV, USAktr
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Ellipsocephalus hoffi
本種は密集になった標本がよく出回っている。 私も最初に手に入れたのはそういう密集標本だった。 しかしそのひとつひとつの個体の状態がイマイチなので、単独の標本(つまりこの標本)を買ってみたが、本種はやはり密集での標本のほうがいいみたいだ。 本種においては、昔から目の有無がずっと気になっていたが、いまだに判然としない。 正面から撮った画像を見れば、たしかに目はありそうだが、それはほんとうに目なのか、それともたんなる痕跡か、そのあたりがはっきりしないのだ。 SSPの図鑑の著者ピート・ローランスなどは、はっきり「ある」といっているし、1988年に出たドイツの化石雑誌の記事にも「(エリプソケファルスの)細長くやや弓なりになった眼はまったく目立たないので、昔の記載者たちは眼のない種類だと勘違いしたほどである」と書かれている。 しかし本種について詳細な記載を行っているミラン・シュナイドルは、瞼翼の存在こそ認めているものの、目の有無については一言も書いていない。 というわけで、ほんとのところはわからないが、私としては「ある」に一票入れておきたい。 全長:30mm
Jince Fm. MCAM Czech Repblicktr
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Agraulos ceticephalus
三葉虫には名前と現物とが釣り合わないものがある。 本種などもその一例で、名前だけきけばどんな三葉虫かと膝を乗り出すが、現物を見ると少なからずがっかりする。 小さくてあまり特徴もないので、よほど手広く集めている人か、あるいはチェコ産を集中して集めている人でなければ手に入れようとは思わないだろう。 本種は自在頬を欠いた標本がほとんどだが、本来は小さいトゲつきの自在頬があるので、それのついている標本はけっこう貴重だ。 全長:15mm
Jince Fm. MCAM Czech Repblicktr
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Pliomera fischeri
これは二代目のプリオメラで、当初からかなりアラが目立った。 しかし、これ以上に姿勢のよい、頭部の造作が理想的な、ハイポストマまでついた標本はなかなか見当たらない。 このプリオメラという種類は、かつてはそれなりの数が出ていたのに、最近ではふっつり見かけなくなった。 今後はどんどん稀少になっていくのではないか。 本標本は一見ぼろぼろだが、その目をルーペで見ると、微細な複眼の構造が保存されてる。 これもやはり私がこの標本を手元においている理由のひとつだ。 というわけで、いろいろと見どころの多い標本であることは確かだが、やっぱりどうしても気になるのはその全体のくたびれ具合と、母岩から外れている点だ。 これはまあ、諦めるしかないですね。 全長:40mm
Unknown ORD Russiaktr
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Cybele bellatula
Labログ(キベレの思い出)にも書いたように、復帰後最初に手に入れたのがこれだ。 あれからまだ一年ほどしか経っていないが、なんだかずいぶん昔のことのような気がする。 これはエンクリヌルスの仲間に入れられていて、エンクリヌルスといえば、イチゴ頭と称される頭部のツブツブと、飛び出した目が特徴的だが、本種においては頭部の顆粒はそれほど目立たず、目は飛び出しているけれども控えめで繊細だ。 この控えめで繊細というのは、本種の全体についてもいえることで、全三葉虫のうちでもかなり優美な部類に入るのではないかと思う。 野趣が感じられないので、それが物足らないという人もいると思うが…… この標本は母岩がいびつで、どうしても安定せず、下手をするとひっくり返りそうで、心臓にわるいので、紙粘土で補強して安定させてある。 なお、この繊細すぎる三葉虫には、C. Panderi という姉妹種があって、本種に輪をかけて細長い眼軸をもっている。 その細長さは、チェコのミラスピス・ミラと双璧をなすといってもいいくらいだが、あまりにフラジャイルで私には怖くて扱えない。
Kunda Horizon, zone Asaphus expansus LORD Voibokalo quarry, St. Petersburg region, Russiaktr
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Dactylioceras sp.
私が最初に手に入れた化石が本種なので、懐かしさもあって購入してみた。 かつて手に入れたものはノジュールを割っただけのもので、母岩に眠るような格好で入っていたが、今回のものは母岩側も掘り出してあって、独立した標本になっている。 あの硬い母岩をよくここまできれいに取り除いたな、と感心するが、最近は機材の進歩がすさまじく、こういうかつてはできなかったような剖出も可能になったんだろう。 そんなわけで、片面は金属光沢をもち、反面は艶消しの質感をもつ、一種アンドロギュノス的な標本に仕上っている。 アンドロギュノスといえば、Androgynoceras という名前のアンモナイトがあって、これも美しいので人気があるが、いったいどうしてこういう名前になったのか、興味がある。 全長:45mm
Unknown Jura, Lias Whitby, Yorkshire, UKktr
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Paradoxides gracilis
今からちょうど10年前に手に入れたもの。 本種については購入当時にブログにいろいろと書いたので、ここでは繰り返さない。 とにもかくにもこれが私のコレクションの核であって、三葉虫探求において私の辿る道はすべて本種に端を発しているといっても過言ではない。 これはふぉっしるの出品で、落札価格は12,000円だった。 この金額が、その後の私の基準となってしまい、なかなかこの金額を超える標本を買うことができなかった。 その縛りは、細々とではあるが、いまも続いている。 全長:90㎜
Jince Fm. MCAM Czech Pepbulicktr
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Ptychoparia striata
かつてはプティコパリア目の頭目のような顔をしていた本種だが、いまでは未確定目に他のものといっしょに放り込まれて、もはや昔日の威光はなくなった。 とはいうものの、本種がチェコを代表する三葉虫のひとつであることに変りはない。 けっして稀少種というのではないが、りっぱな標本はやはりそれなりに貴重だ。 R・フォーティはその著「三葉虫の謎」のなかで、本種について「ミスター平均」という呼称を与えている。 三葉虫の基本的なシェイプからの「いかなる方向への誇張もいっさいない」というのだが、どうだろう。 私にはそれほどプリミティヴにはみえないし、むしろボヘミアらしい奇妙な偏向を感じてしまう。 偏向というのは、ボヘミア三葉虫がもっている、一種異様な地下世界的な風情だ。 私にはそれがなぜか鉱山のイメージと重なってくる。 そこに魅力を見出せるかどうかが、この地の三葉虫を鑑賞する際の決め手になるだろう。 全長:48mm
Jince Fm. MCAM Czech Repblicktr
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Archimedes sp.
その特徴的な名前と形によってすぐに見分けがつくので、化石愛好家からは親しまれている。 コケムシとはいうものの、このような形で海底に突っ立っていて、おまけに節のひとつひとつに花冠のようなレース状の群体をもっていたというから、あまりコケという感じはしない。 むしろある種のサンゴに近いように思う。 サンゴは花虫(かちゅう)とも呼ばれる。 コケムシは蘚虫(せんちゅう)。 片や花、片やコケで、美観にだいぶ差があるようだが、化石になってしまえばその差はかなり縮まる。 本体の長さ:40mm
Bangor Limestone Fm. MISS Franklin, AL, USAktr
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Dicranurus hamatus elegantus
デボン紀オクラホマの産。 オクラホマのトゲトゲ種の代表で、本種と、この前登録した Ceratonurus と、あともう少しおとなしめの kettneraspis の三種でオドントプレウラ目を構成している(註)。 Dicranurus には黒くてサイズの大きいモロッコ産のものもある。 というか、こっちのほうが有名で、monstrosus(怪物のような) というものものしい名前がついている。 オクラホマ産は小さくて華奢なので、怪物的というほどではない。 しかしよくよく眺めると、その造形にはどこか邪神クトゥルフを思わせるようなぶきみさがある。 私はオクラホマ産はオドントプレウラ二種を手に入れただけで息切れしてしまったが、同地産でこれら以上に魅力的なのが見当らない以上、この二種で満足すべきではないかと思っている。 全長:トゲ込みで45㎜ (註) じつはもうひとつ、Laethoprusia という超稀少種が存在する。 しかしこんなのは一般人が手に入れられるものではない。
Haragan Fm. LDEV Clarita, OK, USAktr
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Cruziana semiplicata
Cruziana simplicator という名前で届いたけれども、この名前で検索しても何も出てこない。 そのかわり、Cruziana semiplicata (Salter) というのがあって、たぶんこれが本標本に該当するんじゃないかと思う。 サイズは中央の線に沿って5㎝ほど。 本種のほかにウェールズで産するものとして、Cruziana furcifera (d'Orbigny) というのがあるらしい。 こちらは二匹の蛇が並んでのたくっているような外観だ。 ところでクルジアナとは何か。 三葉虫の這い跡の生痕化石で、言葉で説明するより図を見たほうが速い。 https://www.trilobites.info/trace.htm これで見ると、V字型の上方向が三葉虫の進行方向のようだ。 ブンデンバッハで産出する Chotecops などの、脚の保存された標本を見ると Cruziana の条線とよく一致しているように思う。 https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Chotecops_ferdinandi_fossil_trilobite_%28Kaub_Formation,_Hunsruck_Slate_Group,_Lower_Devonian;_Budenbach_area,_western_Germany%29_1_%2815346813712%29.jpg なお、Cruziana というのはいわゆる属名で、そのあとに種小名がつく。 本種 Cruziana semiplicata もそのひとつで、上に名前をあげた Cruziana furcifera のほか、クルジアナには60種類ほどのものが確認されているようだ。
Ffestiniog Fm. UCAM Nant Francon Pass, Snowdonia National Park, North Wales, UKktr
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Ceratonurus sp.
デボン紀オクラホマの産。 オクラホマという土地は、他のアメリカの産地とはちょっと趣を異にしていて、ここから出るものは、むしろモロッコやチェコのものに近い。 オクラホマ、モロッコ、チェコという、今日ではずいぶん離れた場所から似たような種類がいくつも出るのが私にはおもしろく思われるのだが、その理由はまだ調べてみない。 本種はいまだに種としての名がなく、いわば名無しの権兵衛状態なのだが、発見されてからもう二十年は確実に経っているし、その間にいくつもの個体が市場に現れて愛好家には知れ渡っているわけだから、もう改めて記載しなくてもいいんじゃないの、と思われている可能性はある。 母岩の裏側に1991という数字が彫られているが、これが1991年を指すのかどうかは不明。 サイズはトゲ込みで42㎜。
Haragan Fm. LDEV Clarita, OK, USAktr
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Pseudobasilicus lawrowi
全長45㎜の子供個体。 母岩とのマッチングはいいし、形も整っているので、小さくても気にならない。 考えてみれば、私のもっているロシア三葉虫は小さいものばかりだ。 理由は簡単で、そうでもなければとても手に入れられないほど、ロシア三葉虫は高価なのである。 Pseudobasilicus は昔は Ptychopyge の仲間に入れられていて、たしかに見た目もよく似ているのだが、どういうわけかいまは Pseudoasaphus の仲間に入っているようだ。 また Pseudobasilicus にも二種類あって、P. lawrowi と P. planus とを比較すると、前者のほうが頬棘が太くて長い、額の小さい角のような突起が明瞭、頭蓋前方が細長い、尾板の畝がカーブしている、などの違いがあるとのこと(SPPLの図鑑による)。 あと余談だが、本種の名前の元になった Basilicus というのは、イギリスで産出する三葉虫で、ソルターの画期的な論文「英国の三葉虫」でも大きく扱われている。 かなり大型化する種のようで、tyrannus の種小名が示すとおり、威風あたりを払うといった風情だ。 (追記) ソルターの本から Basilicus tyrannus の画像を追加しました。
Aseri Horizon MORD Volkhov river, St. Petersburg region, Russiaktr