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グッド・モーニング・スターシャイン/ザ・ストロベリー・アラーム・クロック
1969年の四作目にしてラスト・アルバム。大幅なメンバー・チェンジ後の唯一作。SACといえばなんといっても「インセンス・アンド・ペパーミンツ」でいきなり初期から成功したサイケデリック・バンドと認識されています。が、セカンド、サードと厳しい内容の作を重ねました。とはいえそれはあくまで私見、個人の好みの問題であり、コーラスハーモニーポップの、いわゆるソフト・サイケの文脈ではそれなりの評価は下されているのかもしれません。しかし、それにしてものオーバー・プロデュース、あんたらはすぎやまこういち先生についぞ頭が上がらなかったザ・タイガースか、とつっこんでもこの際差支えはないでしょう。それくらい柔らかい作風でした。もっとも、SACもタイガース同様、ステージではワイルドなパフォーマンスを披露、ドアーズぱりのインタープレイや、「ソウル・キッチン」でステージを終えるといったこともしていたそうです。一転してこのアルバム、音に黒っぽさは伴ったものの、力強い男性的なボーカルが響きわたりこれがあのストロベリーズかと驚かされます。ラストにして、強烈な個性こそないもののアメリカン・ロック然とした骨のある音を獲得したとでもいいますか。同じメンバー・チェンジ後のラスト・アルバム「ロックンロールがなつかしい」で終わったプルーンズ(完全に別のバンドが プルーンズを名乗っていた笑)よりははるかにましな幕引きでした。
サイケデリックロック CD UNI揖斐是方
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一柳慧・追悼 IMPROVISATION SEP. 1975 w/ 小杉武久 マイケル・ランタ
10月7日に逝去された一柳氏を追悼するにあたり、「エロス+虐殺」か「オペラ横尾忠則」か迷ったのですが、本作を思い出しましたのでこれに決定。「演っている本人達だけがとても楽しいジャンル」(そういうことを言ってはいけない笑)でお馴染みのフリー・インプロヴィゼイション物です。75年9月26日にNHKのスタジオで録音された音源で、プロデューサーの上浪渡氏のライナー・ノートによると、マイケル・ランタと小杉武久が10種を超える民族楽器、打楽器、ラジオ、エコー・マシンを使い、一柳はピアノ、リング変調器を使ったとのこと。当然ですが彼らは皆、演奏というよりも音響発生ツールとしてこれらを使い、このインプロヴィゼーションに取り組んでいます。当時NHKのチーフ・ディレクターを務めていた上浪氏の「楽譜という定量化された音楽情報が、特に視覚を通じて得られる情報が、本来聴覚に頼らなければならない音楽情報をどれだけ不正確にし、音楽を不自由にしたか」という指摘はまさに正論と言えるでしょう。わけなどわからなくてよい、ただ響きを体感すること。この手のレコードはそれに尽きると思いますけれども、如何なものでしょうか。内容は「タージ・マハール旅行団」を、よりソリッドにした印象、これもわかったようなわかんないような話ですが笑。LPは300枚、CDは1000枚の限定リイシューのようです。一柳氏が生涯試みた野心的で壮大な音楽・音響の実験。六年間の小野洋子との結婚生活もまた極めてスリリングな実験生活だったのかもしれません。合掌。
実験音楽 LP, CD PHOENIX揖斐是方
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『ストリング・ドリヴン・シング』『占い師のヴァイオリン』 1973年の英国アンダーグラウンド・ロック・バンド
カリズマ・レーベルからのリリースですし、一応はプログレッシヴ・ロック・バンドとカテゴライズされているようですが、もっとダークでエモーショナルな「アンダーグラウンド」然としたサウンドの非常に特異な個性を持ったバンドでした。これは厳密にはセカンド・アルバムにあたり、カリズマからのいわばメジャー・デビュー盤といったところでしょうか。国内盤はシングルジャケットですが、英国オリジナルはゲートフォールド仕様。デザインはヒプノシス。特徴はなんといってもバンド名が示す通りのヴァイオリンをフィーチャーしているところで、ドラマーが正式にメンバーとなるのはこの次の次のアルバムあたりから。結構キャッチーなメロディの歌ものが印象に残る、知る人ぞ知るブリティッシュ・ロックの隠れた佳作といえるでしょう。アルバムでは「フェアグラウンド」と題されたナンバーもシングルの邦題は「占い師のヴァオリン」。ヴァイオリンをフィーチャーしたバンドといえば、コーマスやサード・イアー・バンド、コックニー・レベルを想起しますが、ここまでバンド名に直球でそれを反映させていたのは、当然彼等だけでした。
アンダーグラウンド・ロック LP, 7inch カリズマ揖斐是方
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恐怖劇場アンバランス ミュージック・ファイル 富田勲 円谷プロ
おっかない音楽といえば色々と思い浮かびますが、古くは「ミステリー・ゾーン」や「マルマン深夜劇場」の「夜は恋人」、「ウルトラQ」はそうでもなかったけれど、矢追UFO物の甲高いトランペットのあれ、夜の闇が深かった時代ですから、「音」だけでも極めてインパクトがありました。そして巨匠富田勲の本作。かなりショッキングなアレンジでありながら、やはりどこかモダンでジャージーなテーマを聴かせています。1996年に発売された全22トラックは基本的に本編エピソードに準じたタイトルが。以前発売されたレーザーディスク・ボックスは、さすがに重量感がありまして、見るのはDVDですがコレクションとしてはこちらです。「奥さん奥さん金をくれ」の唐十郎、 「モルグの殺人者」での野坂昭如、そして極めつけは、普段のライブステージをそのまま見せるだけでもエピソードが成立しんたじゃないか(失礼)と信じる浅川マキが出演の「夜が明けたら」など、「怪奇大作戦」とはまた異なったアングルで迫るこのシリーズ、エピソード前のホスト役、青島幸男の起用は当然後年のタモリのそれに引き継がれていきますが、元をただせば「ミステリー・ゾーン」のロッド・サーリングですね。#円谷プロ #特撮 #怪奇大作戦 #唐十郎 #野坂昭如 #浅川マキ #富田勲
サウンド・トラック盤 CD レーザーディスク パップ揖斐是方
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CCR,クリムゾンを歌う。ザ・ピーナッツ・オン・ステージ
1972年、民音でのステージを収録したライブ盤です。オリジナル・エルピーとはジャケット写真が違いますが。オールデイズやオリジナルのヒット曲は当然としても、問題は当時の洋楽ヒットのカバー。キャロル・キング「心の炎も消え」とかCCRあたりはまあ、良しとしましょう。しかし、リンゴ・スターの「ひっこめポール」もとい「バック・オフ・ブーガルー」やユーライア・ヒープの「対自核」というのは驚かされます。ピーナッツでか?!といったところです。そしてやっぱりトドメは「エピタフ」でしょう。あの当時、ステージでキング・クリムゾンを歌っておりましたかピーナッツ。まあ、例によって全曲が宮川泰の遊び放題・やり放題のアレンジ仕事ですから、ピーナッツは先生にいわれるままレッスンを重ねたのでしょうか。後年の坂本冬美が「ムーン・チャイルド」をパクったように(そういうわけでもないですか笑) 初期クリムゾンのマイナー叙情は日本人に親和性あり。ショーの司会は岸部シローでした。#ringostarr #CCR #kingcrimson
歌謡曲 CD キング揖斐是方
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バーニー・クラウス+ジョージ・ハリスン 『電子音楽の世界』
ハリスン二作目のソロと位置付けられている奇盤です。しかしこういう種類の音楽に一貫して批判的だったハリスンが、では一体どういう意図でこれを発表したのかについて妄想を巡らせるのですが。タイトルが単に『エレクトロニック・サウンド』で、フロント・ジャケットに描かれた人物は当時のモーグ・シンセサイザーの第一人者であり、このアルバムの立役者でもあるバーニー・クラウス、プロデューサーとして目立たなくジョージ・ハリスンと書かれている点から考えると、これは自らの強いコンセプトを立てた上でのソロ・アルバムとしてリリースするつもりではなく、あくまでザップルという実験の場である新設レーベルだからこそ可能な、モーグという新しい楽器のデモンストレーション・サンプルレコードとして形にしたのではないかと。だからこそB面はバーニー・クラウスの演奏だし(本人の抗議でクレジットは消されていますが)。やはりこれは、ブライアン・ジョーンズによる『ジュウジュウカ』に近い意図のアルバムで、いわば音楽(楽器)の紹介者として自らの名を冠しただけという気がするのです。 クラウスの、なぜ自分の演奏をハリスン名義で出すのだという怒りの抗議に対し、「だって僕はビートルなんだぜ!」と言い放った、そのノートリアスなロックンローラーぶりが良い。若いぞハリスン。しかし最終的には、まるでエクスキューズのようにフロントカバーにはクラウス一人の絵を描いているというのも、人柄を忍ばせます笑。 早くも没後二十年、レストインピース。#zapple #georgeharrison #beatles
電子音楽 CD ザップル 定価揖斐是方
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ソウルの追求/ザ・ヘルプフル・ソウル ルパン三世主題歌を歌ったチャーリーコーセイ在籍
横浜のパワー・ハウスと双璧をなす、神戸のブルース・ロック・バンド、ヘルブフル・ソウルのファースト・アルバムです。1969年発表。クリームやヘンドリックスのカバーの他、オリジナルナンバーも。長尺のファズ・サイケデリック・ジャムに、この時代のこの手のバンドの面白さと限界は感じますが、総じて非常に頑張っているのではないでしょうか。このあと手塚のアニメ「千夜一夜物語」の音楽などを担当するも、あっさり解散。ギター・ヴォーカルのジュニオ・ナカハラはあのトゥーマッチを結成するわけです。オリジナル・アナログはとんでもないレア盤として有名です。なお、このバンドのベーシスト、チャーリーコーセイさんは、後にルパン三世主題歌を歌った事で有名です。#jimihendrix #cream #psychedelic blues
サイケデリックロック CD ビクター ブルース・インターアクションズ揖斐是方
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スイングの核心/森山威男
やはり森山威男しかいないと確信するに十分な映像が、98分にわたって収録されたDVD付きの書籍です。ブルース・ゲイリーやリンゴ・スターがそうであるように、最初の一打からすでに豊饒な音楽としかいいようのない氏の演奏、山下洋輔をして、彼がいなければ山下トリオは存在しなかったと言わしめるのも了解できる才能とセンス、パワーの物凄さ。これで70代、驚愕します。文章と映像で多角的にドラマーとしての森山氏を分析しており、フリージャズにおけるドラムスの奥義を垣間見た気がしました。熱く、泥臭く、ストレートであざとさの一切ない氏のドラミングには刮目するしかありません。そして、氏のこうした音楽上の格闘技としての好敵手はやっぱり山下洋輔なのだとDVDで確信、演奏中の二人の呼吸、駆け引きの妙味は、フリージャズとは見るのが一番面白いと思わずにはいられないわけです。#森山威男 #山下洋輔 #坂田明 #フリージャズ
フリージャズ DVD 書籍 ヤマハ揖斐是方
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ロマが「ラヴユー東京」を歌う違和感 トニー・ガトリフ監督の音楽映画『ベンゴ』
ガトリフという映画監督は音楽を、ロマ(ジプシー)の俗謡などをモチーフにした作品作りには定評のある映像作家で、秀作は少なくありません。ただし、そちら方面にフォーカスし過ぎて、シーンごとの音楽表現の連なりから醸し出される詩情のほうに観客はひっぱられてゆく傾向があります。2000年の作品、この『ベンゴ』もフラメンコを描いて圧倒的画力を放つのですが、ストーリーとしてはいまひとつ…。そしてマリア・ラ・コネヤという女性がアカペラで突然歌いだすのが、ロス・プリモスの大ヒット「ラブユー東京」。このアサッテぶり、この面妖さ、痛烈なインパクトをもたらす究極の違和感。55秒の収録ながら、一体どうしたことかと思わずにはいられません。それにしてもどうしてロス・プリモスを‥‥。#映画音楽 #tonygatlif #黒沢明とロス・プリモス
映画音楽 音楽CD DVD 定価揖斐是方
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「リンゴ追分」と「金の指輪」 ニーナ・シモンの「リトル・ガール・ブルー」
1950,60年代には日本とアメリカのレコード会社で、互いの流行音楽の情報交換としてレコードを送りあっていたという話を聞いたことがあります。半世紀以上前ならばそれは容易に考えられるわけで、ただ、こちらは向こうのものを参考にしまくったはず笑なのに対し、向こうはこちらのものなどあまり役にたたなかったのではと思われますが。日本コロムビアから1952年5月に発売されたのが美空の「リンゴ追分」、対してニーナ・シモンのこの名作とされるファーストは、録音が1957年、リリースされたのが1959年。米国ベツレヘム・レーベルから。アール・バローズ(ジョージ・ストーン)作のPLAIN GOLD RING、邦題「金の指輪」が収録されています。この両曲が似ている。似ているというよりも、率直な印象は、やったなと笑。日本から送られてきたひばりの「追分」に大きくインスパイアされて書かれたのが「金の指輪」なのではないかと、日本の流行歌が先という、とても稀有な例として。但し、ベツレヘムというレーベルは当時の日本での配給はコロムビア系列じゃなくキングがどこかだったはずなので、その辺の経緯はわかりませんが。あるいは私の全くの見当違いかもしれず、事実関係も含めてこの二曲をめぐる話に詳しい方がいらしたら、ご教示願いたいと思っています。#Ninasimone #美空ひばり
ジャズ 音楽CD ソリッド揖斐是方
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ナウ・ヒア・イズ・ノーホエア/シークレット・マシーンズ
テキサス出身のサイケデリック・パワー・トリオのデビュー作。2004年発表。米国では注目された新人バンドとして一定の評価を得たものの、徐々に活動は先細りとなり、紆余曲折の末に現在は二人組となりました。久々に新作を出して活動は継続しているようですが、かつて日本盤もセカンドまでは出ましたし、サマー・ソニックに出演していたわけですから、そこそこのものだったとは思いますが、今では本盤、中古で三桁というわけです。 2007年の映画「アクロス・ザ・ユニバース」ではボノのバックで「ウォルラス」、単独で「フライング」や「ブルー・ジェイ・ウェイ」を担当していました。写真二枚目は、ファーストからの米国盤DVDシングル・カット。このバンドの特徴はとにかくジョシュ・ガーザによるダイナミズムあふれる力強いドラミング、そこにスペイシーかつサイケなシンセやギターが乗り、ポップなメロディが歌われる。ただ、長続きするだけのコンテンツに乏しかったということでしょうか。21世紀初の見どころのあるバンドかと期待はしていたのですが。#psychedelic #サマーソニック
ロック 音楽CD ワーナーミュージック・ジャパン揖斐是方
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シンギング・アンド・プレイング/ラリー・カールトン
1973年リリースのセカンド・アルバム。クルセイダーズに加入以前の、国内盤では初の作品だったと思います。 いうまでもなく、随所で素晴らしいソロを聴かせるわけですが、当時はすでに若きセッション・ミュージシャンとして大活躍でした。ジョー・サンプルやマイケル・オマーティアンを迎えたこのアルバムは、後年のフュージョン・ギタリストとして大成する以前の記録というわけです。山下達郎の英詞を担当して有名なシンガー・ソングライター、アラン・オディ作の名曲で、ステッペンウルフやスリードッグナイトなどカヴァー・ヴァージョンも数多い「イージー・エヴィル」のクールな感触、流麗なソロが印象的な好盤です。#larrycarlton #山下達郎
ロック フュージョン 音楽CD MCAビクター揖斐是方
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追悼・小松政夫『デンセンマンありがとう』 しらけ鳥音頭/友川かずき
特にわざわざ買い求めるまでもないほど、イヤというほど耳に入ってきたこの番組のこの曲、桂三枝に伊東四郎、なによりも鬼才小松政夫、お馴染み過ぎる面々。1977年の夏がオリジナル発売です。このアルバムで特筆すべきは、「しらけ鳥音頭」のオリジネイター、友川かずきのフルレングス・レコーディング・ヴァージョンが収録されていることでしょう。幾多の作品を70年代よりリリースし続けている友川さんの、おそらくここでしか聴けないレア音源とでもいいましょうか。「別にたいしたものじゃありませんよ」という氏の声が聞こえてきそうですが笑、とにかく珍しい。かつ面白いものはしょうがない。#友川かずき
愛唱歌 音楽CD ソリッド揖斐是方
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アン・ボー・マタン/アレスキ ブリジット・フォンテーヌ ジャック・イジュラン
1970年発表のファースト・ソロ。サラヴァ・レーベルのピエール・バルー人脈での重要人物であり、フォンテーヌ、イジュランとのコラボレイションはあまりに有名な鬼才がこのアレスキです。本作はジャケットが示す通りのアシッド・サイケデリック・ミュージックとして語られるべき異色の作品だと思いますけれども、あまりそういう話は聞きません。声とパーカッションがメインの、極めて静謐な印象を与える作風。スピリチュアル・ミュージックの最高峰と帯には書かれています。音数はとても少ないアルバムなのですが、妙にイマジネーションを掻き立てる異色作です。#ジャック・イジュラン #ブリジット・フォンテーヌ
サイケデリック/アシッド 音楽CD オーマガトキ揖斐是方
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ゴースト・ダンス/マイケル・ジャイルス、ジェイミー・ミューア、デヴィッド・カニンガム
元フライング・リザーズの鬼才、カニンガムと、元キング・クリムゾンの二人、ジャイルズとミューアが組んで 製作した映画のサウンド・トラック盤です。1995年の発表。この顔合わせならば、ほぼ間違いないと思って聴いてみたのですが、期待値が高かったのか、そうでもなかった笑。硬質で冷たいインプロビゼイションが続くのですが、もしもこれが70年代のうちにアナログで録音されていたなら、その時代性やミュージシャンたちの才気の点で、さらに良くなっていたのではと思われます。ミューアとカニンガムの奔放さを、ジャイルズが制御し過ぎている印象。ただし、太陽と戦慄の冒頭そのもののミューアのパーカッションなどは堪能できるのですが。#kingcrimson #flyinglizards
映画音楽 実験音楽 音楽CD voiceprint揖斐是方