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角川書店 角川文庫 壺中美人
昭和五十一年七月三十日 初版発行
発行所 株式会社角川書店
昭和32年(1957年)に雑誌「週刊東京」に掲載された短編「壷の中の女」を、昭和35年(1960年)に長編化した横溝正史の長編小説「壺中美人」。
東京の高級住宅街・成城で、陶器蒐集で有名な画家が自宅のアトリエで何者かに殺害された。等々力警部の要請で現場に赴いた金田一耕助は、その家に大きな陶器の壷が置かれているのを見る。それは過日、等々力警部と一緒にテレビで見た“壺中美人”と称する曲芸で使われた壷とそっくりだった...
「支那扇の女」や「悪魔の百唇譜」と同じく、横溝正史が居住していた成城の町を舞台にした作品ですね。地方を舞台にした骨太な本格派の作品と異なり、東京を舞台にした作品では都会人の爛れた人間関係の縺れが事件の引き金となっているパターンが多いのですが、この「壺中美人」もこの時代ではタブー視されていた性癖を持つ人間が引き起こす、色と欲に塗れた事件です。横溝のこの手の作品では下種な人物がよく登場しますが、この作品では被害者・加害者共にまさにそれで、その下種さは横溝作品トップクラスといっても過言ではありません。本書には表題作の他に「廃園の鬼」が併録されています。こちらは信州を舞台にした作品で、戦後横溝の代表作の一つである「犬神家の一族」に登場した橘署長の再登場がファンには嬉しいところです。角川文庫には昭和51年(1976年)に収録されました。
画像は昭和51年(1976年)に角川書店より刊行された「角川文庫 壺中美人」です。身をよじらせ、壷の中に入らんとするチャイナドレスの女。まさに曲芸“壺中美人”を描いた表紙画ですね。勘の鋭い方はこの表紙画を見てどこか違和感を覚えるかと思いますが、物語を読めばその違和感の正体が判明します。こちらも本屋の文庫本コーナーに“緑三〇四シリーズ”の横溝作品が所狭しと並べられていた頃、目を惹いた表紙画の一つでした。
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