角川書店 角川文庫 貸しボート十三号 第1期

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昭和五十一年三月五日 初版発行
発行所 株式会社角川書店

昭和32年(1957年)に雑誌「別冊週刊朝日」に掲載された短編を、昭和33年(1958年)に中編化した横溝正史の中編小説「貸しボート十三号」。
浜離宮公園沖に流れ着いた貸しボートの中で発見された、男女の惨殺死体を巡る謎を描いた作品ですね。どちらも途中まで首が挽き切られた状態であった、世にも惨たらしいその死体。「妙に安定をうしなったふたりの首が、ボートが動揺するたびに、ガクン、ガクンとうなずくように動くのが、ギリギリと歯ぎしりがでるような空恐ろしさであった」という描写がその惨絶さを物語っていますが、その後の展開は横溝作品では珍しい、大学のボート部を主体にしたものとなり、部員たちの深い友情が故に複雑化してしまった事件の真相の、青春譚みたいなどこか爽やかな読後感はちょっと意外でした。
本書には表題作の他に「湖泥」「堕ちたる天女」の中編2編が併録されています。岡山の山村を舞台にした「湖泥」では金田一の良き協力者として磯川警部が、そして、東京・浅草を舞台にした「堕ちたる天女」では何と磯川警部が上京し、金田一の東京での良き協力者である等々力警部と夢の共演を果たします。角川文庫には昭和51年(1976年)に収録されました。
画像は昭和51年(1976年)に角川書店より刊行された「角川文庫 貸しボート十三号 第1期」です。不吉なナンバー“13”の数字が入ったボート上に残された緑色のレインコート。レインコートの下には大量の血痕があり、死体こそ描かれていないものの、それが却って不穏な余韻を残しています。

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