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ALGULAR 135mm F3.2
オランダのOld DelftがスイスのAlpaカメラ向けに供給した望遠レンズです。Alpa用の望遠レンズには,ピントあわせのためのヘリコイドを汎用ヘリコイドとしたものがいくつかあり,Alpa Alnea mood. 4以降のカメラ向けの汎用ヘリコイドはEXTENSANと呼ばれます。このレンズもEXTENSAN仕様です。Alpa用の135mmレンズは開放F値が3.5のSchneider製のTele-Xenarは比較的よく見かけますが,Algularは珍しいほうだと思います。 アルパブックによると製造期間は1954年から1959年で実絞りの前期型が579本,プリセット絞りの後期型が704本生産されたということです。後期型はOld Delft製ではなく,スイスのスペクトロス社によるOEMでした。そのため前期型はMade in Holandの刻印がありますが,後期型はMade in Switzerlandとなっています。前期型と後期型の違いは絞り環の色で,前者は黒,後者は銀です。EXTENSANの距離環も銀色なので後期型は黒い鏡筒に銀色のストライプがたくさんはいっていて落ち着かない感じがします。 Old DelftのAlpa用レンズは38mmと50mmがテッサー型,180mmが逆テッサー型なので135mmもテッサー型かと思いきや,全然違うレンズ構成で前群から1+2+2の3群5枚です。後群が両凹レンズ構成なら普通のテレフォト構成と言えるのでしょうけれども,なぜか後面が凸レンズになっています。2つの張り合わせレンズ(第2群と第3群)は径は違いますが対称型ダブレットを構成していて,1905年にドイツのEmil Busch社が発売した望遠レンズであるBis-Telarを踏襲しています。Algularはそのbis-telar型の2群4枚構成の前群に1枚追加した構成であり,DallmeyerのStigmaticという20世紀はじめの古典的なレンズ構成とほぼ同じ構成になっています。135mmであればゾナーでもテッサーでもいかようにでも作れたはずですし,テッサー型ならばこれまでのレンズで十分な実績があったはずです。それなのに,135mmだけが,どういうわけかStigmaticという石器時代の(といってもよいくらい古い)レンズ構成を採用しているのです。 カタログでは軽さを強調していたらしいのですが,確かに270gしかなくて見た目よりもずっと軽く感じます。ガラスの塊みたいなゾナーに比べればかなり軽いことは間違いありません。Old Delftの常識の斜め27度あたりを狙ってくる発想は謎めかしいのですが,不思議なレンズです。 このレンズもOld Delftの他のAlpa用レンズと同様にとても数は少なくてレアな割には流通価格はたいした金額ではありません。日本では海外と比べてもより人気がないのかeBayよりもずっと低価格であるように思います。 手元の個体は写真からわかるとおり,EXTENSAN部分以外は真っ黒な鏡筒の実絞りの前期型です。EXTENSAN部分はレンズから完全に分離できることもわかると思います。また,5枚目と6枚目からわかるとおりEXTENSAN部分のヘリコイドはかなり伸びます。 #レンズ #MF #Old_Delft #Alpa #135mm #F3.2 #望遠 #単焦点
MFレンズ Alpa Old DelftMOR
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TELENAR 13.5cm F5.6
Roeschlein KreuznachはStefan Roeschlein氏によってドイツのBad Kreuznachに1948年頃に創立された光学機器メーカーです。1964年にこの会社は現在のSill Opticsに売却されていますので,実質的な活動期間は15年あまりだったと推察されます。創立者のStefan Roeschlein氏はMeyer-Optik Görlitzにおいて光学技術者としてPrimoplanやTrioplanなどの現在でもたいへん有名なレンズを設計した人物です。1948年,60歳になって一念発起して自らのレンズメーカーを立ち上げたのでしょうか。60歳で会社を立ち上げ,自ら光学設計をしてレンズを製造する,というのは普通に考えて相当なエネルギーが必要なはずです。それをやってのけたというのはとてもエネルギッシュな人物だったのかもしれません。 このレンズはRoeschlein KreuznachがPaxetteの第二世代のカメラ(39mm径のねじ込み式マウントをもつレンズ交換式カメラ)のために供給したものの一つです。Roeschlein Kreuznachが作ったレンズの種類はそれほど多くはなく,いずれも比較的廉価なカメラ向けの小型のものが中心であったように見えます。135mmのTelenarも開放F値が5,6という当時としても暗いレンズですが,そのかわりに手のひらに収まるほどで非常にコンパクトです。レンズ構成や発売時期などの情報は私がネットを検索した範囲では何も見つけることができませんでした。この個体はレンズ銘に-E-がつかない距離計に連動しないタイプです。また,銘板に刻印された焦点距離もmmではなくcm表記ですので初期に製造されたものだということは予想できます。レンズ交換式の最初のPaxette IIの発売が1952年なので,この個体も遅くても1950年代の前半には市場に供給されていたはずです。 Roeschlein KreuznachのPaxette用レンズはいずれも小型化を優先して,ある程度(というか,かなり)収差を残したまま製品化したようなところがあって撮り方によってはボケが大暴れするような印象です。しかし,収差の暴れ方の再現性がよくわからず,たまに普通に写ったりして安定性というか一貫性がなく,コントロールが難しそうです。なんだか開発途中で投げ出しちゃったんじゃないかと思うくらいですが,見慣れてしまえば普通に見えてきます。現代のレンズとは対極にあるレンズと言えるかもしれません。この個体も例外ではなく,収差が多く残っており,いくらピントを合わせてもあってるのかどうかわからないくらいに滲みます(光路の調整が正しくない可能性も濃厚ですのでなんとも言えませんが)。しかしRoeschleinのレンズとしてはこれが普通だったのかもしれません。絞り環のねじ込み位置がおかしいようで絞りの指標と目盛があっておらず設定している絞り値がよくわからない,という問題はありますが,とりあえず写真を撮るには問題はありません。 撮ってみると,もちろんピント面でもあまり解像していません。そもそも高画素のカメラで撮って等倍で見るようなものではありません。しかし,普通に鑑賞する分にはなぜか解像感や立体感があるように錯覚してしまうのです。戦後すぐまでのCarl Zeissのレンズのような見るものを引き摺り込むような説得力はもちろんないのですが,こと自然さ,という点では意外にも相通じるものがあるように思います。 このレンズによる作例は https://mor-s-photo.blogspot.com/search/label/TELENAR%201%3A5.6%2F13.5cm に置いています。 #レンズ #MF #TELENAR #M39 #Roeschlein_Kreuznach #Paxette #135mm #F5.6 #望遠 #単焦点
MFレンズ Paxette M39 Roeschlein KreuznachMOR
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KONISHIROKU HEXANON 1:3.5 f=135mm
コニカはなぜか135mmレンズに力を入れていて,コニカFマウントでF2.8とF3.5,ARマウントでF2.5, F3.2, F3.5をリリースしていました。すべてのレンズが同時に販売されていたわけではありませんが,それにしても力が入っていたと推察されます。フィルムの一眼レフ時代,特にその黎明期には,セットレンズとして標準レンズがついてきて,交換レンズが欲しい,となると多くの人は望遠レンズとして135mmを求めたように思われます。200mmほど大仰ではなく,85mmや100mmでは望遠レンズとしてちょっと物足りないと言うか,損をしたようなそんな気分があって135mmが求められたのではないかと想像します。そのため小西六が135mmに力を入れた,というのはもっともな話です。 コニカFマウントの135mm F3.5は1962年頃に登場します。ネット上にはFSとともに登場したと書かれているサイトがありますが,FSは1960年の終わり頃の登場なのでちょっと辻褄があっていません。F3.5は最初に最小絞りがF16の自動絞りのものが登場し,その後,FPの登場とともに最小絞りがF22のプリセット絞りのものが登場したようです。ARマウントに移行したのちも,プリセット版とEE版として継続し,その後,Autoreflex T2の頃に135mm F3.2に置き換えられます。 コニカFマウントの135mm F3.5は52mm F1.8ほどではないにしても,よく見かけます。多くのユーザーが標準レンズの次のレンズとして135mmを選んだのでしょう。コニカFマウントの廉価版レンズは52mm F1.8, 135mm F3.5, 35mm F2.8の3本だけだといっても大筋では間違いがないと思っていますが,前二者は多く見られるのに35mm F2.8はかなり少ないということからも3本目のレンズを求める人は多くはなかったものと想像されます。 手元の個体は最小絞りがF22のプリセット絞りバージョンです。コニカは自動絞りのレンズの場合,絞り羽根は6枚ですが,プリセット絞りの場合は倍の12枚羽根でほぼ完全な円形を維持しながら絞り羽根が閉じていきます。望遠レンズとしてボケが大きいことを考えると,これはこれでよいですし,ミラーレス時代にあっては自動絞り機構がレンズについているかどうかはどうでもよいのでむしろプリセット絞りのほうが良かったりします。何がよいのか,というのは,その時の最善のものが将来にわたって最善とは限らない,というなんとも皮肉なことで,色々と考えさせられます。 #レンズ #MF #Hexanon #KonicaF #Konishiroku #135mm #F3.5 #望遠 #単焦点
MFレンズ Konica F KonishirokuMOR